ASPINA(シナノケンシ株式会社)は2026年7月14日、米Niron Magnetics(ナイロン・マグネティックス)社と、レアアースフリー磁石を用いた次世代モーター開発に関する協業を開始したと発表した。すでにレアアースフリーモーターの量産化に向けた具体的な検討に入っているという。
資源の安定確保と経済安全保障がグローバルな課題となる中、本協業はモーター産業のサプライチェーンを根底から変革する可能性を秘めている。
鉄と窒素でレアアースを代替する「Clean Earth Magnet」
今回の協業の核となるのは、Niron社が開発した窒化鉄(Fe16N2)ベースの「Clean Earth Magnet」である。
これまで、高出力が求められる駆動モーター等にはネオジム磁石(NdFeB)が、コストと汎用性が求められる用途にはフェライト磁石が主に採用されてきた。Niron社の窒化鉄磁石は、地球上に豊富に存在する「鉄」と「窒素」のみを原料としながら、理論上はネオジム磁石と同等かそれ以上の残留磁束密度を発揮する。
加えて、熱減磁に強いため、ネオジム磁石で不可欠だったジスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)といった重希土類の添加が不要になる点が極めて大きい。
業界へのインパクト:特定国への資源依存リスクからの脱却
金属・資源業界の視点から見ると、最大のインパクトは「チャイナリスクの回避」である。中国によるレアアースの輸出管理強化や、昨今の不安定な地政学情勢によって、レアアース価格は乱高下を繰り返してきた。
Niron社はミネソタ州の最先端工場を通じて米国主要メーカーへの供給網を構築しており、米国内でも超党派でレアアースフリー磁石のサプライチェーン構築を支援する動きが活発化している。精密モーター分野でグローバルな実績を持つASPINAがこの磁石を採用し量産化に踏み切ることは、日本の産業界にとっても、レアアースの価格変動リスクや供給遅延リスクから切り離された「強靭なソリューション」を確保することを意味する。
今後の市場展開と展望
ASPINA 代表取締役社長 金子行宏氏、およびNiron社 CEO Jonathan Rowntree氏の両名がコメントで強調している通り、本協業は安定供給と高性能の両立を目指すものである。
当面のターゲットとしては、産業機器、自動車(車載用ブロワモーター等)、コンシューマーエレクトロニクスなどが想定される。NEV(新エネルギー車)のメイン駆動モーターが直ちに全て置き換わるわけではないものの、車両に多数搭載される高出力な補機類モーターや、FA・自動化設備向けのハイブリッドステッピングモーターなどから段階的な代替が進むと予想される。
脱炭素社会の実現に向けてモーターの需要が爆発的に増加する中、廃棄時のリサイクル(サーキュラーエコノミー)の観点でも、環境負荷の低い素材のみで構成される窒化鉄磁石の優位性は高い。両社の協業がもたらす量産化のロードマップに、今後も業界の熱い視線が注がれそうだ。