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2025 SMM APAC 鉛蓄電池産業会議、鉛蓄電池産業の現在・未来――詳報③

2025/12/22 11:03
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2025 SMM APAC 鉛蓄電池産業会議、鉛蓄電池産業の現在・未来――詳報③

2025 SMM APAC鉛蓄電池産業会議(LABC2025、主催:SMM)が2025年12月4日〜5日の2日間、ベトナム・ホーチミン市で開催された。同会議には世界30カ国以上から約300名の鉛蓄電池産業の主要プレーヤーが参加し、ベトナムの主要企業に加えて、世界の鉱石サプライヤー、電池メーカー、エンドユーザーが集結した。会場では、原材料調達、サプライチェーン最適化、持続可能なリサイクルソリューションの構築など、業界が直面する多様な課題について活発な議論が行われた。

本稿では、4日の講演およびパネルディスカッションの内容について紹介する。

 

Global Lead Technologies, Technical Director, Mark Stevenson “Current Status and Future Development Tends of the Global Lead Industry Chain”

Global Lead TechnologiesのテクニカルディレクターであるMark Stevenson氏は、発表の冒頭で1980年に鉛業界へ参入した当時を振り返り、環境規制の強化や技術変化を背景に「鉛は近く不要になる」と繰り返し語られていたと述べた。しかし、44年後の現在も鉛市場に関わり続けている理由について、Stevenson氏は自身を反資本主義者ではなく、データと現場の声を突き合わせて判断するアナリストだと位置づけていると強調。市場は確かに多方面から圧力を受けてきたが、鉛は社会の中で依然として日常生活を支える重要な金属であり、その役割は完全には失われていないと指摘した。

現在、鉛業界において最大の脅威がリチウムイオン電池の台頭である。アジアのバッテリーおよび二次鉛関連会議で共有された分析によれば、リチウムイオンは予測通り鉛蓄電池市場に影響を及ぼし始めている。一方、鉛蓄電池も拡大するエネルギー需要の一部を引き続き担う余地があるという見方が大勢を占めた。価格は足元では大きく動かない「持ち合い」局面にあり、市場には過去同様、複数の要因が同時に作用しているという。

Stevenson氏は鉛市場を読み解く際の焦点は「鉛の過去」ではなく、市場が常に外部から攻撃を受ける脆弱な構造そのものにあると強調する。その上で、業界を理解する起点として、二次鉛を中心とする供給構造、エネルギーコスト、冶金プロセス、そして価格形成のメカニズムを総合的に点検する必要があると説いた。結論としてStevenson氏は「鉛は決して終わった存在ではない」と述べ、冷静なデータ分析に基づく評価の重要性を改めて示した。

鉛の需給見通しは在庫増と価格の引き戻しが続く一方、地域別・用途別には成長余地が残る。太陽光や分散電源の拡大は一部地域で需要を下支えし、インドなどの追い上げも見込まれている。しかしながら、EV化は進むが普及は先送りされがちで、エネルギー貯蔵やUPSなどでは鉛蓄電池の余地が残るという。

発表の後半では二次鉛の地政学、規制、産業の分散性に論点とし、国ごとに法規制が膨大で統一的に語れないこと、インドの非公式セクターなど地域固有の課題を挙げた。さらに2007年ごろのスクラップ高騰を例に、仕様の細分化が在庫と価値毀損を招き、エネルギー高や補助金縮小が収益を圧迫する構図を示した。

Stevenson氏は二次鉛の実態、規制の複雑さ、価値毀損、収益圧迫、認知戦略を直視し、技術ロードマップに基づく継続的改善で“生き残る市場”を取りに行くべきだと締め括った。

パネルディスカッション:「二次鉛市場における資源競争は、世界の鉛産業チェーンをどのように再編するのか?」

モデレーター:SMM Information & Technology, Rock Ding, Consulting Project Manager

パネリスト:
Metal Europe International FZC, Ashwin Phadke, Business Development Manager
Jain Metal Group, Mayank Pareek, Managing Director
Malaysia Non-Ferrou Metals Association, Eric Tan・President
Al Qaryan International DMCC, Jawed Ahmed, CEO & Founder

パネルディスカッションではまず、インドと日本における鉛蓄電池リサイクルの優良事例において、バッテリー廃棄物の越境移動と国内循環の在り方をグローバルに捉え直す議論がされた。これに対し、パネリスト同士は使用済み鉛蓄電池やバッテリースクラップは「資源」であると同時に「汚染源」でもあり、その扱いを巡る制度設計が各国の市場構造を大きく書き換えつつあるという問題意識が共有された。

また、バッテリースクラップの自由な輸出入を認める国は実質的に存在しないという点が確認された。バッテリースクラップは国際条約の枠組みで危険廃棄物に分類され、越境移動には原則として事前同意や厳格な手続きが求められる。多くの国が主要条約の署名国である以上、「自由貿易」の論理で動かせる品目ではない。さらに、条約の非署名国が関与する場合、締約国側は原則として輸入を認めず、二国間の特別合意がなければ取引が成立しにくい構造も改めて示された。当局承認によって移動が可能となるケースはあるものの、承認の可否や運用の厳しさは国や案件ごとに異なり、実務は容易ではない。一方、相対的に輸入が可能とされる国や地域には共通する前提条件があるとされた。重要なのは受け入れ可否そのものではなく、ルールや規制が明確で運用が予見可能であること、政治的安定性と司法制度の信頼性が確保されていること、さらに電力や労働力などのインフラが整い、産業としての成長余地があることである。こうした条件が揃う国は限られるが、条件が整い始めた国々は「機会を提供する国」として浮上し得る。東南アジアの重要性も指摘されたが、需要の厚みが伴わなければ制度だけで輸出入が活発化するわけではないという現実も示唆された。

バーゼル条約の改正に象徴されるように、OECD諸国から非OECD諸国への有害廃棄物輸出は今後さらに抑制され、越境移動には一層の時間とコストがかかる見通しである。この流れの中で、市場はグローバリゼーションからローカリゼーションへと重心を移し、「消費国で回収し、消費国で精製し、国内需要に合わせて循環させる」構造が主流になるとの見方が示された。素材の国際移動が完全に消えるわけではないが、規制コストの上昇により、企業は国内循環を前提としたサプライチェーン再設計を迫られ、国ごとに分断された最適解が形成されていくとみられる。

国内政策の影響も大きい。税制や補助金などを通じて政府が精錬所やリサイクル産業を誘導すれば、企業は国内立地と国内循環を前提に投資判断を固めやすくなり、越境依存へ戻りにくくなる。競争を規定する要因は文化や経済だけでなく、政策が需給の境界線を引くという認識である。

将来像としては、回収から前処理、選別、品質管理までを含む上流工程の強化が鍵になるとされた。規制が強まる環境下では、国内で扱える形に整える能力こそが最も再現性の高い戦略となる。ただし移行期には地域ごとに時間差が生じ、人材育成や教育、リモート学習の浸透といった基盤整備も不可欠となる。生成量と処理能力のミスマッチは深刻なボトルネックになり得るため、需要が伸びる国でリサイクル能力が追いつかない一方、能力不足の国では制度や資金が障壁となり投資が進まない。最終的に、規制強化とトレーサビリティの要請を背景に、政府の役割は拡大し、資源循環の競争力は国内で回収・精製を完結させる制度と実装力に収斂していくとの認識で議論は締めくくられた。

 

 

(IRuniverse Midori Fushimi)

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