元「三重スパイ」に聞く-日本の「ファイブアイズ」参加表明をどう思う?

2020年夏、米国が主導し、5カ国で構成される機密情報を共有する枠組み「ファイブアイズ」に日本政府が参加を表明したとの情報がメディアで伝えられた。MIRUPLUSはこのほど、母国アルジェリアからフランス、さらに英国MI5の3カ国の諜報機関を渡り歩き、イスラム過激派を監視した男として暗躍した元「三重スパイ」、レダ・ハセイン氏(写真)に日本がファイブアイズに加盟すべきか、また、彼自身の諜報活動の体験から「インテリジェンス」とは何かについて聞いた。(写真はハサイン氏のSNSから転載)
ことの発端は2020年7月、河野太郎防衛相(当時)が英国で開催されたシンポジウムで、日本が「第6のアイズ」になると提案したことだった。河野提案は中国政府を念頭に置いたものとされ、中国がドル経済体制から独立するために国際秩序を変えようとしている動きを牽制したものとされた。
河野提案を受け、英紙「ガーディアン」は「日本のファイブアイズ加入提案に英政界が歓迎している」とした上で、日本が参加することで、戦略的経済連携を拡大し、重要鉱物などの戦略的備蓄を増やせるとする専門家の見方を伝えた。
日本がファイブアイズに加盟すべきか否かについて、ハセイン氏はまず「言語」を取り上げた。ファイブアイズの共通語は英語であり、日本語を母国語とする日本にはハンデがあると指摘。自らが来日した際にレストランやタクシー、交番などでのやりとりで手こずった経験を踏まえ、日本は言葉の壁がネックになるとの見方を示した。
その一方で、諜報機関内であれば、専門家同士が理解し合えるはずなので、日本の加盟はよいことだと述べた。ハセイン氏は、諜報活動が一部の限られた専門家たちの仕事でなく、国民全体による情報収集の総力戦とでも言いたかったのではないかと感じられた。総力戦で得た情報を正確に分析し、戦略につなげられるかが重要との認識のようだ。
ファイブアイズは米国、英国、カナダ、豪州、ニュージーランドの英語圏5カ国の諜報にかかわる協定である。「UK-USA Agreement」と呼ばれ、5カ国の諜報機関が世界各地で情報収集し、それを共有している。日本が6番目の目として加盟するのであれば、国内における「スパイ防止法」などの法整備が求められるとの指摘も出ている。
この点について、ハセイン氏は諜報活動に関連する日本の法制度がどうなっているのか分からないとした上で、インテリジェンスを共有し合えることで、日本の安全保障にプラスになるとの見解を示した。
三重スパイとして暗躍した経験からハセイン氏にとって「インテリジェンスとは何か」について聞いてみた。すると、敵となる相手を十分に知り尽くすことであると強調。戦争はインテリジェンス戦であり、第2次世界大戦でドイツが敗戦したのは、米英などファイブアイズの情報収集、分析力が優れていたからだと付け加えた。
その上で、現在は情報技術(IT)などの目覚ましい発達で、情報機関の「インテリジェンス」はメディアから得るところが大きいとし、「敵」に潜入して得る情報は3%未満とした。最後に「敵」の言語を理解することは「ゲームチェンジャーになり得る」と締めくくった。
◆レダ・ハセイン氏の略歴
ハセイン氏の諜報活動を描いたノンフィクション『三重スパイ』(小倉孝保著・講談社刊)によると、ハセイン氏は1961年、アルジェリア生まれ。1992年からのアルジェリア内戦で、新聞記者だった同氏もイスラム過激派集団のテロ対象者となった。パリに渡り週刊紙を発行しようとしていた矢先、アルジェリアの武装イスラム集団(GIA)から執拗な脅しを受け、同国の諜報機関の協力者として1994年に渡英。その後、フランス、英国の諜報機関でスパイとして活動した。
Naoya Abe
Former Bloomberg News reporter and editor
Capitol Intelligence Group (Washington D.C.) Tokyo bureau chief
Currently working as Managing editor of the news site MIRUPLUS
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