世界的な実需不足を背景に、これまで市場を牽引してきた鉄鋼製品価格の値上がりが完全にストップした。欧米市場における需要減退の波はアジアにも波及しており、一時の過熱感を脱した鉄スクラップ市場は現在、明確な「踊り場」を迎えている。
これまでアジア市場の「唯一の買い手」として機能していたベトナムでも成約が膠着し始めており、世界的な需給バランスは新たな局面へと移行しつつある。

(米コンポジット価格と台湾のHMS輸入価格の推移)
1. 欧米市場の需要減退と鉄鋼製品価格の「頭打ち」
現在のスクラップ市場に下押し圧力をかけている最大の要因は、世界的な実需の冷え込みによる鉄鋼製品価格の軟化である。
欧州市場の冷え込み: 4月までは供給懸念や局所的な需給ギャップから、アジア市場に向けてビレットやスラブ(半製品)を積極的に買い付けていた欧州勢だが、足元ではその動きが完全にストップした。域内の鋼材需要そのものが停滞しており、欧州の鋼材価格は下落へと転じている。
米国市場の連れ安: 米国市場でもマクロ経済の不透明感を背景に、スクラップの総合指標である米コンポジット価格がトン当たり365ドルへと下落。この欧米のセンチメント悪化が、瞬時にアジアの輸出市場へと波及している。
2. アジア主要鉄源価格・オファー実勢(2026年5月時点)
欧米の価格下落に連動し、台湾の輸入スクラップ価格も一段と下値を切り下げている。また、ベトナム市場でも価格交渉は厳しい局面を迎えている。
指標・仕向け地 | 価格水準(米ドル/トン) | 市場の現状と分析 |
|---|---|---|
米スクラップコンポジット価格 | 365 | 米国国内の需要減退を背景に下落トレンド |
台湾向けH2スクラップ(CFR) | 350~360(下落基調) | 米国安に連れ安。ビレットシフトも継続し買い手控え |
ベトナム向けH2スクラップ(CFR) | 390(成約膠着) | 日本からのオファーに対し、ベトナム側が買い渋り |
(参考)日本産H2輸出換算(FOB) | 335前後 | ベトナムCIF390ドルから運賃・商社口銭を逆算した水準 |
3. ベトナムの買い渋りと成約の膠着
これまで「国策としての自国生産維持」を背景に唯一買いを続けていたベトナム市場にも、明確な変化の兆しが見られる。
現在、ベトナム向けのH2ベースの市場実勢はCIF390ドル前後とみられているが、ここから海上運賃や商社口銭(口銭)を差し引くと、日本側のFOB換算では335ドル前後まで目減りする。実際に日本側からはCIF390ドル近辺での輸出オファー(売り呼び値)が提示されている模様だが、足元では「成約に至っていない様子」が伝えられている。
ベトナムとしても長期的な生産方針に変わりはないものの、足元の世界的な「鉄鋼製品価格の頭打ち」によって、高値のスクラップを買い続ける採算上の限界(逆ザヤ)に直面しており、購買姿勢を極めて慎重にせざるを得ないのが実情だ。
4. 総括:相場は「踊り場」へ、下落トレンド定着かは微妙な情勢
こうしたグローバルな需要後退を受け、鉄スクラップ市場は完全に上昇の勢いを止め、踊り場を形成している。しかし、これがそのまま右肩下がりの急落トレンドに突入するかどうかは極めて微妙な情勢であり、専門家の間でも見方が分かれている。
下値を支える要因として、以下の「供給側のボトルネック」が依然として燻っているためである。
地政学リスクと供給網の寸断: ホルムズ・ショックの長期化は、自動車や家電といった最終製品の減産(=工場から発生する良質な新断スクラップの供給減少)を招く。需要減と同時にサプライ(供給)も細るため、価格が暴落しにくい構造にある。
高炉の囲い込み戦略: 国内では日本製鉄などによる「輸出税賦課」の思惑を含む資源囲い込みの動きが続いており、上級品種を中心に国内価格が国際市況から切り離されて高止まりするリスクが残る。
今後の注目点
目先の焦点は、膠着したベトナム向け輸出がどの水準で折り合うか、そして国内の電炉メーカー(東京製鐵など)が、この海外安を受けて建値を維持するか、あるいは引き下げに転じるかである。実需なき原料高の歪みが世界的に顕在化する中、市場は文字通り「次の一手」を窺う神経質な転換点を迎えている。
(IRUNIVERSE YT)