2026年3月に開催された全国両会(全国人民代表大会・中国人民政治協商会議)において、科学技術・エネルギー分野の議論の焦点は「核融合発電」に集中した。全国政協委員であり、聚変新能(安徽)有限公司の董事長を務める厳建文氏は、「中国の核融合発電産業は、極めて重要なウィンドウ(機会の窓)を迎えている」と明言した。この発言は単なるスローガンではなく、技術的ブレークスルー、サプライチェーンの構築、そして国家戦略の強力な後押しに基づく客観的な情勢判断である。
本稿では、中国が次世代の「究極のエネルギー」の実用化に向けてどのようなロードマップを描き、いかなる課題に直面しているのかを分析する。
1. 自信の根拠:技術の先行性と完全なサプライチェーンの構築
中国が核融合発電の早期実現に自信を見せる背景には、長年にわたる研究開発の蓄積と、そこから派生した強固な産業基盤が存在する。
コア技術における世界的優位性: 国際熱核融合実験炉(ITER)プロジェクトへの参画を通じて、中国は低温超伝導や高張力鋼などの重要技術において世界トップクラス(第一陣営)へと躍り出た。特筆すべきは、合肥に位置する全超伝導トカマク型核融合実験装置(EAST)が達成した「プラズマ温度1億度、保持時間1000秒」という高閉じ込めモード運転の世界記録である。これは、商業発電の前提となる「長時間パルス定常運転」という技術的難題に対する強力な「中国発のソリューション」である。
自律的なエコシステムの形成: 中国科学院合肥物質科学研究院プラズマ物理研究所の宋雲涛所長によれば、中国の超伝導材料の生産技術はすでに完全な自律化(国産化)を達成しており、世界市場シェアの約70%を掌握している。国内には核融合産業連盟が設立され、コア設備・部材の国産化率が継続的に向上している。材料開発から精密製造、モジュール組立に至る完全な産業エコシステム(サプライチェーン)が構築されつつあり、これが「2040〜2045年の商業化実現」という強気な見通しの裏付けとなっている。
2. 商業化を阻む「3つの壁」:マテリアル、人材、ガバナンス
輝かしい成果の一方で、代表委員たちは「人工太陽」の社会実装を阻む3つの中核的ボトルネックを冷静に分析している。
極限環境に耐えうるマテリアル(材料科学)の壁:
低温超伝導技術で先行しているとはいえ、材料の信頼性向上と抜本的なコストダウンは依然として課題である。厳建文氏が指摘するように、今後はより強力な磁場を生成し、原子炉の小型化・経済性を高める「高温超伝導材料」の開発が主戦場となる。また、中国核工業集団の首席専門家である段旭如氏が強調する通り、高エネルギー中性子線や極端な熱負荷に長期間耐えうる「炉内壁・第一壁材料」の開発は、基礎科学レベルで突破すべき最優先課題である。
学際的・複合的プロフェッショナル人材の枯渇:
核融合は、1基の磁場閉じ込め型原子炉に500万点以上の部品が使われ、十数もの専門分野が交差する究極のシステム工学である。厳氏が率直に認める通り、国内の関連エンジニアは絶対的に不足しており、この構造的な人材ギャップが開発スピードと工学品質を制約している。蘭州大学や合肥工業大学などが専門学部を新設し、今後全国約10の大学がこれに追随する計画であるが、即戦力化には時間を要する。
法規制・標準化(ガバナンス)の遅滞:
ディープテックの産業化には、ルールの先行整備が不可欠である。2026年1月施行の「中華人民共和国原子力法」において制御熱核融合が法的に位置づけられたものの、トリチウム(三重水素)の取り扱いや原子炉の立地基準など、具体的な安全管理フレームワークは未整備である。華中科技大学学長の尤政院士は、グローバル標準が未確定の「空白期」である現在、中国は「ルールの追従者」から「並走・主導者」へと転換し、技術的優位性を「標準化(ルールメイク)の優位性」へと昇華させるべきだと提言している。
3. 未来展望:スケジュールの前倒しと「官民協調」による次世代覇権競争
現状の課題を踏まえつつも、中国の核融合産業の発展スピードは加速の一途をたどっている。
ロードマップの前倒し(三段階から二段階へ):
段旭如氏が示す従来のロードマップ(2030年頃:工学研究炉の建設能力獲得、2035年:実験炉建設、2045年頃:商用実証炉、2050年頃:商用発電)に対し、厳建文氏は「2030年予定の工学研究炉設計を今年中に完了し、早ければ年内着工も視野に入る」と明かした。これはプロセスを圧縮する「追い越し」の姿勢である。
ペイシェント・キャピタルと民間企業の台頭:
かつて国家主導の「独壇場」であった核融合開発に、長期的なリターンを許容する「ペイシェント・キャピタル(忍耐強い資本)」と民間企業が参入し、強固な産官学連携が形成されつつある。国務院国有資産監督管理委員会が重点支援を明言する一方、新奥集団(ENNグループ)などの民間企業が独自装置(玄龍-50U)でブレークスルーを果たし、国際的な研究枠組み(ITPA)に参画するなど、民間セクターの躍進が著しい。
国際競争の激化とルールの主導権争い:
2025年に成都で開催されたIAEA核融合エネルギー会議での「成都声明」は、中国が国際協力を主導する意思を示すと同時に、将来のエネルギー覇権を巡るグローバルな陣取り合戦の激化を象徴している。中国はITERの枠組みに貢献しつつも、独自のイノベーションと規格の国際化を通じて、次世代エネルギーの主導権を確保する構えだ。
結論として、 2026年の春、中国の核融合発電産業は「科学的研究フェーズ」から「エンジニアリング(工学実装)フェーズ」へと明確に舵を切った。マテリアル開発や法整備などの課題は山積しているが、技術の反復開発とバックキャスト(逆算)思考に基づく工学研究炉の建設加速は、中国が「究極のエネルギー」という人類の夢を、極めて現実的な産業ロードマップへと落とし込んでいることを示している。この「機会の窓」をいかに活かすかが、将来の世界エネルギー構造における中国の立ち位置を決定づけるだろう。
(趙 嘉瑋)