今年2025年のステンレス業界をふりかえったときに思い出すトピックスは何だろうか?
おそらくは最初に、日本政府が中国、台湾のステンレス鋼材にAD(アンチダンピング)調査を開始(25年7月22日から26年7月まで)したことがあげられるだろう。あとは日本ステンレスが親会社の日本製鉄に吸収されたこと、国内需要がぱっとしないなかでも輸入鋼材はハイレベルで推移したこと、があげられるだろう。
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輸入ステンレス鋼材へのAD関税は実施されるのか?かけるべきは鋼材なのか?加工品なのか?
日本製鉄ステンレスチーム 原料購買体制は日鉄ステンレスと当面はほぼ変わらず
まず、鋼材輸入の状況は以下の通り。今年2025年は1~10月までの輸入量が263,101トンで前年比106.7%増、となっている。この増加率で25暦年の輸入予測をはじくと324,044トン、となる。しかし私見ではあるが、この予測値をも超え、過去最高を更新するとみる。
なぜか?
その原因はずばり言って日本製鉄の値上げ、高値維持政策に尽きる、といってよい。
実際「日鉄の値上げが発表されるたびに輸入鋼材のオファーが増え続けている」と、さるステンレス鋼材の扱い問屋、コイルセンターはいう。
| 期間 | 区分 | 輸入量(トン)*線材含む合計 | 備考 | |||
| 2025年(暦年) | 見通し | 324,044トン | *1~10月までの累計前年比からの予測(前年比106%増) | |||
| 2024年(年度) | 実績 | 305,702トン | ||||
| 2024年(暦年) | 実績 | 313,380トン | - | |||
| 2023年(年度) | 実績 | 254,420トン | - | |||
| 2022年(暦年) | 実績 | 333,525トン | 暦年ベースでこの時点での過去最高 | |||
| 2021年(年度) | 実績 | 293,464トン | ||||
| 2020年(年度) | 実績 | 約25万トン* | - |
為替の円安により、輸入鋼材の日本到着価格も多少は上がってきた。とはいえ、国産のキロ当たり520~530円(304冷延コイル2B、コイルセンター販売価格)のキロ当たり80~120円マイナスが輸入鋼材の平均価格。つまり韓国のポスコ、現代BNGなどの輸入品が440円前後、インドネシア青山、ベトナム/ヨンジン品が400円前後、である。
(ここ3年間の国内ステンレス鋼材価格の推移 YEN/kg)


(ここ3年間のアジア地区の304/2Bコイル価格の推移 $/ton)
日本製鉄は12月の店売りも値上げとし、3か月連続の値上げとした
https://www.iru-miru.com/article/79592
輸入鋼材のトップはかつて韓国だったのがいまは中国。現在のAD調査は26年3月には課税実施、となる見込みだが、それがいかほど日本のステンレス産業全体にメリットがあるのかは計り知れない。日本製鉄のステンレス生産は増加に転じるのだろうか?
ADをかけても、現在がそうであるように、ベトナム、インド、マレーシアからの輸入が増えている。結局はいたちごっこ、というべきか?むしろ、日本国内のステンレス鋼材価格をある程度、輸入抑止力のある、あるいは競争力のある価格まで「調整」することのほうが長い目でみれば効果が見込めるのではないかと思う。
実際、市中実勢では最近まで(12月まで)、大手コイルセンターの値下げ競争が活発化していた。12月に入り、阪和工材、リンタツは来年1月から鋼材出荷価格のキロ10円上げを発表した。しかしこれも現状、上がるのは5円程度で、それが浸透するのは3月以降、だとささやかれている。ステンレスミルの値上げ幅からするとまったく少ないが、現実の市場では、強い需要がないだけに、売るのに苦労をしている、というのが実情。
ステンレス鋼材はこの1年を通して、これといった需要の伸びがなかったこともトピックスのひとつ。唯一、半導体産業向けの精密部品は底堅く推移していたが、インフラ、建築系は厳しかった。ただ、来年は高市政権が投資を増やす、と明言していることからステンレス需要も上向いていくのではないかと業界は期待している。
実際、さる大手コイルセンター幹部は
「来年(2026年)は、引き続き半導体関連、造船向けは好調をキープしていくだろうし、すでに建設関係も受注が増えている。来年は今年(2025年)のようなことにはならないだろう」と来年のステンレス鋼材需要は増える、と予想している。
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世界のステンレス市場では、今年1~9月の生産量は下図の通りで、全世界では前年比3%増の4800万トン。欧州はマイナスながら、米国、中国はプラス。アジアはインドネシアの貢献でプラスとなっている。

(WorldStainless)
2024年の世界のステンレス粗鋼生産量は、前年比7%増の6,262万トンとなり、過去最多を更新した。2025年も引き続き増加傾向にあり、第3四半期(1〜9月期)までの累計生産量は前年同期比3.0%増の4,802万トンに達している。
地域別・国別動向(2024年・2025年)
- 中国: 世界最大の生産国であり、2024年には世界全体の約63%にあたる3,940万トンを生産しました。2025年第1四半期も前年同期比5.9%増と拡大を続けている。
- 日本: 2024年の生産量は約204.6万トンで、前年から5.0%増加したが、25年は減少に転じるだろう。
- 欧州: エネルギーコストの上昇などの影響を受け、2025年4〜6月期には前年同期比で唯一減少(他の地域は増加)するなど、停滞傾向が見られる。
- 米国: 2024年第1四半期に前年同期比9.0%増を記録するなど、好調な伸びを見せた。
今後の展望
今年の2025年における世界のステンレス市場の景気は、全体としては緩やかな成長が予測されており、特にアジア太平洋地域がその成長を牽引している。
複数の市場調査レポートに基づくと、主な動向は以下の通り。
全体的な市場予測
- 市場規模の拡大: 世界のステンレス鋼市場は、2025年に向けて適度なペースで成長し、今後も年平均成長率(CAGR)**4.79%〜5.0%**程度で拡大し続けると予測されている。
- 背景となる需要:
- 建設・インフラ: 世界的な都市化の進展や、老朽化したインフラの更新プロジェクトが増加しており、耐久性・耐食性に優れたステンレス鋼の需要を押し上げています。特にグリーンビルディング(環境配慮型建築)市場での需要拡大が期待されている。
- 自動車・輸送機器: 軽量化と高強度化のニーズから、自動車分野、特に電気自動車(EV)関連でのステンレス鋼の採用が拡大している。
- エネルギー・工業: 石油・ガス、化学、発電所などの重工業分野からの安定した需要がある。
地域別の景気動向
景気動向には地域差が見られる。
- 成長を牽引するアジア太平洋地域 (APAC):
- 中国は建設・グリーンエネルギープロジェクトの活況を背景に、堅調な成長(5.3%増)が予測されているが、実態景気は悪化しており、実際はこの通りではないとみる。
- その他のアジアもインフラ投資の増加により、高い成長率(6.5%増)が見込まれており、世界の需要を牽引する中心地となっている。ベトナム、インドネシア、そしてインド。
- 先進国の動向:
- 欧州・アフリカ: 欧州では、製造業の生産低迷や、棒鋼製品の需要減少など、2023年からの課題が継続しており、市場の伸びは鈍い。さらなる減少が見込まれる。
- 南北アメリカ: 比較的緩やかながらも着実な成長が見込まれている。
主要な課題とリスク
市場の成長が見込まれる一方で、以下の課題が市場景気に影響を与えている。
- 原材料価格の変動:
- ステンレス鋼の主要原料であるニッケルや鉄鉱石などの価格変動が依然として大きく、これが生産コストや最終製品の価格に影響を与え、業界の収益性の主要な制約要因となっている。
- 代替材料との競争:
- アルミニウム、炭素鋼、複合材料などの代替製品が、軽量性やコスト面で競争力を増しており、特に一部の用途でステンレス鋼の採用を妨げる可能性がある。
- 環境規制とコスト:
- 世界的な脱炭素化と環境規制の強化は、長期的に持続可能な製造プロセスへの転換を促すものの、短期的には環境対応投資による生産コストの増加要因となる。
全体として、2026年~2027年の世界のステンレス市場は景気回復・成長基調にあると評価できるが、その勢いはアジア地域が中心であり、原材料価格の安定性や地域ごとの需要回復のばらつきが今後の鍵となる。
この成長の背景にある技術革新や二相(デュプレックス)ステンレス鋼の採用増加などがあげられる。先進国ではこの二相系、クロム系、特殊合金を主とした付加価値の高い特殊鋼的なステンレス生産に傾き、APAC地域がコモディティー化した300系を中心に伸びていく。
そして、原料面では脱炭素戦略、規制によりバージン原料、ニッケル銑鉄よりもスクラップが好まれる傾向がなお強まり、スクラップの需給は年々逼迫していくと予想される。全世界ではおよそ2500~3000万トンのステンレススクラップが流通していると推計されている。
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(IRUNIVERSE YT)