インドネシア、ニッケル政策で朝三暮四 製錬が一部停止の可能性、輸出禁止は延期か
ニッケルの世界最大の生産国であるインドネシアの関連政策が揺れ動いている。同国は単純な資源輸出国から高付加価値産業への転換を目指す。外資誘致を進めるとともに強みのニッケル産業における存在感向上の思惑があり、あの手この手の政策を駆使している。
■製錬は一時停止? 輸出禁止は延期?
BtoB取引プラットフォームのフェアロイネット5月31日、「インドネシアの投資省/投資調整委員会(BKPM)の担当者が、同局が一部のニッケル製錬所の一時停止について投資当局と協議していると明かした」と伝えた。特にフェロニッケルとニッケル銃鉄について、将来的に製錬所の建設許可を停止し、代わりに混合水酸化物沈殿物(MHP)の生産を奨励する考えという。
一方、ロイター通信などの外電は5月24日、インドネシアのアリフィン・エネルギー鉱物資源相が同日、6月から全面的に禁止する予定だった金属鉱石輸出について、一部製品の輸出を2024年5月まで認めると話したと伝えた。銅、鉄鉱石、鉛、亜鉛のほか、銅鉱石から出る陽極泥が対象となるとみられる。
■高付加価値産業を目指し「ニッケルOPEC」
こうした一見、ちぐはぐな産業政策の背景には、インドネシアが産業の高度化を目指している事情がある。
インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は2023年5月に広島市で開催された主要7カ国(G7)首脳会議で、「世界は既に植民地時代ではなく、グローバルサウスの国々が単純な資源輸出国に甘んじ続けるのは公平ではないだろう」と話し、ニッケルとバーム油(ヤシ油)について、「世界石油機構(OPEC)のような組織を設立する時期に来ている」と提案したと伝わっていた。
ニッケルは近年の電気自動車(EV)普及でバッテリー材料としての需要が拡大しているが、インドネシアはバッテリー生産までは手掛けていないため、EVブームの恩恵を十分に受けていないという不満が根強い。このため単純な鉱物資源の採掘や輸出を制限し、高付加価値産業への転換を進める。実際、前述の製錬制限計画でもMHPの生産は奨励する方針であるようで、高付加価値品の生産には意欲的だ。
■グレンコアなど誘致へ、「ニッケル指数」創立も考案
産業の高度化を進める具体策として、同国がまず目指すのは外資誘致だ。
中国の金属プラットフォームであるSMMが5月30日~31日にジャカルタで開いた「インドネシアニッケル・コバルト産業チェーン会議(2023 INDONESIA NICKEL AND COBALT INDUSTRY CHAIN CONFERENCE、2023SMM印尼国际镍钴产业链大会)」では、インドネシア政府の高官が相次ぎ講演した。同日のロイター通信などの外電によると、同国のルフット調整相は同会議で、「インドネシアは2026年までに電池関連で319億ドル程度の投資を受ける準備がある」と話した。また、バフリル投資相が「スイス資源大手のグレンコアなどを中心とした企業連合(コンソシーアム)が、インドネシアのEV用電池の関連産業に90億ドル相当を投資する」と明かしたとも伝わった。
一方、同会議では、投資調整省の高官が「ニッケル価格指数」を考案することを計画していると話したとの報道もある。「ニッケルOPEC」と並び、強みのニッケル産業での存在感を強めたいとの意欲が滲む。
インドネシアは世界のニッケル生産の4割を握るだけに、立場は強い。代替が効かない中での輸出禁止を受け、今後も外資がしかたなく同国に投資する展開は十分考えられる。
ただ、問題はインドネシア国内に人材や、物流を含むインフラなどの面で十分な受け入れ態勢があるとは限らないこと。また、強硬姿勢が他国からの反発を招く可能性もある。インドネシアの禁輸措置を巡っては欧州連合(EU)との間で係争になっており、2022年秋には世界貿易機関(WTO)小委員会がインドネシアの協定違反を認めた。
今後も政策が二転三転する可能性は高い。注視の必要があるだろう。
関連記事 インドネシアは6月に輸出禁止令の施行を控えるにもかかわらず、銅や鉄鉱石など5種類の原鉱輸出を認める | MIRU (iru-miru.com)
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(IR Universe Kure)
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