トルコはアメリカとの関係を改善させる気なし…バイデン―エルドアン会談

先月31日、アメリカ大統領バイデンとトルコ大統領エルドアンは、ローマにおけるG20会合の中で、F-16の売却交渉を含む会談を実施した。
報道によれば、バイデンから、トルコ国内の人権問題、ロシア製地対空ミサイルS-400導入について物言いがあったということだが、エルドアンはF-16については「前向き」な結果が得られたとした。
アメリカは、トルコがS-400導入を断固として進めたことで、2019年にF-35の供与先から除外した。トルコは除外されたF-35計画の代替案として、F-16の近代化などの「代償」を求めている。つまり、トルコが最低限求めた譲歩が多少進展したかもしれない、という苦い結果であった。
トルコ外相チャブショールは4日、大国民議会内の計画予算委員会で、アメリカとの間にクルド問題、S-400などの懸案について協議する作業部会を設置すると述べた。交渉が不首尾に終わったので、チャブショールとしてもせめてもの成果を演出したかったと見える。「アメリカ側から申し出があった」とアメリカを譲歩させたと主張することに余念がなかった。
トルコは肝心な点でアメリカに歩み寄ることはなく、本気で交渉を進展させようとしなかった。会談後の2日、トルコの極右団体は米兵に袋を被せるという暴挙を行い、トルコに敵対する勢力を匿うアメリカを許すなと気勢をあげた。こちらが隠していた本音ではなかったのか。
S-400問題は、防衛問題ととらえられるが、事の発端はクルド問題を巡るアメリカとトルコの対立があった。アメリカは、イスラム国掃討にやる気を見せないどころか、テロ組織と裏でつながってる疑惑のあったトルコより、地上部隊の役割を果たしてくれるクルドを選んだ。
S-400導入を決めた理由を「国防上必須」としたが、ロシアに接近するためのプーチンへの手土産だった。同時に「トルコを軽視するな」というアメリカへのメッセージであった。
トルコがステルス機を相手に戦闘を展開する局面は考えづらく、寧ろ、当時対立を深めていたアメリカとの衝突を想定し、F-35相手に守りを固めようとしたとすら言えなくもない。いずれにしても、「国防上の理由」という説明に整合性はない。
トルコの野党系有力紙「共和国」は、トルコ出身アメリカ在住のトルコ政治専門家、ソネル・チャアプタイによる「アメリカの3つの壁」との指摘を伝えた。それによれば第一の壁は「クルド問題」であり、「クルド勢力とアメリカの絆は以前ほど強固でない」とトルコにとって楽観的な見方を伝えた。
バイデンは、トルコの脅威に直面するクルド勢力に対し、積極的な支援をしているように見えない。また、クルド勢力がトルコの攻撃による反撃としてロケット攻撃を実施しトルコ側に死者が出た際には、クルド側を非難した。
一方、バイデン政権は今、アフガニスタン問題、中国への対応で手一杯であり、足元でも民主党内左派の付き上げに苦しんでいる。中東でさらなる厄介ごとはご免だ、ということではないだろうか。
アメリカにとってシリアのクルド勢力は、勢力を伸ばすイラン傘下の民兵に対する防波堤の価値も生じつつある。バイデンが就任早々、シリア東部における空爆命令を下したことを鑑みれば、イラン傘下勢力と張り合う”地上部隊”を簡単に無碍にできるものではない。トルコが僅かな材料をもって米土関係が改善していると思い込むものは結構なことだが、両国に横たわる具体的な懸案について、具体的な解決案を示し行動を見せなければ、アメリカが中東へ戻ってきた時、後悔することになる。
Roni Namo
東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受ける。日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指している。
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