5月14日から15日の2日間、タワーホール船堀で日本希土類学会主催の「第42回希土類討論会」が開催された。本稿では展示ブースの出展内容や、会場での立ち話から見えてきた国内の希土類業界の最新動向を紹介する。
ブース展示:ムロランマテリアのリサイクルネオジムグラス

ムロランマテリアは室蘭工業大学が運営する環境調和材料工学研究センターの愛称で、室蘭工業大学が持つ材料工学や環境・エネルギー分野の研究基盤を活かした資源循環や、脱炭素社会の実現に向けた研究開発を推進している。
企業や自治体との共同研究・産学連携の窓口としての役割も担っており、室蘭工業大学のものづくりの知見を社会実装へつなげる拠点として、地域産業や次世代技術の発展に貢献しているという。ブース展示では葛谷俊博教授によって、レアアースリサイクル技術の社会実装について紹介された。
教授は1997年ごろよりレアアースのリサイクルに関する研究を進めていたが、当時はレアアース価格が安価で、産業界では「リサイクルするよりバージン材を使った方が安い」という認識が一般的だったという。特に、レアアースは「産業のビタミン」とも呼ばれるほど使用量が少なく、製品中の含有量も微量であるために回収・分離コストに対して採算性を確保することが難しく、リサイクル事業として成立しにくい分野とされてきた。また、レアアース元素は化学的性質が非常に近いため元素同士の分離精製が難しく、高純度化が求められる磁石用途では高度な分離技術が必要となるといった課題もあった。
一方、ネオジム鉄ボロン磁石(NdFeB磁石)は例外的にリサイクルの余地が大きい分野とされる。EVやHEV、産業モーター、風力発電設備などで大量に使用され、ネオジムの添加量も他のレアアース製品に比べて多く、使用済み製品から一定量を回収できる可能性があるためだ。
ムロランマテリアでは室蘭工業大学との共同研究を通じ、使用済みHEVバッテリーなどから希土類を回収する独自プロセスを開発している。工程では、まずバッテリーを解体・破砕し、ふるい分けや磁選・比重分離を実施。その後、酸浸出や晶析分離を経て希土類塩を回収する。加えて、バッテリー内に残存する電力も回収し、工場内エネルギーとして再利用している。
バッテリーから取り出された合金粉末内では、希土類とレアメタルが原子レベルで均一に混合しているという。電子顕微鏡観察でもその状態が確認されており、こうした複雑な混合状態から希土類のみを選択的に回収する技術が室蘭工業大学との共同研究によって構築されたコア技術となっている。

ムロランマテリアは、研究成果を社会発信へつなげる取り組みも進めている。株式会社マテックとの共同研究では、HEV由来の希土類を再利用した「Re・Neo」と呼ばれるリサイクルレアアースを用いたガラス製品を展開。これは小樽の吹きガラス技法を活用し、「伝統的でありながら先進的」をコンセプトに製品化しており、資源循環を可視化する象徴的プロダクトとして位置付けられている。ブースでは希土類が添加されたガラスコップが展示されており、照明によって変化する独特な色合いに目を奪われた。
近年、レアアースを巡るサプライチェーンリスクは再び高まっている。中国依存低減や経済安全保障強化が進む中、国内でのレアアース循環技術確立は重要性を増している。本取り組みは日本における都市鉱山活用や資源安全保障を支える先行事例として注目されるだろう。
懇親会立ち話

14日の夕方に開催された懇親会では、専門分野や世代を超えた活発な交流が行われた。将来的な共同研究や技術提携につながるような意見交換に加え、日本国内における希土類(レアアース)を取り巻く状況についても多くの議論が交わされ、研究者だけでなく企業側の参加者も強い危機感を共有している様子が印象的だった。
昨年以降の中国によるレアアース輸出規制はニュースでも連日報道されるようになり、一般層にもレアアースの重要性が急速に浸透しつつある。特にEV、風力発電、半導体、防衛産業など先端分野で不可欠な素材であることに加え、中国が圧倒的な供給シェアを握る「中国一強」の実態も広く認識されるようになった。
実際、中国は世界のレアアース生産・分離精製・磁石材料製造の各段階で極めて高いシェアを占めており、近年は輸出管理や生産枠統制を通じて供給支配力を強めている。こうした状況を受け、日本だけでなく欧米各国でも経済安全保障の観点から重要鉱物確保が国家課題として扱われるようになった。参加者からは「NHKスペシャルでも、中国がどのようにレアアース覇権を築いたのかが取り上げられる」との声も聞かれ、社会的関心の高まりがうかがえた。
こうした世界情勢を背景に、今後は中国依存低減に向けた技術・供給網構築が一層重要になるとの認識が共有された。具体的には、海底資源を含む新規希土類鉱床開発、中国以外での供給源確保、国家備蓄強化、さらにはランタン・セリウムなど比較的豊富な軽希土類を活用した新材料開発、リサイクル技術高度化などが挙げられた。
特に、リサイクルについてはネオジム磁石由来の回収技術に加え、使用量低減や高効率化を含めた「使い方そのもの」の技術革新も重要との意見が多かった。単純な資源確保だけではなく、材料設計・製品設計まで含めた総合的な対応が必要になっている。
その中で、日本希土類学会の存在感も高まっているという。大学、素材メーカー、磁石メーカー、商社、リサイクル企業、分析機関など、産官学の知見が一堂に集まる場であり、参加者からは「今、まさに正念場を迎えている」との声も聞かれた。レアアースが単なる研究テーマではなく、経済安全保障そのものへ直結する分野へ変化したことで、学会の役割も大きく変わりつつある。
また、「最近ようやく経済誌などでも“レアアース(希土類)”と、希土類いう言葉が普通に使われるようになった」という声も聞こえた。また、近年は英語圏で使われる「Critical Minerals(重要鉱物)」という概念も浸透し始めており、資源問題が産業・金融・安全保障と不可分なテーマとして認識されつつある。
他にも、2011年前後のレアアースショックと現在との違いを指摘する声もあった。この頃は尖閣諸島問題を契機にレアアース価格が高騰していたが、当時の希土類学会では中国人研究者や企業関係者の参加も多く、比較的オープンな商談や交流が行われていたという。しかし、現在は中国側の情報統制や技術管理が強まり、以前のような自由な交流は難しくなっている。レアアースを巡る国際競争は単なる資源確保競争から、技術・情報・供給網・国家戦略を含めた総力戦へ移行しつつある。今回の討論会と懇親会では、その最前線にいる研究者・企業関係者たちの危機感と模索が色濃く表れていた。
(IRuniverse Midori Fushimi)