2026年初頭、上海先物取引所におけるスズ価格は、歴史的高値を記録したのち一時的な調整局面に入った。しかし、市場のファンダメンタルズは依然として強気である。供給側の構造的な脆弱性と、人工知能(AI)を筆頭とする新興技術による爆発的な需要増加が、スズを単なる工業金属から「デジタル・エネルギー革命の基盤物質」へと押し上げている。
1. 供給構造の危機:長期化する鉱石不足
世界的なスズ供給網は、地政学的リスクと環境規制により、極めて不安定な状況にある。
- 主要産地の操業停止と遅延:
- コンゴ民主共和国: 武力衝突の激化により、主力鉱山「Bisie」が操業停止。
- ナイジェリア: 違法採掘への取り締まり強化が産出を抑制。
- ミャンマー(ワ州): 爆薬不足などの理由により、生産復旧が大幅に遅延。
- 中国の輸入動向(2025年11月データ):
- スズ精鉱の輸入量は15,099トン(金属換算4,588.4トン)で、前年同月比10.1%減少。
- 供給源の偏り:ミャンマー・アフリカ依存が強まる一方、南米(52.3%減)や豪州(22.8%減)からの輸入が急落し、サプライチェーンの脆弱性が露呈している。
2. 需要構造の転換:AI産業が「新たなフロンティア」に
伝統的な需要が一部停滞する一方で、先端技術分野がスズ需要の強力な牽引役となっている。
① AI・データセンター需要の増幅
AIの学習・推論に不可欠な巨大データセンターでは、莫大な電力を支える送電インフラが必要となる。
- はんだ接点の急増: 高い導電性を持つスズ系はんだは、電子機器の接続に不可欠。
- 先進パッケージング技術: AIサーバー用チップの3D実装やヘテロジニアス集積において、スズの応用範囲が拡大している。
② 再生可能エネルギーとEVの伸長(2025年1~11月実績)
- 太陽光発電: 中国での新規導入容量が274.89GWに到達。
自動車生産: 前年比10.4%増の3,453.1万台を記録。
これらの製造工程で使用されるスズ系はんだの消費は、不動産市場の低迷による化学製品(PVC用)需要の減少を十分に補填している。
3. 価格展望と需給バランス
スズ市場の核心的な課題は、「供給の硬直性」と「需要の高度化」のミスマッチである。
| 項目 | 現状と予測 |
|---|---|
| 供給面 | 新規鉱山開発には7〜10年のリードタイムが必要であり、短中期の増産は困難。 |
| 需要面 | AI、脱炭素、電装化というメガトレンドにより、消費は持続的に成長。 |
| 価格ターゲット | 調整後、再び上昇基調に転じ、41万元/トンの節目を目指すとの見方が有力。 |
4. 結論:戦略的資源としての再評価
スズは今や、エネルギー転換とデジタル社会を支える「戦略的物質」としての地位を確立しつつある。
- 地政学リスクの常態化: 供給源の多様化(深海採鉱やリサイクル技術の向上)が急務。
- サプライチェーンの強靭化: 最大の消費国である中国を中心に、戦略備蓄の整備が進む見通し。
- 指標としてのスズ: スズ価格の動向は、単なる需給を超え、世界の技術進歩と産業高度化のバロメーターとなる。
低炭素経済への移行という大きな潮流の中で、スズ市場の新たな論理を理解することは、投資家や政策決定者にとって未来の産業地図を読み解く鍵となる。
(趙 嘉瑋 編集IRUNIVERSE)