2025年11月18日から20日にかけて、愛知県産業労働センター(ウインクあいち)にて「第66回電池討論会」が開催された。電池討論会は、電気化学会電池技術委員会が主催しており、講演会だけでなく企業・自治体・研究機関による展示も行われ、産学官の参加者が活発に交流する場として広く認知されている。
大同メタル:異種材料張り合わせ技術をリチウム電池向けドライ電極シートへ応用

毎年電池討論会に出展している大同メタル工業株式会社は、すべり軸受の総合メーカーとして創業し、鉄と金属の配合技術を核にエンジン周辺部品の製造を手がけてきた。ロケット・航空機から家電製品、生活環境機器、発電プラント、自転車に至るまで、幅広い領域で社会インフラを支えてきた実績を持つ同社は、長年培ってきた異種材料貼り合わせ技術を活かして20年以上前から二次電池・キャパシタ用電極シートの製造にも展開しているという。
同社が製造するドライ電極シート(自立膜電極シート)「デルエコー」は、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタの正・負極に使用されている。アルミ箔に活性炭シートを接着する工程において、自動車や船舶向けの軸受量産技術で培った成形・圧延・接着の知見を応用し、高密度かつ高精度な電極形成と耐久・信頼性の確保を両立させている点が特徴だ。
電極シートは活物質層、接着層、集電体層の三層構造から成り、この界面を均一に貼り合わせることは製造上大きな難易度を伴う。大同メタルはPTFEなどをバインダーに用いたドライプロセスによる量産体制を確立し、安定した生産を長期にわたり継続している。ドライ電極シートの量産を自社で実現している国内企業は多くないとされ、同社の独自性を示すポイントになっている。
「ウェット電極は乾燥工程で時間とエネルギーが必要でコストがかかるだけでなくCO2排出も問題になる。ドライ電極では材料の選択肢が多く、電池以外の半導体向け純水装置にも応用している、これまで培ってきた技術を別事業に活かせるのが大同メタルの強み」と担当者が語るように、同社の歩みを見ると単なる事業領域の拡張ではなく、長年鍛え続けてきた“材料・製造の基盤技術を社会ニーズとともに進化させてきた点が大きい。EV化の加速や蓄電デバイスの需要拡大が確実視される中で、こうした企業姿勢が次の成長の鍵を握ることを改めて感じる。
三菱鉛筆:鉛筆メーカーの混錬技術が電池性能を支える


色彩商標にも登録されている鉛筆“uni”は約半世紀にわたるロングセラー商品で、この鉛筆を製造する三菱鉛筆株式会社は、筆記具メーカーとして確固たる地位を築いてきた。一方で同社は、ボールペン・サインペンのインク開発で培った分散技術、さらにシャープ芯や鉛筆芯の開発で培った焼成加工技術といった、粉体の均一化や炭素材制御に関する技術を電池分野へと応用している。
たとえば、同社は鉛筆・色鉛筆開発で培った「粉を練って芯にし、その性能を評価する」混錬技術や品質安定化技術を応用してドライ電極の開発を進めており、現在はドライ電極を用いたセル設計が可能なパートナーを探しているという。
同社は電池討論会の展示ブースによる技術紹介にとどまらず、「固体芯の混錬技術を応用した溶媒フリードライ電極の検討と電池評価」というテーマでリチウムイオン電池の正極分野に関する発表も実施し、コア技術の存在感を積極的に打ち出した。同社にとって電池関連事業は異業種参入の領域に当たるが、既存事業で磨き上げてきた専門技術を基盤に新産業へ踏み出すアプローチは、製造業の技術転換モデルとして興味深い。
電池討論会のブース見学を通じて強く感じたのは、各社がこれまで培ってきた独自のものづくり技術を電池産業へと巧みに橋渡しし、日本の電池市場の裾野を確実に支えているという点だった。大同メタル工業株式会社が軸受分野で磨き上げた成形・圧延・接着の技術をドライ電極に応用したように、三菱鉛筆は筆記具開発で築いてきた分散や焼成、混錬のノウハウを電池用材料へと発展させている。両社の取り組みは「異業種からの参入」という表面的な分類では捉えきれず、長年蓄積してきた核技術が新しい産業領域を切り開く力を持ちうることを示しているように思われた。
国内メーカーはしばしば保守的と評されがちだが、基盤技術を研ぎ澄ませ続け、その延長線上で社会環境の変化に応じて事業領域を拡張していく姿は、むしろ日本の製造業が本来持つ強さを体現しているように思われる。世界的に電池産業の競争が激化するなかで、既存技術を新分野へ横展開し、さらにそこから新たな技術革新を生み出すアプローチこそ、日本のものづくりの真髄と言えるのではないだろうか。
過去にエンジニアとして開発現場に携わってきた立場から見ても、こうした「技術をただ守るのではなく、応用し、発展させ、次の価値へつなげていく」姿勢は、日本の製造業の大きな競争力であり続けるはずだと感じる。電池産業という新たな成長市場を舞台に、独自技術をもとに挑戦する国内企業の動きは今後ますます重要性を増していくと考えられ、引き続きその展開を注視していきたい。
(IRuniverse Midori Fushimi)