2023年度 夏季賛助会員研修会 講演概要 @日本チタン協会
チタン需要の裾野を広げるための事業活動を継続し、チタンの適用拡大、需要開拓に向けて積極的に取り組んでいる一般社団法人日本チタン協会は7月27日(木)に東京・神田の学士会館にて、2023年度夏季賛助会員総会・研修会(講演)・交流会を開催した。研修会では、トーホーテック株式会社の早川氏、株式会社神戸製鋼の今野氏、及び東北大学 正橋氏が講演された。
概要については、下記記事をご参照ください。
2023年度 夏季賛助会員総会・研修会を開催 @日本チタン協会 | MIRU (iru-miru.com)
本記事では、講演概要を紹介する。
「素粉末混合法によるニアネットシェイプチタン合金部材開発」
トーホーテック株式会社 早川 昌志 氏
ご講演者 早川氏:入社4年目(2016年5月)に、比較的複雑な形状のチタン合金部品を安価に製造するプロセスの確立に従事した。2023年4月トーホーテック(株)技術グループへ異動
<概要>
ニアネット成形に好適な3Dプリンタを使った樹脂モールドの好適な作業条件を確立し、比較的複雑な形状のチタン合金部品を安価に製造するプロセスを確立した。
※ニアネットシェイプ(Near net shape)とは完成品に近い状態(切削・研磨等の後加工をする必要の無いほどの状態)にすることを指す。金属3Dプリンタだけでなく、ロストワックス鋳造・金属焼結などでも使われる言葉である。
<背景>
航空機の回転部やインプラントへのAM(Additive Manufacturing)の普及に伴い、製造方法に変化が現れたが、従来の製造法とAMとの間に非効率な領域が生まれてきた。チタン合金製法としての粉末冶金法には、素粉末混合法と合金粉末法があるが、3Dプリンタ製樹脂モールドを活用することで、冷間加工が可能な素粉末混合法が有する特徴をより効果的に活用し、この非効率な領域を解消させる。
東邦チタニウムグループは、金属チタンを製造販売する「チタン事業」をベースとして「触媒事業」「化学品事業」の3事業を展開している。
その内、トーホーテックはチタン加工品を提供するとともに、チタン及びチタン合金粉末の製造販売を行っている。
講演者である早川氏は、トーホーテック製チタン系粉末の拡販、用途開拓を目的として製品開発に着手された。
従来使用していたゴム製モールドの欠点である高スプリングバッグを解決するため、高ヤング率・低加工硬化率である3Dプリンタ製熱可塑性モールドに置き換えた。
これにより、材質[純Ti(2種相当)、Ti-64、Ti-64基MMC]での種々の複雑形状部材の試作が可能となった。
会場に展示された実施例
「カーボンニュートラルに貢献する高伝熱チタン板HEET」
株式会社神戸製鋼所 今野 昂氏
<概要>
海洋温度差発電(OTEC:Ocean Thermal Energy Conversion)は、海洋の温度差(約15 ℃~25 ℃程度)から発電を行う方法であり、発電効率が重要となる。本講演では、チタン板に圧延により凹凸を付加した高伝熱チタン板HEETの実用化及び実証プラントでの結果を紹介した。>
チタンの耐食性を活かした用途として、プレート式熱交換器の伝熱プレート、苛性ソーダ電解時の陽極への利用がある。
熱交換機用高伝熱チタン板HEET (参考文献)038-041.pdf (kobelco.co.jp)
凹凸転写材の製造には、圧延中のロールと被圧延材の速度差を制御して、転写形状をコントロールする必要がある。先進率を制御し、量産圧延設備にて微細凹凸転写を実現した。微細凹凸による約6%の面積拡大効果に加え、平滑面と微細凹凸面の沸騰状況を比較した結果、蒸発伝熱性能が平面の約24 %アップした。
世界に先駆けて沖縄・久米島で海洋温度差発電の実証を開始 -再生可能エネルギーにおける安定的電源の役割を目指して-|2016年8月|産学官連携ジャーナル (jst.go.jp)
「新規インプラントTi合金のバイオ機能化」
東北大学 正橋 直哉氏
<概要>
チタンの特性の一つに生体親和性がある。
人工股関節インプラント用の大腿骨側ステム部は、ヤング率を小さくして骨のヤング率に近づける必要がある。これは高い弾性率の素材を使用すると材料に荷重が偏り、大腿骨近位部において廃用性骨萎縮が生ずることで骨萎縮によるインプラント周囲の骨折やゆるみを引き起こすためである。
骨と近い弾性率をもつ素材が求められ、マルテンサイトの斜方晶の配向を揃えることで、約40 GPaの低弾性率のTiNbSn合金を開発した。
本研究ではこの低ヤング率TiNbSn合金に骨伝導性を付与するため、生体親和性に優れた緻密なルチル型TiO2を陽極酸化で担持した。
参考文献
応力遮蔽を抑制する低ヤング率TiNbSn合金に骨伝導性を付与するために、高電場印加下で強酸中にて陽極酸化を施した。
TiNbSn合金の表面に生体活性に優れ、結晶性の高いチタン酸化物を担持することができ、骨伝導性を確認した。In vivo試験から引抜強度は、未処理材より有意な増加を確認でき、TiO2表面に形成された新しい骨組織によりTiNbSn合金との密着が強固になったと考察できる。
In vitro試験後の試料のTEM-EDX分析から、多孔質のTiO2中にCaやPの多量の浸透を確認し、骨伝導性は生体活性の高い多孔質TiO2担持と骨構成元素の浸透によるモデルを提案した。
<一般社団法人 日本チタン協会 日本の金属チタン統計推移(暦年)>
スポンジチタンの出荷量は、2019年には過去最高の60,737トンを記録した後、2020年に入ってから新型コロナ感染拡大影響による航空機大幅減産に伴い、特に米国向け輸出が急減して、2020年は34,098トン(前年比60 %減)にまで急減した。2021年には航空機生産の回復(単通路機)による米国向け回復、中国向け増などのよって、43,488トンまで増え、完全に底を打った。
ウクライナ侵攻に伴うロシアへの経済制裁(ボーイングがロシアのチタン製品の購入を停止)等により米国展伸材メーカーからのスポンジチタン引き合い増などにより、日本スポンジメーカーの稼働率は極めて高くなってきている。2022暦年の出荷量は国内向け18,530トン、輸出は36,316トン、計54,846トンまで急回復している。
図1 日本のスポンジチタンの生産及び出荷推移
日本の展伸材の出荷量推移については、5年間連続で増加を続け2018年には、18,922トンまで増えたが、2019年は16,303トン(前年比86 %)と減少に転じ、2020年は12,544トン(前年比77 %)にまで減少した。2021年は月ベースで底を打ったものの年ベースでは11,834トンに留まった。
2022暦年の国内チタン展伸材出荷量は前年比20.0%増の1万4203トンとなった。船舶などに搭載されるプレート式熱交換機(PHE)向けなどの大口分野において、コロナ禍で落ち込んでいた需要回復が本格化し、3年ぶりのプラスとなった。
全体の6割に当たる輸出は24.9%増の8,905トンとなった。輸出の半数を占めるPHE向けは24.2%増の4,341トン。大きく回復し、過去2年間は届かなかったコロナ禍前の19年実績(3,832トン)を上回る高水準だった。
国内向けは12.7%増の5,298トンだった。国内向けでは最大分野の電解が10.5%増の1,437トンとなり、コロナ禍前の19年(1,319トン)並みの水準に回復した。
図2 日本のインゴット及び展伸材の出荷推移
(IRUNIVERSE tetsukoFY)
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