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EU電池規則最新情報:電池関連業界への影響はいかに

ICBR:第27回国際電池リサイクル会議会場から〜

 現在EUは、電池のバリューチェーンを域内に構築しており、その枠組みとなるのが同規則である。そのため、今後バリューチェーン上の企業の事業戦略は、来たる電池規則や関連規制に大きく影響を受けることになり、電池関連業界は対応への準備を始めている。

 

 ICBRでは、欧州委員会の担当者から新規則法案調整作業における進捗報告があったが、現在の調整内容が採択に至った場合、業界にはどのような影響が考えられるのか?現在も進行中の欧州委員会・閣僚理事会・欧州議会によるトリローグ(三者協議)では、電池関連業界が主張してきた意見は反映されているのか?

 

→(関連記事)2022年国際電池リサイクル会議ICBR② 「欧州新電池規則法案、最新情報」

 

 今回 MIRUではICBRの会場で欧州二次電池業界団体RECHARGE 会長Claude CHANSON博士に取材、こうした疑問を投げかけた。

 

→(関連記事)欧州からの風#274 「新電池規則の行方①:業界団体による三者協議へ最後の駆け込み要請」

 

 

写真Q:新電池規則の調整も最終段階ですが、これまでの電池関連業界の意見は反映されていますか?

A:Claude CHANSON博士:

 良いニュースはあります。その一つは「電池の定義」についてです。これは非常に重要な問題です。電池の明確な定義付けがないと、生産者の明確な定義づけもできません。生産者の定義は生産者責任に関わるものです。調整後の定義は、「直ちに使用できる準備が整った状態の最終品を電池とする」と修正されました。当初は生産者をどこで定義するかさまざまな議論がありました。モジュールの組み立て業者かパックの組み立て業者か。欧州議会では、「電池の有害物質を扱う化学業者を生産者とする」という意見を支持する動きもありました。我々業界では、こうした考え方は妥当ではないと主張してきました。修正された定義は非常に明確で、我々業界は満足しています。もちろん最終採択を待つ必要がありますが、現在の方向で決まると予測しています。

 

 

Q:現状の内容で採択された場合、業界にとっても最も大きい影響は?

A:Claude CHANSON博士:

 まず現状で理解しておかなければならないのは、トリローグは自由議論ではないということです。法案については既にそれぞれの立場が確定しており、その中で妥協策を見つけるという作業です。これまでに修正で改善された点がある一方で、欧州議会による修正案の中に業界にとっては非常に大きな問題となる項目があります。その一つは、当組織でも修正を主張してきた「再生材使用義務」についてです。現段階では業界にとっては良い方向へ向かっているとは言えません。欧州議会では、再生材の定義を使用済み電池由来のみとし、生産スクラップ由来のものは対象としないことを主張しています。現在欧州では大規模な域内電池生産計画を進めており、大量の生産スクラップの発生が予測されています。少なくとも向こう5年間はEV用の使用済み電池の発生にはまだ早く、この期間のリサイクル原料は生産スクラップが主流ということになります。欧州議会の修正案が採択されれば、リサイクラーが当面リサイクルできる原料はほぼ全て除外されることになります。生産スクラップ由来の再生材が規制に定められる再生材の対象とならなければ、リサイクラーがターゲットを達成することは非常に難しい。欧州のリサイクラーのインセンティブも存在しなくなる。

 

 

Q:この点については業界の必要性が全く理解されていないようですね。

A:Claude CHANSON博士:

 全くその通りです。もともとの議論は、プラスチックリサイクルの同様の定義における「誤用」があったことから来ているようです。しかし、電池とプラスチックは全く別のものです。ただ、現状を見るとこの修正を覆すのは難しいようです。このまま採択されれば、リサイクル業者にとっては大きな障壁となることは明らかです。

 

 電池メーカーにおける競争は既に始まっていますが、リサイクル業界における競争もやってきます。現在中国などのアジア諸国が欧州の廃電池を買い取り、利益を上げています。しかし欧州のリサイクラーはそうではない。規制はサーキュラーエコノミーをEU域内で推進するためのものですが、現実にはそのために機能していない。規制は欧州のリサイクラーを支援していないのが現状です。このような状況では、結局のところ、今後も電池のリサイクル市場の大部分はアジアが占有することになるでしょう。

 

 

Q:欧州からアジアへかなりのブラックマスが輸出されているようですが、それは、欧州の業者のリサイクル能力が不足していることもあるのでは?

A:Claude CHANSON博士:

 リサイクル能力の不足ではなく、価格競争です。欧州でリサイクルすることもできますが、企業は常により高い利益性を優先します。海外へ輸出した方が単に経済性に優れているからです。リサイクル能力が拡大しないのは利益性が低いため、利益性が低いために更なるリサイクル規模の拡大化へつながらない、鶏が先か卵が先かの議論です。規制による確たる支援がなければ、欧州のリサイクル産業は脆弱なままです。

 

 

Q:ブラックマスの定義が明確化されれば、EU域外への流出防止につながるのでは?

A:Claude CHANSON博士:

 定義の問題は解決する可能性はあります。新規制でブラックマスを定義づけるという動きがあります。そこでブラックマスが「製品」ではなく「廃棄物」と定義されれば解決です。しかしそれがブラックマスの輸出を防止することにはなりません。廃棄物の輸送に関しては手続きなどが非常に複雑になりますが、不可能ではない。また輸出先の国のリサイクラーがリサイクルターゲットを達成できることを示せば規制上の問題もありません。

 

 

Q:では解決策はあるのでしょうか?

A:Claude CHANSON博士:

 まず生産スクラップ由来の再生材を対象とすれば、欧州のリサイクル業者への大きなインセンティブとなり、更なる投資が期待できます。次に「同等の条件」の設置です。欧州ではカーボンフットプリントの削減をはじめ環境規制が厳しく、業者は対応に多くの投資を迫られコストが上昇し競争に不利になります。欧州の業者を競争で有利にする一つの方法は、廃棄物の輸送に関し欧州企業と「同等の高い環境保全条件」で処理されることを義務付けることです。そうすることで、公正な競争の場を規制が提供できるのです。

 

 EUは、世界貿易機関(WTO)に準ずる意味でも、廃棄物輸出を禁止することによる「直接的な保護主義」政策を取ることはないと思いますが、「同等の条件の義務化」などによる欧州市場の保護政策は可能なのです。

 

 実際、新電池規則では、欧州市場に輸入される製品のカーボンフットプリントの表示や第三者による監査も義務付けています。廃棄物の輸出に関しても二次規則としてこうした条件を加えるべきだと思います。少しずつですが、EUで設置される環境保全に係る高い基準がEU域外からの製品への義務付けられるシステムが整いつつあります。同様のシステムが整備されれば、欧州業者が公正に競争できる市場を構築することができると思います。

 

 

取材協力:

 Dr. Claude CHANSON

 General Manager, RECHARGE

 

 

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SCHANZ, Yukari

 オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。

 趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。

 *ヨーロッパに御用がある際はぜひご連絡ください→ MIRUの「お問い合わせ」フォーム又はお電話でお問い合わせください。

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