Battery Summit 2020 電池の今と将来を熱く語る(第二部)
「Battery Summit 2020 電池の今と将来を熱く語る(第一部)」からの続き
概況第二部は講演会の後編。同志社大学の盛満先生、一般社団法人サステイナビリティ技術設計機構代表理事の原田幸明先生、ベルギーUmicoreからJeroen Heulens博士、そして、大トリに登場したのがタレント並みの人気で、来場者の皆様も待ってましたとばかりにさっそうと登場した旭化成名誉フェロー吉野彰先生だった。
新しい水系二次電池の開発最新状況
同志社大学教授で知的財産センター所長の盛満正嗣氏は、水素/空気二次電池(HAB)開発の最新状況を語られた。負極側の水素を蓄えるため、レアアースのセリウムとニッケルが主体のAB型の水素吸蔵合金を採用している。また、酸素触媒と水酸化カリウムの空気極を正極にしている。充放電の安定化に欠かせないポイントとして、酸素触媒の担体の開発や空気極の作り方がカギとなる。最新の製造方法であるPDL(Painting-Drying-Layering )法を見つけたとこから、量産に向けた壁を一つ越えた。ALCAのプロジェクトとして、ここまでの成果を2019年9月に報告した。また、2019年に環境省のCO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業に採択されて、HAB蓄電システムとして2022年から社会実装される予定だという。
環境負荷から世界のリチウムイオン電池の技術を比較しよう
一般社団法人サステイナビリティ技術設計機構代表理事の原田幸明氏は、一つの製品の原材料から廃棄、再生そして物流、そして製品を利用したときの全ての環境負荷を考えたLCA(ライフサイクルアセスメント)の観点から、リチウムイオン電池を考えてみたことを語られた。
リチウムイオン電池を搭載した電動自動車(EV)とガソリン車が走行したときだけを比較すれば、EVの方が二酸化炭素の排出量が少ないのは誰もがわかる。ただ、EVは大量の電気を蓄えて走るため、電気をつくるときの各国の発電所の事情により、多少違いがある。例えばフランスは、国内の原発の比率が世界各国の中でもずば抜けて高いため、発電時の二酸化炭素の排出量は少ない。一方、インドや中国は、原発や水力発電、太陽光・風力などを合わせても、発電による二酸化炭素の排出量が多い。日本や米国、ドイツは、インド・中国に準じる。こうして考えると、リチウムイオン電池を搭載したEVで同じ距離を走行すると、フランスは、日本やインドより勝っているとの意見が欧州から出ている。また、欧州でもリチウムイオン電池のLCAの計算を進めて、各国のリチウムイオン電池の製造時までに排出する二酸化炭素の量を加えると、日本とフランスの差はリチウムイオン電池の原料調達や製造の違いから差が縮まるが、またフランスが勝ると言う。これに対して、原田氏は、「こんな単純に計算で良いのか、違うのではないか」と異議を述べている。
欧州の計算では、リチウムイオン電池の原料調達や製造のうち、「その他」として計算が曖昧にしているところがある。また、材料の粒度など品質面までの考慮が不足している。原田氏は、例えば特許から製造方法を比較し、その技術の違いを考慮しないと、単純にフランスが勝っていると言ってはいけないと言う。
ユミコアが進めるリチウムイオン電池のバリューチェーン
ユミコアのDirector Recycling and Extraction TechnologiesのJeroen Heulens博士は、リチウムイオン電池に含まれる多くの原材料と構造の複雑さが抱えるリサイクルの難しい点を、自社の独自な技術とサービスを展開していることを紹介した。
ユミコアでは、世界各地に拠点を持ち、多くの稀少価値の高い金属を再生している。環境負荷の小さい自動車を持続可能な状態にするためのキーとして、金属の製錬とそのサプライチェーンが重要だと語る。そして、ユミコアでは、廃棄されたリチウムイオン電池から17種類の金属を回収できる技術を持っている。これまでにも電子基板などから、持続可能な方法で金属を回収するためのプロセス設計を進め、リチウムイオン電池にも応用していると言う。
そしてこれからもリチウムイオン電池とともに ノーベル化学賞受賞記念講演
最後に旭化成株式会社名誉フェローの吉野彰氏が登壇し、リチウムイオン電池でノーベル化学賞を受賞された記念講演を行った。吉野氏は、IRRSGでは、これまで過去2年間、新年初めの1月末のIRRSGで、リチウムイオン電池の技術的な最新状況なども説明している。今回は、技術の話を少し離れて、最初に今回のノーベル化学賞受賞に至るリチウムイオンとのノーベル賞との関係を語られた。今回のノーベル化学賞受賞には、正極と負極材に貢献した吉野氏を含めて3人のリチウムイオン電池の貢献者がいた。そして、過去の日本人のノーベル賞受賞者のうち、福井謙一氏のフロンティア軌道論、そしてその理論が発見につながった白川英樹氏の導電性高分子のポリ・アセチレンが、リチウムイオン電池の負極材開発につながったと言う。
ただ、今回の受賞理由が「モバイルITへの貢献」だけならばよかった。でも、「スマート社会への期待」つまり地球環境問題を解決することへの期待も含まれたことから責任を感じたと言う。将来に向けて、リチウムイオン電池を使って、「環境」と「経済」と「利便」の3つを対立させず、バランスよく揃えれば良いと吉野氏は言う。そのため、クルマのEV化と、搭載したリチウムイオン電池、クルマのシェアが進む社会に向けてCASEとMaaSを利用し、それらをAIEV(Artificial Intelligence Electric Vehicle)として社会に広めることが重要だと言う。そして、吉野氏自身がAIEVの推進に関わり、社会に役立てたいと語った。
ここでは講演の概況を紹介する。それぞれの講演の詳細は、別にMIRUに掲載する予定です。
(K.AKIYAMA)
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