2025年の日本の鉄鋼業界は明るい話題が少なかったが、そのなかできらりと光るものも何点かみられた。引き続き日本の鉄鋼業界は縮小均衡を進めていくと思われるが、グリーン素材の代表としてどう活路を見出していくのかがキーポイントとなろう。
1.日鉄のU.Sスチール完全買収
日本製鉄(本社:東京都千代田区)は2025年6月18日、米鉄鋼大手のU.S.スチールの普通株式を1株55ドルで100%取得。北米日本製鐵を通じて完全子会社化した。
https://www.iru-miru.com/article/76067
買収金額は142億ドル(約2兆円)で、債務をふくむ取引総額は約149億ドルとされ、鉄鋼業としては世界的にも最大級のクロスボーダーM &Aとなった。
買収により日鉄は、自動車鋼板や高級鋼を中心に北米での生産拠点と顧客基盤を一気に拡大。「総合力世界No.1」の鉄鋼メーカーを掲げるグローバル戦略の中核として位置付けている。
https://www.dbj.jp/topics/dbj_news/2025/html/20250918_206177.html?utm_source=perplexity
一方で設備の老朽設備への対応・環境投資・労組との関係改善が浮き彫りとなった。
2.東鐡の電炉鋼材 トヨタが採用
東京製鉄(本社:東京都千代田区)は25年11月、「トヨタ自動車が生産する複数車種に当社鋼材(熱延鋼材・酸洗コイル)が採用された」と公表した。
https://www.iru-miru.com/article/78577
製造時CO2排出量は約400kg/トンとされ、従来の高炉由来鋼板の約5分の1レベルと説明。自動車用として開発された「車用電炉材」と位置づけている。
https://www.seaisi.org/details/24754?type=news-rooms&utm_source=perplexity
東京製鐵は従来、建築向け形材・棒鋼が中心であったが、自動車向け薄板市場に電路で本格参入する足掛かりをえた形で、国内スクラップ循環を軸にした「グリーンEV鋼板」ビジネスを25年度から量産・供給する。
https://www.decarbonation-tech.com/vehicle_2000/?utm_source=perplexity
3、政府アンチダンピング(AD)調査要請 韓国・中国に
8月、日本政府は韓国・中国産の溶融亜鉛めっき・鉄鋼に対するアンチダンピング調査開始を公表した。また、7月には中国および台湾などからのニッケル系ステンレス冷延鋼帯・鋼板についてもAD調査を開始しており、鉄鋼一次製品を巡る日本のAD提訴・調査としては初のケースとなる。また日本鉄鋼連盟も不公正輸出の是正に向けたコメントを発表した。
https://www.iru-miru.com/article/76531
4.建設需要低迷、働き方改革で
「24年問題」以降、短期的に残業規制と施工能力の低下で建設能力が低下。受注抑制や工事遅延のために、小型鉄棒などの建設鋼材の需要が「低迷長期化」した。
https://www.iru-miru.com/article/75850
中期的には省人化と工法転換による需要の質変化が起こると予想される。建設現場は人手不足や週休2日制を受け、鉄筋プレキャスト化・ユニット鉄骨・合成スラブなどへの省工法への転換を進めている。資材の総量として伸びは少ないが、加工業者の収益構造や設備投資にニーズを与えている。
長期的には労働環境が需要の下支えとなる要因になる可能性もある。働き方改革と建設業法改正による賃金是正や休日などの労働条件の改善は、業界への入植者増や離職抑制を通じ中長期的に建設投資を増大させ、鋼材需要の「底」形成に正として働くとの見方もある。しかし、人口減少と住宅需要縮小は不可逆であり、鉄鋼需要の維持と高度化が業界の論点だ。https://www.pref.kagawa.lg.jp/documents/39975/20250414seminar_1.pdf?utm_source=perplexity
5.電炉丸棒、国内需要600万トン割れ目前の588万トン 電炉の新活用と中国ビレット
小型棒鋼(電炉棒鋼)の出荷が戦後最低圏まで落ち込んだ。
https://www.iru-miru.com/article/76338
普通鋼電炉工業会は、25年度の鉄筋用し小型棒鋼の国内向け出荷を588万トンと予測。前年度比5%減。統計開始以来過去最低を3年連続で更新との見込みだ。
4月〜9月実績でも出荷は292万トンと前年同期比7・3%減にとどまり、このまま進めば588万トンすら下回る懸念があり、電炉メーカーからは「600万トン割れ」への警戒感が高まっている。
6、日本製ビレット、東南アジアに活路を見出せるか 中国からの大量流入と域内の対応
一方、明るい話題もある。電炉向け需要が悪くなる局面では、電炉メーカにとって余剰能力を活用してビレットをアジア市場向けに輸出する動機が高まり、「輸出の足がかり」となりうる。
国内電炉需要が落ちると、スクラップを使った電路の稼働率・収益性が低下しやすく、メーカーは余った能力で汎用ビレットを生産し、需要のある東南アジアや中東などに振り向けることができるからだ。東南アジアでは、建設需要はあるが、溶接・圧延設備が不足している国が多く、ビレット輸入に依存する国(インドネシア・フィリピン・タイ・マレーシアなど)がすでにつ中国・ロシアなどから大量に調達しており、日本電炉材も同じ構造に乗りやすい構造だ。
中国ビレットと東南アジア
現状、アジアのビレット輸入市場は、中国高炉材の急増輸出やロシア材など低コスト材が価格指標となっており、指し値はCFRマニラで500ドルを下回ることもあるため、日本高炉材はコスト面でのハンデが大きい
その一方で、中国のビレット輸出は政策(関税・リベート・輸出規制など)の影響を受けやすく、供給が先細る局面では、安定供給と品質を武器にした日本電路のニッチ輸出余地が出やすいと見られる。
日本では脱炭素政策を背景に電炉シフトが進む一方、国内粗鋼需要は長期的に縮小。スクラップ需給と電炉能力のミスマッチが議論されている。国内の棒鋼・形鋼など長材需要が弱含む局面では、電炉ミルが「環境価値の高いビレット」を輸出メニューとして育てようとするインセンティブがあり、アジアでのEAF普及やグリーンスチールふ指向と連動すれば、中長期的な市場開拓の足がかりとなりうる。
競合である中国製ビレット輸出であるが、過剰生産と外需減速を背景に東南アジアへ急速に流れ込み、域内の価格構造と投資マインドを揺さぶっている。特にASEANの圧延ミルや新興製鋼プロジェクトは安価な中国材という「恩恵」と「依存リスク」のはざまで揺れている。中国の粗鋼生産は構造的な過剰状態が続く一方、不動産不況などで国内需要は頭打ちとなり鋼材輸出が再び膨張。この中ビレットなどの「安い半製品」の輸出が25年に前年比2・7倍から3倍に急増。その相当部分が東南アジア向けとされている。
実際、東南アジアではビレット輸入を前提とした「ビレット+圧延」モデルが広がっており、そこへ安価な中国ビレットが大量に流入した結果、現地のミルオファー水準も急速に下落した。その結果、中国ビレットを輸入して圧延に徹する方がコスト的に合理的になり、実際に中国資本が出資したASEANのミルには圧延や加工に特化するモデルも動きはじめており、域内の上流投資インセンティブを弱める要因となっている。
ビレット価格暴落に直面したASAEN各国では、中国ビレットを念頭においたダンピング認定やセーフガード調査を検討する動きも出ている。ビレットは制度上「グレーゾーン」とされることが多かったが、関税・AD税の対象品目をして明示的に組み込むべきだとの議論が強まっている。
また、ASEAN側も長期的には自給率引き上げと中国依存度低減を掲げて新機高炉・電炉計画を進めている。
しかし中国材を一気に締め出すことは、価格高騰や供給不足を招きかねない。関税・数量制限・原産地ルール強化などの線引きを慎重に探っているのが実情だ。https://www.wita.org/atp-research/asean-china-export-surge/?utm_source=perplexity
https://www.oecd.org/en/publications/oecd-steel-outlook-2025_28b61a5e-en.html?utm_source=perplexity
中国からのビレッと流入は、一時的な輸出攻勢にとどまらず、東南アジアの製鋼産業の「型」を変えつつある。OECDや業界団体のシナリオでは、ASEANの粗鋼能力は2030年前後に現在の2倍超まで拡大しうる一方、そのかなりの部分が中国資本を巻き込んだ大型一貫製鉄所や、ビレット輸入前提の圧延プロジェクトとして進むと見込まれている。
過剰能力を抱えた中国と、輸入依存かから脱却したいASEAN。その間を流れるビレットは、目先の原価を下げる「安い半製品」素材であると同時に、長期的な技術選択や投資判断をしばる「身えないひも」でもある。
https://www.seaisi.org/details/24754?type=news-rooms&utm_source=perplexity
日本を含め、各プレーヤーが、この「半製品」の波をどう乗り切るかが、東アジアの製鋼地図を書き換える鍵となりそうだ。
また、来年1月1日から中国が鉄鋼輸出を許可制にすることで、ある程度はアジアでの鉄鋼だぶつきは解消されることが期待される。
https://www.iru-miru.com/article/79583
(IRUNIVERSE Morio)