Tokyo Battery & Critical Materials Summit開催を前に、MIRUでは登壇者への事前インタビューを実施ししている。第2回である本報では、インドネシア・ニッケル鉱業協会(APNI)事務局長であるMeidy Katrin Lengkey氏にインタビューを実施。本インタビューでは同氏の経歴に加え、インドネシアのニッケル生産の最新動向、その急速な成長を支える要因、さらにバッテリーおよび重要鉱物のサプライチェーンにおけるインドネシアと日本の協力機会について語ってもらった。
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Q1 自己紹介と、インドネシアのニッケル産業に関わるようになった経緯を教えてください
私の名前はMeidy Katrin Lengkeyで、インドネシア・ニッケル鉱業協会(APNI)の事務総長を務めています。APNIはインドネシアのニッケル産業を代表し、その強化を目的としてエネルギー・鉱物資源省の指導のもと設立された団体です。2017年3月6日に設立され、来月で9周年を迎えます。比較的新しい組織ですが、インドネシアのニッケル産業の発展を支援するうえで大きな成果を上げてきました。
私がニッケル産業に関わるようになったのはそれ以前です。2008年に自身の鉱業会社を設立し、2009年から2014年まで中国向けにニッケル鉱石の輸出を行ってきました。しかし、政府による輸出禁止政策の影響で、2014年から2017年まで輸出は停止されました。この政策は大きな転換点となり、インドネシアは国内での下流加工および付加価値生産へと重点を移したのです。
APNIにおいては、この産業転換の支援に深く関わってきました。また、同協会はインドネシアのニッケル基準価格の策定にも関与しており、この価格は定期的に公表され、業界にとって重要な指標となっている。
Q2 インドネシアは世界の主要なニッケル供給国となっています。生産の最新動向と、その成長を支える要因について教えてください
インドネシアのニッケル産業は著しい成長を遂げています。特に2020年にニッケル鉱石の輸出禁止措置が全面的に実施されて以降、国内の下流産業の発展が加速し増した。この政策は、重要鉱物資源の付加価値を高めるという国家戦略の一環です。
現在、インドネシアにはロータリーキルン電気炉(RKEF)を用いた製錬所が61カ所稼働しており、ニッケル銑鉄、フェロニッケル、ニッケルマット、ステンレス鋼などを生産しています。また、高圧酸浸出法を採用した施設では、水酸化物混合沈殿物、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、さらには前駆体などのバッテリー材料が生産されています。
建設中のプロジェクトを含めると、ニッケル加工施設の総数は163カ所に達する見込みであり、これは10年未満の期間で達成された極めて急速な拡大でと言えます。
2023年以降、インドネシアは世界のニッケル供給量の約65〜67%を占めており、この割合は2026年までに70%を超える可能性があります。この成長は政府による下流投資支援、加工能力の急速な拡大、さらにステンレス鋼および電気自動車用バッテリー分野における世界的需要の増加によって支えられています。
同時に、政府は持続可能性およびESGへの対応を強化し、責任ある鉱業を推進するために生産枠の削減も導入しています。これは、成長と環境配慮、そして産業の長期的安定との両立を目指す取り組みです。
Q3 現在、インドネシアのニッケル産業が直面している主な課題はなんですか
主要な課題の一つは規制の不確実性です。政府規制の頻繁な変更により、企業が迅速に対応して長期的な投資計画を立てることが難しくなる場合があります。投資家の信頼を維持して持続的な成長を支えるためには、規制の明確性と一貫性の向上が不可欠です。
また、生産枠と国内需要のバランス確保も課題です。例えば、2026年には政府はニッケル生産枠を前年の3億7900万トンから約2億1500万トンへと削減しました。一方、国内の製錬所は4億トン以上の鉱石を必要としており、供給不足が生じています。この不足を補うため、インドネシアはフィリピンからニッケル鉱石の輸入を開始しています。
ESGへの対応は、課題であると同時にチャンスでもあります。既存の国際的なESG基準は、必ずしもインドネシアの実情を十分に反映しているとは言えません。このため、APNIはTesla、Mercedes-Benz、BMWといったグローバルOEMと連携し、国際的に認知されつつもインドネシアの鉱業環境に適したESG基準の策定に取り組んでいます。
Q4 インドネシアのニッケル産業の今後の見通しについてどう考えていますか。
インドネシアのニッケル産業の見通しは極めて明るいものと言えます。政府は現在、原材料や中間製品の輸出から、バッテリーセルや電気自動車といった高付加価値製品の生産へと重点を移しています。この戦略により、インドネシアは電気自動車およびバッテリーのグローバルサプライチェーンにおける地位をさらに強化することが期待されています。
すでにBYDやHyundaiといった世界的メーカーがインドネシアへの投資を進めており、現在は電気自動車生産施設の建設が進行中です。これらの施設は、今年後半または来年前半に稼働を開始する見込みです。これは、国内で完結する電気自動車エコシステムの構築に向けた重要な一歩となるでしょう。
また、インドネシアの世界ニッケル市場における影響力は価格面にも表れています。2025年12月に政府が生産枠削減を発表した後、ロンドン金属取引所におけるニッケル価格は1トンあたり約1万4千ドルから1万8千ドルへと急上昇しました。これは、インドネシアが世界のニッケル供給と価格形成において極めて重要な役割を果たしていることを示しています。
今後、政府は中間製品よりも、バッテリーやステンレス鋼などの下流産業への投資を優先する方針をとっています。この戦略は、経済価値の最大化、国家経済の成長支援、そして重要鉱物分野における世界的リーダーとしての地位強化につながると期待されています。
Q5 バッテリーサミットに向けたメッセージをお願いします
バッテリーサミットは、世界のバッテリーおよび重要鉱物エコシステムにおける協力関係を強化する重要なプラットフォームであると認識しています。特に、中国を含む主要な業界関係者の参加は極めて意義深いものです。
このようなサミットに参加できることは、知見の共有、相互理解の深化、新たな協力機会の創出につながると期待しています。本サミットが業界全体のパートナーシップをさらに強化し、とりわけ世界のバッテリーサプライチェーンにおいて重要な役割を担うインドネシアと日本の連携を一層促進する契機となることを期待しています。

基調講演について: Day 1 -3月17日
Meidy Katrin Lengkey氏は基調講演において、インドネシアのニッケル生産状況について発表します。
※なお、プログラムおよび最終的な講演構成の確定に伴い、テーマ内容は若干変更される可能性があります。

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(IRuniverse Midori Fushimi)