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物流2024年問題解決に向けての動き

 本年1月10日付け拙稿「2024年問題―トラックドライバー不足」では日本の物流が抱える大きな問題をトラックドライバー不足を中心に要点整理した。それから8か月が経ち、国をはじめ物流業界、製造メーカー、荷主等で課題解決に向けての意欲的な取り組みが業種の枠を超えて行われている。以下で幾つかの実例を挙げながらそのような取り組みに焦点を当ててみたい。

 

 国の「持続可能な物流の実現に向けた検討会」では、2024年問題に対して何も対策を行わなかった場合には、営業用トラックの輸送能力が2024年には14.2%さらに2030年には34.1%不足する可能性があると試算しているが、これは我が国全体にとって由々しき問題であり、スピード感をもって対処せねばならない。

 

事例1:鉄道(JR)コンテナを利用する 「積替ステーション」の開設

 本年3月、JR貨物東海支社(支社:名古屋市)と濃飛倉庫運輸(本社:岐阜市)は、鉄道コンテナをより利用しやすくするための施設「積替ステーション」を、岐阜貨物ターミナル駅に隣接する濃飛倉庫運輸岐阜総合輸送センターに開設した。

 

「積替ステーション」とは

 貨物駅構内あるいはその近隣に位置する貨物上屋・倉庫において、一般のトラックと鉄道コンテナの間で貨物の積替えを行う目的で、場所及びコンテナ移送等の付帯サービスを提供する施設で、鉄道輸送と組み合わせることで、地域の幅広い物流ニーズに対応できる。

 

利用のメリット

   従来は荷主が自らの施設にて鉄道コンテナに積み込みをし、鉄道コンテナ専用トラックで貨物駅に持込していたが、その必要が無くなり、荷主が自社トラックや軽トラでも荷物を直接持込むことができる。

 長距離でトラック運行していた運送事業者は、長距離区間を貨物鉄道輸送に振り替えることでトラック運転手の長時間労働の緩和、働き方改革の推進につながる。

 貨物輸送量(トラックの積載率)に合わせて、コンテナ利用個数を柔軟に選択可能。

 積替えだけでなく、貨物の仮預け、保管も可能。

 

 JRコンテナの主力は12フィートコンテナ(内方寸法長さ約3.6m、5トン積み)

 

事例2:陸・海・空の結節点としての「積替ステーション」

 日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)は東京貨物ターミナル駅構内に整備した大型物流施設「東京レールゲートEAST」(東京都品川区)の一部を今年4月、JR貨物の「積替ステーション」に衣替えした。

 

 首都高速道路が近くを走り、海の玄関口である東京港のコンテナターミナル、羽田空港にも近接する。ヤマト運輸や近鉄グループの物流会社が入居し、満床での稼働となった。20年3月に先行開業した1棟目の「WEST」とあわせ、投資規模は約300億円に上る。

 

競争から協調へ

 「2024年問題」を控え、トラック業界は代替輸送の確保を急いでおり、500キロ・メートル前後の中距離帯などでの競合は一部に残るが、トラック輸送の一部に鉄道を組み込む協調路線を打ち出し、鉄道とトラックの連結・接続を容易にしようとする試みだ。

 

事例3:中継輸送で荷主、荷受人、物流業者が連携

 2022年度グリーン物流パートナーシップ優良事業者表彰で、最優秀賞に相当する国土交通大臣表彰を共同受賞した鈴与、MGCウッドケム、サッポログループ物流、南光運輸、PALTAC、富士フイルムロジスティックス、ユニリーバ・ジャパン、ライオンの8社によるCO2(二酸化炭素)排出量の削減、日帰り運行への転換などドライバーの労働環境改善を実現した3つのケース。

 

 従来は貸し切り車両による直行運行で宿泊を伴う長距離輸送だった3ケースについて、中間拠点を起点にした中継輸送で、待機なしの日帰り運行に転換。輸送効率を向上し、CO2排出量を299・3トン(30・8%)、車両台数を年間759台(36・5%)削減した。転換に当たり発生した納品リードタイムや輸送経路、車両の変更については、荷主と荷受人、物流業者が個別に協議、調整した。

 

 ケースAは静岡―東北間で、サッポログループ物流、南光運輸、富士フイルムロジスティックス、鈴与が2拠点中継輸送を実施。茨城県結城市と川崎市を起点に、宮城―茨城―川崎―静岡のルートで陸送した。

 

 ケースBは関東―関西(九州)間で、MGCウッドケム、サッポログループ物流、富士フイルムロジスティックス、鈴与が陸送とフェリー輸送を組み合わせた。車両は静岡県磐田市を起点に大阪―静岡―神奈川のルート。福岡発関東向けは、大分港―清水港をフェリー輸送にモーダルシフトした。

 

 ケースCは関東―関西間で、PALTAC、ユニリーバ・ジャパン、ライオン、鈴与が、低床トレーラーによる往復中継輸送を実施。磐田市を起点に、大阪―静岡―神奈川のルートで陸送した。

 

事例4:共同輸送 ― 同業者間でRORO船のラウンド輸送

 日本製紙と大王製紙は8月、首都圏と関西エリア間で海上共同輸送を開始したと発表した。今回の取り組みは、国土交通省の物流総合効率化法に基づく「総合効率化計画の認定」と、「モーダルシフト等推進事業」の交付を受けて実施。両社によると、製紙業界で同業者同士が定期的なラウンド輸送(注1)をするのは初めてという。

 

(注1)ラウンド輸送とは、貨物を卸したトラックが空の状態で出発地に戻るのではなく、貨物を卸した後に別の貨物を積み込んで出発地まで帰ってくることによって往路と復路の車両の積載率を高める輸送形態のこと。

 

 具体的には、日本製紙の勿来(なこそ)工場(福島県いわき市)で生産した製品を関西へ輸送する際、まず千葉中央港(千葉市)までトレーラーで運ぶ。同港で大王製紙が三島工場(愛媛県四国中央市)から首都圏・東北向けの製品輸送に活用しているRORO船(注2)の帰り便に積み替え、堺泉北港(大阪府堺市・高石市・泉大津市)まで海上輸送する。

 

(注2)RORO船は英語名称のRoll-On Roll-Off shipの略で、貨物を積んだトラックやシャーシ(荷台)ごと輸送する船舶のこと。

 

 これまで日本製紙は、勿来工場から関西圏へ輸送する際、全て長距離トラックで運んでいた。同社はモーダルシフトによるCO2(二酸化炭素)排出量の削減を目指していたほか、トラックでの安定的な輸送が困難になるとの予想から、輸送手段の複線化を検討していた。

 

 一方の大王製紙は、三島工場で生産する紙・板紙製品を最寄りの三島川之江港(四国中央市)から堺泉北港経由で千葉中央港まで、グループ会社の大王海運のRORO船を活用して輸送。ここから首都圏・東北地区へ供給している。今後、ティッシュペーパーや紙おむつなどの商品もRORO船での輸送を見込んでおり、東日本から西日本向けに同船を利用する新たなパートナーの確保と安定稼働を検討していたところ。

 

 日本製紙によると、従来の輸送方法と比較しCO2排出量を年間約47%、トラックドライバーの総走行時間を約80%削減できるという。

 

以上の諸事例から学ぶメリット

 以上の「積み替えステーション」、「中継輸送」、「共同輸送」の事例から学べるメリットとしては以下が挙げられると思う。

 

 同業者や異業者の間で協調し潜在的な顧客需要を見出し、話し合い、調整しながら顧客目線にたった新サービスの創造

 従来の慣習的なやり方に固執せず、斬新なアイデアを通しての改善。例えば、混載等で積載効率を高め生産性の向上を図る。

 トラック輸送、鉄道輸送、海上輸送のそれぞれの利点を活用し、それらの最適な組み合わせにより労力、時間、経費を削減、更にはCO2(二酸化炭素)排出量も削減し、ドライバー不足に対応できる。

 

今後の課題

 以上見てきたように、今後も「物流2024年問題」に向けて、モーダルシフトが進み、トラック輸送、鉄道輸送、海上輸送、航空輸送の更なる連結・結合が進み、我が国の物流が複線化し便利になることが予想される。

 

 その一例として、海上コンテナを低床貨車に載せ日本全国へ鉄道輸送できるよう国による実証実験が始まっている。日本独自規格のJRコンテナより大型の海上コンテナ(40フィートで高さが2.9メートル、長さが12.2メートル)を通常のJR貨車に載せて運ぶと一部のトンネルで天井に接触する恐れがあった。

 

 米国を始め海外では港湾内に鉄道の引き込み線があり、海上コンテナをすぐに鉄路に積み替え輸送できる体制が整っている。政府とJRの実証実験に大いに期待したい。

 

 

(IRuniverse H.Nagai)

世界の港湾管理者(ポートオーソリティ)の団体で38年間勤務し、世界の海運、港湾を含む物流の事例を長年研究する。仕事で訪れた世界の港湾都市は数知れず、ほぼ主だった大陸と国々をカバー。現在はフリーな立場で世界の海運・港湾を新たな視点から学び直している。

 

 

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