世界中が中国のタングステン輸出規制に対して実質無策でいるなか、タングステンスクラップもいまはやや余剰感あるが、精錬能力は結果的に中国に偏在している。結局のところ、供給は中国に支配されているなか、ベトナム、マサンの供給は多大な期待が寄せられ、日本企業も日参していると聞く。
1. 世界市場におけるマサンの立ち位置と生産実績
- 世界最大級の生産者: ベトナムのコングロマリットであるマサングループ傘下のマサン・ハイテク・マテリアルズ(MHT)は、世界最大級のタングステン生産者の一つ。
- 非中国シェアの2割を占有: 2020年から2025年までの平均データによると、同社は中国国外のタングステン供給の約21%を占めている。
- 生産実績と将来の目標: 2021年の生産量は、精鉱ベースで19,997トン。長期計画として、2026年から2036年にかけての平均生産量を年間約8,000トン(タングステン純分相当量)とする方針を掲げている。
2. 中核拠点「ヌイファオ(Nui Phao)鉱山」の実力
- 立地: 主要拠点のヌイファオ鉱山は、ベトナム北部タイグエン省に位置している。
- 中国外で最大規模: 中国国外で稼働している最大のタングステン鉱山の一つと評価されている。また、年間約350万トンの鉱石を採掘する能力を持っている。
- ベトナムを世界第2位へ: 同鉱山は2014年から商業採掘を開始した。2021年には生産量を前年比97%増加させるなど、ベトナムを中国に次ぐ世界第2位のタングステン生産国に押し上げる原動力となった。
- マサン側が「2014年からプラントを拡張し、3年前にも大型施設を作った。増産能力はあり、今後も拡大予定」と聞く。このヌイファオ鉱山の順調な稼働・拡張状況が伺いしれる。
3. 最新の事業再編(三菱マテリアルとの取引)
- 子会社の売却: 2024年5月、マサングループはタングステン加工大手であるドイツの子会社 H.C. Starck Tungsten Powders (HCS) を日本の三菱マテリアルに売却する契約を締結した。
4. 日本・ベトナム関係と今後の課題
- 日本からの高い関心: 欧州でのAPT価格の高止まりや、中国の輸出規制・日中摩擦を背景に、日本のタングステンメーカーや関係者は、安定した一次原料の供給源としてマサンを非常に重要視している。
- リサイクル(スクラップ)の制約: 日本側はリサイクル(スクラップ)からの調達にも関心を示しているが、現状、ベトナム政府の許認可等の問題により、マサンは世界からのスクラップ直接輸入は行っておらず、自国の鉱山資源(プライマリー)を中心に生産している。スクラップ由来の中間原料は購入している。