――磁石・太陽電池・電線・蓄電池・工具に見る代替技術の現場
前夜では、鉱山、都市鉱山に続く第三の資源開発として、「資源を使わない技術」を取り上げた。
では、実際にどこまで減らせるのか。
今回は、レアアース磁石、太陽電池の銀、電線の銅、蓄電池のコバルト、工具のタングステンという五つの現場から、日本の可能性と課題を考えてみたい。
レアアース磁石――まず重希土類を減らす
電気自動車、エアコン、産業ロボット、風力発電には、高性能な永久磁石が欠かせない。
代表格がネオジム磁石である。高温でも磁力を保つため、ジスプロシウムやテルビウムなどの重希土類を加える場合がある。
問題は、これらの供給が特定国に偏っていることだ。
対策の一つは、重希土類を磁石全体へ均一に混ぜるのではなく、必要な部分にだけ浸透させる粒界拡散技術である。少量でも耐熱性を確保でき、使用量を減らせる。
さらに、磁石の結晶粒を細かく制御したり、モーターの冷却性能を高めたりすれば、重希土類を使わない磁石も視野に入る。
その先には、ネオジム自体を減らした磁石、フェライト磁石を生かしたモーター、磁石を使わないリラクタンスモーターなどがある。
大切なのは、磁石単体の数字だけで比べないことだ。
材料性能が多少低くても、モーター設計、冷却、制御まで含めて同じ仕事ができれば、立派な代替になる。
太陽電池――銀を細くし、銅へ替える
結晶シリコン型太陽電池では、発生した電気を集める電極に銀ペーストが使われる。
太陽光発電が世界規模で増えれば、セル一枚当たりの銀使用量が減っても、総需要は膨らむ可能性がある。
そこで進められているのが、電極線を細くする細線化、電極本数や配置の最適化、少ない銀で導電性を保つペースト技術である。
もう一歩進めば、銀の一部または大部分を銅に置き換える銅めっき電極が候補になる。
ただし、銅はシリコン内部へ拡散すると性能低下を招く恐れがある。酸化や接着性、量産時の品質安定といった課題もある。
銀を銅に替えれば終わりではない。めっき、保護膜、接合、製造速度まで含めた工程改革が必要になる。
ここを突破できれば、銀価格に左右されにくい太陽電池を大量生産できる。エネルギー安全保障と資源安全保障を、同時に強くする技術である。
銅からアルミへ――軽さを武器にする
銅は電気をよく通し、接続しやすく、耐久性にも優れている。AIデータセンター、送電網、電気自動車が増えるほど、銅需要は拡大する。
その代替候補がアルミである。
アルミは銅より導電率が低いため、同じ電流を流すには断面を太くする必要がある。しかし比重は銅のおよそ三分の一で、重量当たりで見れば大きな利点がある。
架空送電線ではすでにアルミ系導体が広く使われている。自動車でも、軽量化が重要な高圧ケーブルや一部のワイヤーハーネスで採用余地がある。
弱点は接続部だ。
アルミ表面には酸化皮膜ができやすく、銅との異種金属接触では腐食にも注意しなければならない。振動、熱膨張、長期信頼性も問われる。
つまり勝負どころは、アルミそのものではない。
端子、めっき、圧着、溶接、防食を含む「つなぐ技術」である。素材の弱点を工程技術で補うところに、日本企業の出番がある。
コバルトフリー電池――用途で使い分ける
リチウムイオン電池の正極には、コバルトを含む材料が広く使われてきた。コバルトは性能に貢献する一方、産出地域の偏在、価格変動、調達上の問題を抱える。
代表的なコバルトフリー電池が、鉄とリンを使うLFP電池である。
LFPは比較的安価で、熱安定性や寿命に強みがある。一方、一般に高ニッケル系などと比べて重量当たりのエネルギー密度が低く、航続距離を重視する車両では不利になることがある。
だから、すべての電池を一種類に統一する必要はない。
長い航続距離が必要な高級EVには高エネルギー密度型、価格と安全性を重視する小型車や定置用蓄電池にはLFPを使う。将来はマンガン系、ナトリウムイオン電池、コバルトやニッケルを使わない新正極も選択肢になる。
資源戦略とは、最高性能の材料を全用途に使うことではない。
用途に必要十分な材料を割り当て、希少資源を本当に必要な場所へ残すことである。
タングステン代替工具――全部替えず、適材適所で減らす
タングステンは、超硬工具の主材料である炭化タングステンとして、日本の自動車、機械、金型、電子部品産業を支えている。
硬く、熱にも強く、精密加工に適している。簡単に全面代替できる材料ではない。
だから現実的な戦略は三つある。
一つ目は、工具を薄肉化、小型化し、タングステン使用量を減らすこと。
二つ目は、刃先など性能が必要な部分だけに超硬合金を使い、工具本体は別材料にすること。
三つ目は、加工対象や条件に応じて、チタン系サーメット、セラミックス、立方晶窒化ホウ素などを使い分けることである。
さらに、使用済み超硬工具はタングステン含有量が高く、回収価値も大きい。代替技術とリサイクルを同時に進めれば、輸入原料への依存を二重に減らせる。
万能の工具材料を探すのではない。
仕事ごとに最適な材料を選び、タングステンでなければならない領域だけに集中させる。これも立派な省資源である。
代替技術は日本の総合力である
五つの例に共通するのは、代替が単なる元素の入れ替えではないということだ。
磁石を減らすにはモーターを変える。銀を減らすには太陽電池の製造工程を変える。銅をアルミに替えるには接続技術を磨く。コバルトをなくすには電池の用途を見直す。タングステンを減らすには加工方法まで再設計する。
材料屋だけでも、部品屋だけでも完成しない。
素材、加工、装置、設計、制御、品質保証を横につなぐ力が必要になる。
ここに日本の強みがある。
日本は資源量では中国に勝てない。価格競争でも、物量勝負でも苦しい。
しかし、一グラムの金属から最大の性能を引き出し、その一グラムさえ不要にする設計へ進むことはできる。
中国が鉱山と精錬所を押さえるなら、日本は材料の使い方と製品の設計図を押さえればよい。
代替材料は、中国支配を一夜で終わらせる魔法ではない。
だが、レアメタルを十使っていた製品を七で作り、七を五にし、最後には別の材料で作る。その積み重ねは、やがて資源国の輸出規制を効きにくくする。
資源を持つ国は、地下を掘る。
資源を持たない日本は、知恵を掘る。
鉱山の深さでは負けても、技術の深さでは負けてはならない。
それが、資源小国・日本が世界の製造業で生き残る道なのである。