ここまで、八潮の陥没事故をめぐって、「老朽化」だけでは説明しきれない可能性をいくつか並べてきた。
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最終回となる今回は、これまで明示的に書いてこなかったが、どうしても避けて通れない問いを一つだけ、静かに置いておきたい。
それは、下水の中で、本当に“あり得ないこと”は起きていないのか?という問いである。
事故後、周辺では金属の腐食や変色が報じられている。硫化水素による腐食という説明もある。
だが、その影響の出方や範囲を見たとき、本当にそれだけで説明できるのか、という違和感は消えない。ここで、あくまで仮の話として考えてみたい。
もし、硫酸のような強い酸性物質が、断続的あるいは継続的に下水へ流入していたとしたら、地下で何が起きるだろうか。
コンクリートの劣化は急速に進む。
金属は短期間で腐食する。
硫化水素の発生条件も変わる。
地盤への影響も、通常とは異なる形で現れる可能性がある。
もちろん、「硫酸が下水に流されている」と断定するつもりはない。だが、検討対象から外してよい話とも思えない。
ここで、もう一つ視点を重ねたい。
かつて、日本国内で回収された使用済み製品の大半は、海外へ送られ、現地で処理されてきた時期があった。その中には、金属を取り出す工程を伴うものも含まれていた。現在では、国内で金属だけを取り除き、残りを別の形で海外へ送るという構図が存在すると指摘されることもある。
ここで問いたいのは、「何を取り除いているのか」ではない。「取り除いた後に、何が残るのか」 という点だ。
金属を取り除く工程には、酸を使う処理が一般に存在する。それ自体は珍しい話ではない。問題は、その管理がどこまで徹底されているのかである。
もし、処理工程で発生した酸性の廃液が、適切に中和・回収されず、下水系統に流れ込むことがあったとしたら。
それは、表に出にくく、気づかれにくく、だが地下では確実に影響を及ぼす。
ここまで読んで、「考えすぎだ」と思う人もいるだろう。それで構わない。
だが、考えすぎかどうかは、調べてから判断すべきことだ。
今回の事故を「老朽化」という言葉で終わらせてしまえば、こうした可能性は最初から検証対象にならない。
しかし、
- 地下構造物の異常な劣化
- 周辺で同時期に起きた金属腐食
- 資源処理の流れの変化
- 規制をかいくぐる形で続く海外流出
これらが同じ時代、同じ社会構造の中で起きている以上、無関係だと決めつける理由も、また存在しない。
この連載で一貫して伝えたかったのは、「調べるべき対象を、最初から狭めてはいけない」という一点である。
もし、下水の中で本来想定されていない物質が流入していないか。
もし、資源処理のどこかで、管理が緩んでいないか。
もし、それが地下インフラに影響を与えていないか。
これらは、推測ではなく、調査で確認できる話だ。
だからこそ、八潮市および埼玉県は至急、下水の性状・流入経路・排水実態について詳細な調査を行うべきであり、国もまた、関連制度・規制運用・実態の両面から、抜本的な検証に入るべきである。
答えが「問題なし」なら、それでよい。だが、調べずに「問題ないこと」にしてしまえば、次の事故は、また別の場所で起きる。
八潮の陥没事故は、単なる道路の陥没ではない。私たちが長年、見てこなかったものを、地下から突きつけられた出来事だったのかもしれない。
(環境リサイクル業界専門ライター 利祭来留夫)