「日本版サーエコは楽しいはずだ」 サイクラーズ(株)代表取締役 福田 隆氏
12月18日にIRRSGウェビナー「CE時代の本質的な資源循環ビジネスと人材のダイバーシティ」と題するオンラインイベントは、サーキュラーエコノミーとリユース、そのための人材確保・人材育成について発表と意見交換が行われた。トップバッターとして、この9月にサイクラーズを立ち上げ、リユース事業を含めたサーキュラーエコノミー事業を本格化させた福田隆氏が登壇。モノの流れが大きく変わりつつある時代を読み解き、リサイクラーとしてリユースへのチャレンジを呼びかけた。
■サイクラーズを設立し、組織体制を改革
サイクラーズ(株)代表取締役 福田 隆氏
これまでの東港金属グループという組織体制を、サーキュラーエコノミーを志向していくための体制に改めた。完全持株会社のサイクラーズの下に、資源リサイクルの東港金属、リサイクルIT事業のトライシクル、運搬を行うトライマテリアル、ほか商社などで構成し、全体でサーキュラーエコノミーを動かしていくという。全体の年商規模は約70~75億円。
いま、3つの大きな社会の動きから、リサイクルへ変化がもたらされている。サーキュラーエコノミーが必然とされる3つの背景を指摘する。
■ITとデータ量の爆発的進化
ソフトバンクの資料によると、この20年でデータトラフィック量は1000倍になり、インターネット企業の時価総額も1000倍になっているという。
ITの爆発的進化により、B to Bでも業務フローが大きく変化している。事業者向け資材の通販会社であるモノタロウ(下図)の場合、2003年はFAXが7割を占めていたのが、2019年にはほとんどがWEBからの受注になり、電話やFAXからはほぼなくなっている。世の中の業務はインターネット化してきているのが実情だ。
■あらゆるものを共有する「シェアリングエコノミー」の到来
(シェアリングエコノミー協会資料より)
シェアリングエコノミーとは周知のとおり、ヒト・モノ・カネ、場所、自動車などの遊休資産をインターネット上のプロットフォームを介してシェア(賃借・売買・交換)していく新しい経済の動きのこと。ご近所から醤油を借りる時代が再び来ようとしている。総務省の情報通信白書によると、全世界のシェアエコノミー市場は、2025年には約35兆円(3350億ドル)という試算がある。個人的にはまだまだ伸びるとみている。今後は爆発的に拡大していくだろう。
いま、あらゆるものを共有する社会が始まりつつある。空間やモノのシェア、移動、スキル(労働)、クラウドファンディングなどでお金のシェアする世の中になりつつある。
(シェアリングエコノミー協会資料より)
■シェアエコで、何が変わる?
シェアエコで大きく変わることは、モノの所有者が変わることだ。所有者がユーザーではなく、ユーザーにサービスを販売するPaaS(Product as a service)になると、廃棄物処理の流れも変わる。我々事業者は、例えばトヨタから一般の乗用車を預かるようになる。
そしてモノの稼働率がアップする。中のソフトウェアを更新したり、修理やメンテナンスすることで利用期間が延びたりする。
また兼業や副業が増えていくことで多様性が広がる。時間の量り売りする時代になって、仕事や人間関係のリスクヘッジにもなる。苦手な人間関係を回避できて幸福度もアップするだろう。
さらに格差が減る。誰もがモノ・サービスの恩恵を受けやすくなる。例えば、高価で買えなかった家が使えるようになる。動脈・静脈のくくりがなくなり、R事業者が商品化 製造業がサービス、リサイクルまでつながる。というように加速していく。
■資源の半鎖国時代へ
ご存知の通り、中国の廃プラ輸入が禁止になり、代替地としてマレーシアなど東南アジアへ輸出が移ったがこれも滞りつつある。来月からのバーゼル法施行も始まり、今後は必然的に国内で完結する方向になる。次に、われわれ再生事業者の技術力向上がより必要になってくる。国内で再生原料化し素材製造まで完結する時代になってきたといえる。
そうなると、動脈産業と静脈産業の区別があいまいになっていく。メーカーが製品を生産して流通・消費した後に、われわれが回収してリユース・リサイクルしていくという1つのモノの流れが、右図のように、メーカーがリサイクルまでしたり、シェアやリメイク・リペアへ流れるなど、より複雑化していく。そのとき、それぞれの受け手に我々はなれているのかをよく見ておく必要がある。
■洋風より和風の方がしっくり?!
英国のエレンマッカーサー財団による、サーキュラーエコノミーの概念図、通称「バタフライダイアグラム」がある。左側が食品などバイオ系、右側が工業製品系の循環を表している。なるべく輪の外に廃棄物が出ないように、循環させるイメージだ。
(エレンマッカーサー財団HPより)
欧州は概念図を用いて、経済を維持しながらも廃棄物を減らしていくモデル(デカップリング)を、数値を測定しながら論理的に実現させていこうとしている。
バタフライダイアグラムの理念は分かるが、リサイクラーとしては腹落ちしきれない思いがある。もっと現場に即した日本らしいやり方で進めたい。それが下図の和風サーキュラーエコノミーの構想だ。
江戸時代はリユース・リペア・リメイクをする徹底的なリサイクル社会だったことが知られている。竹や木や藁など自然素材から作られたモノは修理して繰り返し使い、使用後に燃やした灰からは藍染のアルカリ材をつくり、木の灰は日本酒の麹菌を育てるのに使われた。これらを副業的に行っていた。百姓というのは多様な仕事を持つ人々の呼称で農業だけをしていたのではない。今、再び「副業の時代」となり、モノを循環させる仕事ができ人を増やしていきたいと考えている。現在の働き方へのアンチテーゼになるのではないだろうか。
衣類については、綿花から糸を紡いで布を作り着物を着た後は、質屋・古着屋へ回ってリユースをし、さらに雑巾やおむつにして、最後は燃やして灰になる。
(バイオインダストリー協会HPより)
食品については、コメを作るときのヌカや稲わらやモミも屋根や肥料、飼料など生活全般に使われ捨てるところがない。菜種は油をロウソクや肥料にしたり、井戸水は繰り返し使って最後は畑にまいて余すところなく使われた。こちらの日本風の方が、自分としてはすっと入ってくる感じがする。
■ITを活用したサーエコ事例
最近の例を日経新聞から2つほど紹介する。1つは北海道大学博士課程の留学生がつくったリユースアプリ。数年しか日本で暮らさない留学生を対象に、冷蔵庫や自転車など生活必需品の仲介をするというもの。卒業すると捨てるのは「もったいない」というところから生まれたという。決して特別なIT技術というわけでもないが、生活に密着した身近さが注目されたのではないか。
→ https://www.nikkei.com/article/DGKKZO66863380R01C20A2L41000
もう1つが、メルカリだ。いまやメルカリは単なる個人間のフリマアプリ事業のプラットフォーマーではない。出品から片づけ、発送代行までを他社との連携で網羅する。我々が廃棄物の排出者に対して、これだけ自動化されたサービスを出せているのかと考えさせられる。シェアエコノミーとサーキュラーエコノミーの進化モデルではないだろうか。
■時代はリサイクルよりリユースへ!
これだけリサイクルの時代といわれる中、驚くべきことに実際のマーケットは20年間増えていない。環境省の資料によると、廃棄物処理・リサイクル産業の国内市場は約40億円のまま20年間は横ばいだった。つまり、他の新しい事業が増えているはずで、我々も試行し進化していかないと、従来型に留まってしまうことになる。
(出典:環境省HPより)
リユース市場はどんどん増加しているのが下図になる。2018年時点で2兆1880億円、その後の予測も拡大傾向になっている。
(出典:「リサイクル通信」より)
国内の中古品市場は、C to Cは2015年に1兆1000億円だったのがメルカリなどのネットフリーマーケットの出現で2018年には2兆1880億円と2倍増となった。対するB to Bの中古品市場は2000~3000億円と言われていて、未開拓の状況だ。新品に対する中古品は1~2%とわずか。自動車の中古車の新車比率が74%と成熟市場であるのに比較しても大きなビジネスチャンスがある。中古品の場合は、さらにリペア・リビルド部品市場が上乗せされると期待できる。
■「ReSACO」はスマホでできるサーエコアプリ
弊社リサイクラーズグループのIT分野を担うトライシクルでは、「ReSACO」というサーキュラーエコノミー対応プラットオームを立ち上げている。
アプリ上から不用品の出品と購入ができ、不用品の回収もゼロ円で行い、スクラップ品・産廃処理まで含まれるというものだ。法人と個人の両方に対応するものだ。この中でAIを使った簡易査定も行っている。
ただし気を付けたいのが、イノベーションは大切だがオリジナリティに固執しないほうが良いということ。FacebookやLINE、Googleも実は後発のアプリ。よりよく進化しつづけることが、大事なのだと考える。
■リサイクラーは中古品ビジネスに強い!
中古品のリユース事業を始めてみて気づいたのは、資源リサイクラーや廃棄物処理事業者が強いということだ。
特にロングテール戦略に強い。従来の実店舗型の中古品ビジネスは赤い「売れ筋」の商品を集めて販売してきたが、Amazonなどのネットビジネスでは倉庫が不要で今まで「死に筋」だった商品も広く扱うことができ、飛躍的に成長した。
我々リサイクラーの場合は、万一売れ残っても廃棄物として自社で処理することができ、物流面でも既存のシステムを利用できるので、初期投資などのコストが低く抑えられる強みがある。そのため何でも受け入れるロングテール戦略をとることができる。現在は何が売れるのかの見極めを行っている。
千葉のリサイクル工場近くに、思い切って2万3000坪の土地を入手し、「ReSACOリサイクルセンター」を建設した。
5棟のうち1棟はリペア・リメイク工場。売れなければ、近隣の自社シュレッダー工場でリサイクルができる。
リペア・リメイクを試しに自分でやってみると非常に面白い。サーキュラーエコノミーの理論的な部分も大事だが、実際に手を動かすことは楽しめる作業だ。例えば、売れないスチール製事務机(写真:左)を木の天板を張り合わせてリメイクした(写真:右)。
汚れていたイスの布を張り替えて木の部分も塗り直すと、味のある家具に生まれ変わった。江戸時代に人たちも、他の仕事と組み合わせながら、楽しく作業をしていたのではないかと思いを巡らせた。
さらに、部品取りもしていく。農機用中古シートや、燃料タンク、機械制御パネルなどさまざまなリユースパーツとして流通させていく。同時に親和性の高いリペアとも一体化していき、リビルド・リマン(新品同様に再製品化)へとつなげていきたいと考えている。
■サーキュラーエコノミーを進めていくための5つ提案
最後にまとめとして5つの提案をしたい。1つは、サーキュラーエコノミーのマクロだけでなく、ミクロのことを知ることが重要。マクロとしては世界のルールを知ってゲームの達人になることが必要だし、ミクロとしては手を動かして楽しみながらリメイクしたり、販売することの両方を見ようということ。
2つめは、地球全体の環境問題というのはイメージとして大きすぎる。身近な「もったいない」という言葉の方が、自分ゴト化するにはしっくりくるように思う。
3つめは、特にB to Bの静脈産業は社会を陰から支えてきたが、これからはもっと前面へ出ていくって世の中でアピールすることが重要な時代だ。
4つめは、「全て実験と思え」という実験思考。新規事業には戸惑があると思うが、すべて実験を積み重ねていく中での失敗と成功と考えれば投資もしやすいのではないだろうか。
最後の5つめは、ITによる効率化は避けられない。受け入れ活用しようというもの。若い人が共感したり働き方改革をするのに必要だ。みんなで前向きに頑張っていこう。
■質疑応答
外川先生:サイクラーズをつくり、リサイクル会社を新たな形にしていくのに感銘を受けた。ミクロのリメイクを楽しむというのは、実験思考に通じると感じたが、マクロのゲームの達人というのはどういうことか。
福田氏:ゲームのルールを知るということ。サーキュラーエコノミーの標準化や、環境負荷を知るための数値化をどのように進めていくのか。現場のリサイクラーとしてはなかなか難しいが、身に着ける必要がある。マーケットの中で自分たちの動きを示すのにも重要。
外川先生:研究者やシンクタンクとうまく連携していくことが、ゲームの達人につながるかもしれない。経産省や環境省などの行政との連携も必要になると思う。
福田氏:原田幸明先生が呼びかけ人代表の「広域マルチバリュー循環研究会」でも楽しく勉強させてもらっている。学びつつリサイクラーとしてもチャレンジしていきたい。
外川先生:サイクラーズは150人規模の大きな企業だが、中小零細の隙間市場でやってきたリサイクラーが、ESG投資など金融機関からの融資を受けるにあたってのアドバイスはあるか。
福田氏:会社は規模に応じての役割がそれぞれにあると考える。少人数ならば働き方改革のような当事者に難しい分野や、デザイン系を請け負うこともできる。ITの力が大きい。
ヨーロッパ投資銀行は2019年に29億ユーロ(3000億円)をサーキュラーエコノミー関連に投資しているという。これは大変うらやましい。
外川先生:欧州の投資に比べてここは日本で遅れていると感じる。
福田氏:日本のベンチャーへの投資の動き、環境ビジネスに投資するのが怖いというのがあるらしい。日本最大のベンチャーキャピタルのジャフコグループも、廃棄物処理事業者への投資を躊躇するものがあるという。リサイクラーの社会的な認知がなかなか進んでいないことが要因にある。
外川先生:提言の3つ目にあった、もっとリサイクラーが社会の前面に出ていくことが重要という話に通じる。
(IRUNIVERSE FukuiN)
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