2025年10月27日、タイ・バンコクで開催されたBIR(世界リサイクリング会議)のプラスチック部門において、世界各地で続くリサイクル市場の厳しい現状と、それに対する規制・政策・企業の取り組みが議論された。
プラスチック部門の全体会議では、オランダに拠点を置くINVIPLAST社のCEOでありBIRプラスチック部門の会長を務めるHenk Alssema氏が、世界各国のプラスチックリサイクル業界の厳しい市場状況について説明した。Alssema氏によると、米国・中東では使い捨てプラスチック規制の強化や循環型経済への投資が進み、リサイクル市場の拡大が期待されている。ヨーロッパでは、2025年時点で約100万トン規模のリサイクル能力が稼働しており、医療用プラスチックやポリマーを中心に成長。ただし、原油価格の低迷によりリサイクル材の競争力が低下し、コスト面での課題が残っているとのこと。
一方、アジア市場では価格の不安定さが顕著で、リサイクル材料のコストが新材に比べ高く、企業の採用意欲を抑制する傾向がある。政策面でも、欧州は2026年からリサイクル素材使用企業への財政インセンティブを導入するのに対し、インドでは最低再利用率の法律が延期されるなど、地域間で大きな差がある。
Alssema氏は発表の締めくくりに「プラスチックリサイクルの状況はどこも同じ。バージン樹脂は安価で、リサイクル材の利益は圧迫されている。多くの人は『この業界に未来はない』と思いがちだが、私は逆だと考えている。物事が崩壊するときこそ、新しいアイデアが芽生える」と述べ、リサイクル産業無くして循環型経済が成立しないことを強調した
続いてタイに拠点を構えるUnion J. Plus社のPatcharin Thamasirianunt氏が発表。Union J. Plus社は廃プラスチックの選別・再生ペレット製造を手がけ、HDPE、LDPE、LLDPE、PP、HIPS、ABSなど多様な素材を扱っているという。
工場はISO認証を取得し、QCラボや太陽光発電、再生水利用などでサステナブルな運営を実現。現状では3ラインで年間約2万トンを生産し、そのうちの6割が国内市場向けとなり、残りは欧州やアジア向けに輸出されている。家庭用品向けでは、リサイクル材の利用比率は25〜30%に達している。
Thamasirianunt氏は「高品質リサイクル材の安定供給とコスト競争力の確保が今後の課題」と語る、消費者やブランドの認識向上も重要なテーマであり、プラスチックリサイクルの普及には政策と市場双方の支援が不可欠であると強調し、発表を締め括った。
Union J. Plus社の発表の後は、発表者とパネラーで議論がなされた。本議論では最初に、香港のGreencore Resources Limited社CEOであるMax Craipeau氏が、「現在の市場を『低迷』や『不況』と表現するのは控えめすぎる」と述べ、状況の深刻さを指摘した。現在、世界のリサイクル市場は、バージン樹脂の価格低迷や経済成長の鈍化により深刻な低迷状態にある。
さらに、ヨーロッパ、アジア、アメリカの閉鎖を合計すると、この能力喪失は1年で100万トンに達する可能性があると説明した。特に影響が大きいのはPETよりも、PPやPEなどのポリマーであるという。
能力喪失の最大の原因として、Craipeau氏は「原油価格の低迷」を挙げる。原油価格が低ければバージン樹脂が安価になり、ユーザーは再生材を選ぶインセンティブが減る。実際、現在ヨーロッパやアメリカでは、バージンPETが1トンあたり約800ドルで取引される一方、再生PETはその倍近くになることもある。この価格差が、リサイクル材の使用拡大を妨げている。
一部では、インドネシアやマレーシアからのPET輸入がヨーロッパのリサイクル工場閉鎖を招いたと指摘されてきた。しかしCraipeau氏は「統計的に誤り」と反論する。インドネシアとマレーシアからのヨーロッパ向け輸出は平均6万トンで、ヨーロッパ全体のPETリサイクル能力(約200万トン)のわずか2%に過ぎない。むしろ、原料不足が工場閉鎖の主因だという。
Recycling EuropeのOluvier Francois会長は、失われた能力を取り戻すことは非常に難しいと指摘。回復には再生材需要の増加が不可欠で、それは新たな規制によってのみ実現できると述べた。クCraipeau氏も、法令遵守の徹底が必要と強調。し、「現在の問題は執行の欠如。規制があっても守られなければ意味がない」と語った。
EUではリサイクル業者支援の方針が示され、フランスは2026年1月から再生材を使用する企業に経済的インセンティブを付与する制度を導入予定。他国の模範となる可能性がある。中東では、使い捨てプラスチックの禁止や循環型経済の推進により、市場の成長が期待されている。発展途上国でも、インドなどで最低再生材含有率の法制度導入が予定され、規制強化の動きが見られる。
BIRの貿易・環境政策担当官Bianca Mannini氏は、国連「グローバル・プラスチック条約」の交渉状況を報告。8月のジュネーブ会合では合意に至らなかったが、プラスチック汚染への緊急性認識は高まっている。ライフサイクル全体に法的拘束力を持つ条約を求める国と、廃棄物管理に範囲を限定し任意の取り組みに留めたい国との間には依然として溝がある。次回交渉は12月、ケニア・ナイロビにて開催予定で、強力な条約への期待が高まっている。
IRuniverse取材チームは、会議2日目のランチタイムにプラスチック部門で発表を務めたタイのUnion J Limited社Patcharin Thamasirianunt氏に直撃インタビューを務め、タイのプラスチックリサイクルについての詳細を伺った。
Q. タイにはプラスチック分別・リサイクルに関する法律はありますか?
A. 現時点では法律はありません。ただし、プラスチックごみ削減や資源循環を強化する取り組みは進められています。当社では、ゴミから選別された廃プラスチックして購入し、リサイクル原料として利用しています。
Q. 分別の責任は誰が担っていますか?
A. 分別の責任は各地方自治体にあります。国としては、民間企業と自治体が協力してリサイクルシステムを構築する試みを進めており、2027年までには使い捨てプラスチック削減やEPR(拡大生産者責任)制度の導入が計画されています。

街中を歩くと、バンコクでは普通ゴミと資源ゴミのゴミ箱が分けられ、住民が分別を意識している様子が見られた。一方で、資源ごみには缶やペットボトルが混在しており、分別後の選別作業の重要性が改めて浮き彫りとなった。
世界のプラスチックリサイクル市場は依然として厳しい状況にあるものの、政策支援と企業の努力により、循環型経済への道筋は確実に形を取りつつある。
市場の逆風の中で前向きな姿勢を示し続ける業界の姿勢に、筆者は強い希望を感じた。原料価格や採算性といった課題は大きいが、規制・政策・技術革新が交わることで、リサイクル産業は新たな段階へと進化する可能性を秘めている。
(IRuniverse Midori Fushimi)