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元鉄鋼マンのつぶやき#154 マツダについて考える その4

2026/02/09 09:14
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元鉄鋼マンのつぶやき#154 マツダについて考える その4

前々回に申し上げましたが、マツダの海外戦略として米国のミシガン州に設立したAAIですが、あまり成功したとは言えません。フォードの傘下を離れたあと、マツダは北米での生産拠点としてメキシコのサラマンカ州にMMVOを設立し、10年以上が経過しています。

 

これは北米自由協定(NAFTA)のもと、北米市場で販売する自動車を製造する工場です。メキシコの安い労働力を用い、かつ米国のローカルコンテンツ法を免れるというもので、1990年代、日本の自動車メーカー各社がメキシコに工場を建設しました。

 

その後NAFTAはUSMCAに改称しましたが、メキシコの工場はその恩恵を受け続けています。しかし、米国にトランプ大統領が登場すると、USMCAに否定的な態度をとり、メキシコ工場を関税逃れのための隠れ蓑のようにとらえ、非難し始めました。投網を打つようなトランプ関税からは、メキシコで組み立てた乗用車も逃げられないでしょう。さてマツダはこの大問題に対してどう動くのでしょうか?

 

マツダには、メキシコ以外の海外生産拠点としてはマレーシアやタイ(部品)がありますが、全体として日本の自動車メーカーとしては非常に少なく、海外進出に慎重な会社とされています。かつてトヨタは「挙母のお大尽」と言われ、同社は日産やホンダと比較して海外進出に慎重な会社とされていました。しかし、ある時期から一転して海外進出に極めて積極的になりました。マツダはトヨタと提携したあと、共同出資の海外工場を建設しますが、マツダ単独では、今後どのような海外展開をするのか気になるところです。今のマツダの毛籠社長はマツダ車の米国での販売を建て直した立役者です。彼には海外市場への強い思い入れがあるのは当然でしょう。

 

実は、海外生産が単純なノックダウン生産であるなら話は簡単なのですが、やがては現地の材料・素材を使うように求められます。ローカルコンテンツ規制だの、バイアメリカン法だのという規則ですが、自動車材料の場合、工場側の厳しい審査に合格してアプルーバルを取る必要があります。これが煩わしいのです。

 

筆者が米国にいた頃、住友金属からLTV社への技術移転と、日系自動車メーカーへの納入のバトンタッチが進みました。わざわざ、自社の商売を減らして、ライバルとも言うべき他社製品のPRと技術的なフォローを行うのですから奇妙な話です。「なんで、お宅はライバル会社の製品のプロモーションに熱心なの?」と不思議がられました。勿論、これは日本国内での商売が大切だからで、米国での供給責任も負ってよね・・と客先に言われれば是非もないことです。しかし、これは下手をすると独禁法に抵触します。資本関係に無い同業他社に便宜を図ると独禁法に触れるのです。その後、住友金属はLTV社の株を買いましたが、独禁法回避の目的もあったかも知れません。

 

でも今はどうでしょうか? 製鉄会社は昔のようにサービスしてはくれないでしょう。21世紀の現代、製鉄会社は自動車会社の奴隷ではないからです。話を元に戻します。

 

生産拠点の多くが国内にあるマツダは、当然ながら輸出比率が高く、為替相場の影響を強く受けます。ここ数年続く円安はマツダに大変な追い風ですが、これが今後も続く保証はありません。トヨタの豊田章男氏は「円安で得た黒字は企業努力で得たものとは言えず、評価の対象ではない」と語っていますが、まさにその通りでしょう。

 

長期的に見れば、海外生産比率を上げて為替変動の影響を受けにくい体質にすることが重要です。しかしヨーロッパの様にBEV化を迫る市場もあり、内燃機関に拘るマツダにとっては難しい面もあります。そして筆者は全く別のことを考えます。それは完成車輸出が貴重な国内資源の海外流出につながるという問題です。

 

日本国内の高品質な鋼材で作られた自動車が輸出され、現地で廃車になった後、その国でスクラップとして有効利用されます。それはそれでいいのですが、これからはリサイクルの時代です。製鉄業ではスクラップを原料とする電炉の存在感が増しつつあります。スクラップがより貴重な資源になるのは、間違いありません。その状況下で、貴重な資源の塊が外国に流出していくのです。勿論、これは完成車(新車)だけの話ではありません。中古車輸出も廃車の輸出も同じ問題を抱えています。いや、今はそれでもいいかも知れません。これからは違います。これからは新エネルギー車、電動車の時代になります。ご存知の通り、BEVやハイブリッド車はレアアースやレアメタルの塊です。そしてそれらの争奪戦は、ますます苛烈になります。

 

リチウムイオンバッテリーや、ネオジム磁石のモーターを搭載した車両が外国に流出する訳ですが、新車なら適正な価格で売られるでしょうから、問題は大きくありません。問題は中古車や廃車、スクラップでの輸出です。内包するレアアースやレアメタルの価値に見合った価格で輸出される保証はありません。不当に低い価格で輸出され、知らない内に日本の貴重な資源が流出してしまう恐れは高いのです。

 

レアアース・レアメタルの海外流出については、本来、日本政府が規制をかけるべきですが、日本自身が中国のレアアース輸出規制を非難する立場なので難しいかも知れません。具体的には廃車やスクラップを輸出する際は、車体から電池とモーターを除去した形で輸出することを義務付けるといった措置が必要ですが、それを行政が行うかは不明です。

 

では、代わりに自動車業界が音頭をとるか?・・と言えばこれも微妙です。トヨタや日産、ホンダは、完成車輸出よりも、現地生産・現地組み立てに力点を置いています。貴重な資源の海外流出にそれほど危機感を持たないかも知れません。ここは完成車の輸出比率が高く、そしてこれからハイブリッド車やBEVの比率を高めていくマツダの出番です。

 

貴重な金属資源の海外流出にブレーキをかけ、日本国内での資源循環型システムの構築を図る重要な責任がマツダにはあると、筆者は考えます。

 

次回は、ロータリーエンジンがどう発展していくかについて、私見を述べたいと思います。

 

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久世寿(Que sais-je)茨城県在住で60代後半。昭和を懐かしむ世代。大学と大学院では振動工学と人間工学、製鉄所時代は鉄鋼の凝固、引退後は再び大学院で和漢比較文学研究を学び、いまなお勉強中の未熟者です。約20年間を製鉄所で過ごしましたが、その間とその後、米国、英国、中国でも暮らしました。その頃の思い出や雑学を元に書いております。

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