■ 金相場(Gold):
金相場は1月末から2月初旬にかけて調整局面入りとなり、ドル高や株安を背景とした換金売りにより下押し圧力が強まった。その後は売り一巡を経て、4,800~5,000ドルを中心とするレンジでの値固めに移行。
2月後半以降は、米国の関税政策を巡る不透明感に加え、米国・イスラエルによるイラン攻撃、さらにはイラン情勢の緊迫化を受けた原油価格上昇がインフレ懸念を刺激し、安全資産としての買いが再加速。3月初旬には一時5,400ドル台まで上昇した。
もっとも、その後は世界的な株安に伴う損失補填売りが優勢となり、3月初旬の5,300ドル近辺から足元では4,400ドル台まで急反落。ドル円の下落に伴う金売却も観測されたが、為替要因としての影響は限定的にとどまった。
3月相場は、これまで利幅の出ていた貴金属全体で換金売りが目立つ局面となった一方、中東情勢の不透明感が燻る中で下値では押し目買いが入りやすく、需給は売りと買いが交錯する構図となっている。
構造的には、
・米政治を巡る制度不安
・地政学リスクの持続
・通貨価値希薄化への警戒
・中央銀行による継続的な金購入
といった支柱は不変。加えて、株式・債券からの分散投資や新興国中銀の買いが中長期的な下支えとして機能。
中東情勢が沈静化しない限り、現金化された資金の再流入も見込まれ、押し目買い意欲は根強い。ただし短期的には、株安局面での換金売りや投機資金の高速回転により、高値圏で神経質かつ振幅の大きい展開が続く公算が大きい。
NY金($/toz)と国内金建値(\/g)の推移 3か月

■ 銀相場(Silver):
銀相場は1月末から2月初旬にかけて急落し、年初からの急騰分をほぼ解消。その後は売り一巡を経て、75~90ドル近辺を中心とするレンジ相場へ移行した。
しかし3月に入ると、独自材料に乏しい中で金相場の下落や株安に伴う換金売りの影響を強く受け、月後半には60ドル台まで下落。貴金属全体での利益確定売りの流れに押される展開となった。
もっとも、構造的な供給不足は依然として下値を支えており、急落局面では押し目買いによる反発も散見される。ただし全体としては金相場に連動する色彩が強く、主体的な上昇ドライバーに欠ける中で軟調な推移が続いた。
銀は取引単価が低く投機資金を呼び込みやすい特性を持つため、中東情勢などの地政学リスクが再び強まる局面では短期資金の流入が加速し、値動きが大きくなる可能性がある。
当面は金相場に連動しつつ、レンジ内での往来を基本としながらも、資金フロー次第で振幅が拡大しやすい不安定な相場展開が続く公算が大きい。構造的な下支えと投機的なボラティリティが併存する、銀特有の局面にあるといえる。
NY銀相場($/toz)と国内銀建値(\/kg)の推移 3か月

■ プラチナ相場(Platinum):
プラチナ相場は2月前半に調整局面が鮮明となり、米株安を背景とした損失補填売りや証拠金引き上げ、中国の旧正月前のポジション整理などを受けて2,000ドル近辺まで下落。その後は売り一巡を受け、金相場に対する割安感や地政学リスクの高まりを手掛かりに投機資金が流入し、一時2,300ドル台まで持ち直した。
しかし3月に入ると、米国によるイラン軍事作戦の激化および長期化観測を背景に相場は軟調地合いへ転じ、月間を通じて下押し圧力が継続。一時は1,900ドルを割り込む場面も見られた。下落局面では押し目買いも散見されたものの、全体的な下降トレンドを反転させるには至らなかった。
背景には、中東情勢の悪化に伴う原油高を通じたインフレ圧力の高まりと、それによる自動車需要抑制への懸念がある。裾野の広い需要構造を有するプラチナにとって、最終需要の鈍化観測は相場の重石として作用しやすい。
一方で、主要生産国である南アフリカは増産に慎重な姿勢を維持しており、供給面の急改善は見込みづらい。現物逼迫感はピークアウトの兆しを見せつつも依然として不安定であり、需給面からの下支えは残存。
このため、当面は下値を探る展開を基本としつつも、押し目では買いが入りやすい構図が継続。投機資金の動向と実需のバランスに左右されながら、ボラティリティの高い相場展開が続く公算が大きい。
NYプラチナ相場($/toz)と国内プラチナ価格(\/g)の推移 3か月

■ パラジウム相場(Palladium):
パラジウム相場は2月、プラチナと類似した値動きを示し、前半は軟調に推移。株安やポジション調整の流れを受けて上値が抑えられたが、月半ばにはロシア産への関税観測を材料に反発し、月末にかけては1,780ドル近辺まで回復した。
しかし3月に入ると、中東情勢の緊迫化を背景に他貴金属が軟調となる中、これになびく形で下落基調へ転じた。原油高の進行によりガソリン車需要の抑制や自動車触媒需要の減退が意識され、下げ足を速め、月後半には一時1,400ドルを割り込む場面も見られた。
パラジウムは自動車触媒向け需要への依存度が高く、原油価格や中東情勢を通じた需要見通しの変化に敏感に反応しやすい構造にある。このため、足元では中東情勢とそれに連動するエネルギー価格の動向が相場の主導要因となっている。
供給面では南アフリカの生産動向が引き続き焦点となるが、プラチナ同様に増産には慎重な姿勢が維持されており、需給の急緩和は見込みづらい。一方で、他貴金属と比較して投機資金の流入は限定的であり、価格はより実需動向に左右されやすい。
総じて、下値では供給制約が一定の支えとなるものの、需要面の不透明感が上値を抑制。中東情勢をにらみつつ方向感を探る展開となりやすく、当面はボラティリティを伴いながらも、下値を切り下げやすい不安定な局面が続く公算が大きい。
NYパラジウム相場($/toz)と国内パラジウム価格(\/g)の推移 3か月

■ 総括:金主導は不変、銀は増幅、PGMは需要で選別強まる
足元の相場を俯瞰すると、基本構図は変わらない。金が制度不安と通貨不信を映す中核として機能し、銀がその値動きを増幅、PGMは資金循環の影響を受けつつも個別需給に収斂する展開となっている。
もっとも3月は、これまで上昇を主導してきた貴金属全体で換金売りが顕在化し、株安に伴う損失補填売りが価格を押し下げる局面が目立った。金は高値圏から調整しつつも押し目では資金流入が続き「資産」としての強さを維持。一方で銀はその動きを増幅する形で下落圧力が強まり、ボラティリティの高さを改めて印象付けた。
PGMについては様相がやや異なる。中東情勢の緊迫化に伴う原油高を通じて自動車需要の減速懸念が意識され、プラチナ・パラジウムはいずれも需要サイドの弱さが重石となった。金主導の資金流入だけでは支えきれず、最終的には触媒需要や供給制約といった個別ファンダメンタルズが価格を規定する色合いが一段と強まっている。
総じて、市場の根底にあるのは引き続き制度不安と地政学リスクであり、押し目では長期資金が入りやすい構造は不変。ただし、株式市場の変動と連動した換金売りが発生しやすく、短期資金の回転も極めて速い。
結果として、
「金を軸とする構造的な強さ」と
「周辺メタルの高ボラティリティと需給依存」
という二層構造はむしろ鮮明化している。高値圏における不安定さを内包しつつ、この構図が当面の貴金属市場の基本図であり続ける公算が大きい。
Rhodium / Iridium / Ruthenium
■ ロジウム相場(Rhodium):
ロジウム相場は2月、旧正月に伴う中国勢の不在で前半は軟化したものの、後半にかけては他貴金属の上昇やスポット需要を背景に買いが入り、需給のタイト感が再び意識される中で12,000ドルの大台を突破した。
しかし3月に入ると様相は一変。中東情勢の緊迫化に伴う原油価格の高騰が、ガソリン車販売の抑制や景気鈍化を通じた需要減退を想起させ、相場は下落基調へ転じた。月間を通じて上値の重い展開となり、一時は10,000ドル近辺まで下落する場面も見られた。
ロジウムは自動車触媒需要への依存度が極めて高く、エネルギー価格やマクロ環境の変化が需要見通しを通じて価格に直接影響しやすい。このため、足元では中東情勢と原油価格の動向が最大の変動要因となっている。
一方で、市場の流動性は依然として低く、供給側の制約も根強いことから、極端な売り崩しには至りにくい構造は維持されている。
当面は、上値の重さが意識されつつも、需給均衡点を探る神経質な値動きが続く見通し。原油価格と中東情勢をにらみながら、振幅の大きい不安定な相場展開が想定される。
JMロジウム価格($/toz)と国内ロジウム価格(\/g)の推移 3か月

■ イリジウム相場(Iridium):
イリジウム相場は2月、1月までの上昇局面で流入していた投機資金が一巡したことで、6,600ドル台を中心に横ばい推移となり、高値圏でのもみ合いが続いた。
しかし3月に入ると再び動意づき、中華圏を中心とする投機資金の流入が加速。流動性の乏しい市場構造も相まって上昇圧力が強まり、上旬には8,000ドルに到達し過去最高値を更新した。
その後は買い一巡となったものの、地政学的緊張の高まりを背景に手持ち筋が売り急ぐ状況にはなく、価格は高値圏での底堅い推移へ移行している。在庫確保の動きも引き続き相場を支える要因として機能。
イリジウムは流動性が極めて限られるため、需給バランスのわずかな変化が価格に増幅されやすい特性を持つ。このため、投機資金の流入局面では上振れしやすく、調整局面でも下値が限定されやすい構造にある。
総じて、投機的な過熱は一巡しつつも、需給のタイト感と供給側の慎重姿勢を背景に、高値圏を維持しながら上振れ余地を残す展開が続く公算が大きい。
JMイリジウム価格($/toz)と国内価格の推移 3か月

■ ルテニウム相場(Ruthenium):
ルテニウム相場は1月上旬に過去最高値を更新した後、2月は1,400ドル台を中心とする横ばい推移となり、様子見姿勢が広がった。中国の旧正月明け以降は投機的な買いも散見されたが、上値を一段と切り上げるには至らず、レンジ内での推移が続いた。
しかし3月に入ると、AI普及を背景としたストレージ用途(HDD)や化学分野での堅調な需要を手掛かりに、在庫確保の動きが活発化。これに投機資金の流入も加わり、上昇圧力が強まり、上旬には1,750ドル近辺まで上昇した。
その後は買いが一巡し、高値圏での横ばい推移へ移行したが、需給面では依然として売り手が限られており、下値の堅さは維持されている。流動性の低い市場構造に変化はなく、小口の需給変動でも価格が振れやすい環境が続く。
また、同様に低流動性市場であるイリジウムとの連動性が強まっており、同金属が動意づく局面では投機資金の関心が波及し、ルテニウムにも価格変動が増幅される可能性がある。
総じて、実需の底堅さと投機資金の流入が重なることで高値圏を維持しつつ、イリジウム動向に左右されやすい不安定さも内包した展開が続く見通し。
JMルテニウム価格($/toz)と国内価格の推移 3か月

(IRuniverse/MIRU S. Aoyama)