米大統領選終えて・・下院の「極端な女たち」

米国大統領選挙は歴史に残る大接戦でひとしきり盛り上がったが、同時に行われた下院議員選挙では、右派も左派も「極端な女たち」がパワーを見せつけた。強烈な個性で有権者の心をつかんだが、中には次期大統領選挙の台風の目となりそうな人もいる。混沌とする米国政治を理解するには彼女らのことを知ることが欠かせない。
下院は2年に1度、全員が改選される。「良識の府」と言われる任期6年の上院に比べ、自らの地位を守るのは厳しい。上院議員の定員は各州2人だが、下院は人口によって選挙区の数が決まり、州によって人数が異なる。小選挙区で激戦を繰り広げるため、大衆迎合に走りやすいのが特徴だ。だからこそ、勝つには強烈な個性が必要となる。
まず左派から紹介しよう。「The Squad」と呼ばれる若手4人組がそろって2期目の当選を果たした。「Squad」は軍隊や警察の「分隊」や「班」を意味するが、「一体感を持つことができる、自ら選んだ仲間」「いつも一緒にいる仲間」などという意味で普段の会話に使われている。さしずめ「左派かしまし4人娘」とでも言えるだろうか。
その4人とは、ニューヨーク州14区選出のアレクサンダー・オカシオコルテス氏(31)、ミネソタ州5区選出のイルハン・オマル氏(38)、ミシガン州13区選出のラシダ・タリーブ氏(44)、マサチューセッツ州7区選出のアヤンナ・プレスリー氏(46)。
いずれも有色人種。再生可能エネルギーで経済構造そのものを変えようと「グリーン・ニューディール」などを強く主張し、「民主社会主義」政策を推し進める。民主党内ではかなりの「進歩派」のため党内主流派と対立することもしばしばである。そこがまた、「格好いい」のである。
2期目を目指した今回の選挙で、4人はいずれもライバル候補に大差をつけて圧勝した。プレスリー氏の得票率は87.3%に上っている。
この中で特に注目されるのはオカシオコルテス氏だ。名前を略した「AOC」だけで全米で通じるほどの有名議員だ。選挙区のニューヨーク州14区はニューヨーク市のブロンクス地区とクイーンズ地区にまたがっているが、移民などブルーカラー労働者が多く住む地域である。
ボストン大学を卒業後、ニューヨーク市のメキシカン・バーでバーテンダーとウエイトレスをやっていたが、2018年の選挙で彗星のごとく現れ、プエルトリコ系の長身の美女は史上最年少の女性下院議員となった。「グリーン・ニューディール」で既存経済からの脱却を主張するほか、企業献金を受け取らない政治姿勢が労働者階級、若年層から圧倒的な支持を得ている。
ソーシャルメディアを巧みに使いこなしていることも支持拡大の要因だ。ツイッターのフォロワーは740万人、インスタグラムは530万人に上る。
電子商取引のアマゾンが2021年にニューヨーク市に大規模施設を建設する計画が浮上した際は、「労働者が搾取されるだけだ」として計画に強く反対し、アマゾンに計画を撤回させた。ニューヨーク市に2万5000人の新しい雇用が生まれることが期待された計画だっただけに、民主党内でさえ、オカシオコルテス氏の姿勢に疑問の声が沸きあがったが、思想・信条を貫いた分、オカシオコルテス氏の人気を押し上げた。
そして今、大統領選挙が終わったばかりだというのに、4年後の大統領選挙の有力候補になるとして、脚光を浴びている。
大統領選挙で当選した民主党のバイデン氏は就任時には78歳になる。民主党が過半数を握る下院の議長、ナンシー・ペロシ氏は現在80歳。民主党の上院院内総務、チャック・シューマー氏は今月で70歳になる。民主党幹部の高齢化は支持層の広がりにはマイナスに働く。民主党は若返りを急がなければならず、オカシオコルテス氏の若さは大きなアピールポイントとなる。
オカシオコルテス氏は1989年10月13日生まれの31歳。米国憲法では大統領候補は大統領としてホワイトハウスに入る時に35歳になっていなければならないが、仮にオカシオコルテス氏が民主党の候補となれば、選挙期間中に35歳になることとなり、35歳ほやほやの極めて若い大統領になることもあり得るのだ。
しかし、ここにきて逆風が吹いている。オカシオコルテス氏は選挙戦中に発売された雑誌、「バニティー・フェア」の表紙を飾るとともに、同誌にインタビュー記事が掲載された。ファッションモデルさながらにポーズをとるスーツ姿の写真が目をひいたが、身にまとった服や靴はいずれも超高級ブランドで、総額は日本円にして140万円を超える。こうした服を着て笑顔を振りまく写真に「どこが労働者の味方なのか」という批判の声が強まっている。また、選挙区のニューヨーク州14区の選挙資金総額は全米の下院選挙区の中で2番目の額。つまり全米で2番目に高価な下院議席に座っていることになり、「民主社会主義」とは裏腹にカネに満ちあふれているという印象が、じわりじわりと広がりつつありる。「本物の左派」かどうかはこれから有権者が見極めることになる。
右派の「極端な女たち」は「QAnon(キューアノン)」と言われる陰謀説を信奉する女性だ。ジョージア州14区のマージョリー・テイラー・グリーン氏(46)とコロラド州3区のローレン・ボーベルト氏(33)だ。共に初当選を果たした。
「QAnon」とは「バイデン氏ら民主党幹部は児童の人身売買にかかわっている」などの根拠のない陰謀説をインターネット上などで流布し、「トランプ大統領はこうした悪と闘っている正義の人」という論調で、トランプ氏支持を訴える極右運動だ。トランプ氏の選挙集会に参加している人が「Q」と書かれたプラカードを掲げたり、Tシャツを着ている姿が日本のニュースでも流れたが、2人はこうしたトランプ支持者の中から下院議員となった訳だ。
グリーン氏は夫とともに小さな建設会社を営む。政治や公職についた経験はない。インターネット上で盛んに陰謀説のついて持論を書き込んでいた主婦である。8月の共和党内の予備選で勝利した際、トランプ大統領はグリーン氏のことを「将来の共和党のスターだ」と祝意を送っていた。
ボーベルト氏は銃の所有権利を訴える活動家だ。4人の子供の母親でもある。銃をホルダーに入れずに持ち込んで食事ができるレストランを経営している。レストランは銃愛好家の間では有名店だ。ボーベルト氏はこれまで、インターネット上などで公然とオカシオコルテス氏ら「The Squad」を攻撃しており、議場での対決が見ものである。
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Taro Yanaka
街ネタから国際情勢まで幅広く取材。
専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。
趣味は世界を車で走ること。
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