東大レアメタル研MMC伊左治勝義氏「小名浜製錬所の変革」
今年開催された106回目のレアメタル研究会は、岡部徹教授による開会挨拶、ユミコア社八木良平氏の「ユミコアに於けるバッテリーリサイクル」、岡部教授の「レアメタルに関する最近の話題」に続き、三菱マテリアル㈱(“MMC”)金属事業カンパニープレジデントの伊左治勝義氏による「時代に対応した小名浜製錬所の変革」の講演があった。
小名浜製錬所は、業界3社の「共同製錬所」と言う新たなビジネスモデルが日本で1963年から始まった。アーチ形釣り天井構造で燃焼ガスを反射して長さ33m、幅11mの大型炉床で銅精鉱を熔解して銅マットとスラグに分離する非常に古いタイプの炉が2基稼働している。炉床面積が大きい銅製錬炉は、炉床の熱損失も大きくエネルギー消費量も多い事がハンディキャップでもあるが、反面反応が安定しており、操業の安定性にもなっている。2023年業界2社が株主を返上した結果、創業70年目にして、MMCの100%所有会社となった。
小名浜製錬所の70年の歴史では、第一次、第二次エネルギーショックで燃料である重油のエネルギーコストが大きな負担となった事に始まり、各種の代替エネルギーの模索の歴史となった。①廃タイヤチップ、②石炭直燃、③廃タイヤの乾留ガス化、④シュレッダーダストの混焼などあらゆる代替燃料から産業廃棄物までの活用により、重油消費量は限界まで削減されて経営安定化が図られてきた。
東日本唯一の銅製錬所は、産業廃棄物である自動車シュレッダーダストの大きな受け皿となって廃プラを燃料として、混入する銅スクラップも原料として生き延びてきた。その事業は既に銅製錬所の機能とリサイクル処理工場の両方の機能で事業が構成されるビジネス構造となった。
そんな苦難の歴史の中で想定しなかった大事件が2011年3月11日に起こった東日本大震災であった。製錬では転炉などの粗銅が固化し、電解工場は地震で電槽が大きな被害を受けた。更に外洋船が放射能の問題で寄港しない出来事まで起こった様である。復旧には同業他社の支援や塩ビの電槽の修理に日本全国の塩ビ加工業者が小名浜に集結し、復旧を支援してくれた。その結果3ヵ月間で復旧し6ヵ月後には電解もフル操業まで回復した。
日本の銅製錬業は中国の台頭で、製錬コストの競争では苦しい時代が始まって久しい。この状況を打破する為、三菱マテリアルは2007年には三菱連続製銅法の一部のS炉(Smelting Furnace)を導入し、銅鉱石処理量がシュレッダーダスト処理で抑制される課題を解決し、更に2013年からe-Scrapを世界中から集めて大量リサイクルを開始した。現状では14~16万トンのe-Scrapのリサイクルを行っており、世界のe-Scrap発生量の約2割を処理している。
小名浜製錬所でもe-Scrap処理を開始する為に、e-Scrapの前処理設備へ200億円を投ずる事で更なるe-Scrap処理能力をMMC全体で24万トンまで引き上げる計画であると伊左治カンパニープレジデントは公表した。
2023年からMMC金属事業カンパニーは、家電リサイクル事業を取り込み将来海外展開も検討している他、将来自動車リサイクル事業への挑戦などリサイクルセンター構想も有している。
又、MMC全社として2045年にGHGガスのニュートラル化へ向けて、2030年までにScope1&2では、47%削減、Scope3では13%削減を目標に掲げている。
リサイクルでは先行している欧州の非鉄産業に日本の非鉄業界も追いつくためには、非常に大きな課題を抱えている。それはGHGガスの削減対策である。産業廃棄物のリサイクルは燃料削減の歴史が説明している小名浜製錬所の姿である。
日本の非鉄産業が生き残これるか否かは、リサイクル事業をどこまでも活用して非鉄金属やあらゆる元素を再生産する技術と生産設備の再構築ではないだろうか。e-Scrapの次のテーマは既に明らかになっている筈である。
(IRuniverse Katagiri)
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