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第108回東大レアメタル研究会 チタンシンポジウムでの質疑応答

 2023年11月24日、東京都目黒区の東京大学 生産技術研究所 コンベンションホールにて「第108回 レアメタル研究会」が「第7回 チタンシンポジウム」を弊会する形で開催された。

本記事では、講演者の簡単な内容紹介と質疑応答を掲載していく。

 

 東邦チタニウム株式会社 取締役、副社長執行役員の結城 典夫氏は「私とチタンの関わり ~新用途に向けたチタン多孔質体を中心に~」と題した講演を行った。

同氏はかつて燃料電池用セパレーターとしてチタンの表面に極薄金層を形成するソリューションを編み出したが、性能は上がるものの、金というよりチタンのコストが高いことから最終的なコストパフォーマンスについては微妙な所となってしまったという苦い経験を語られた。

 

 そんな中で燃料電池向けのガス拡散の部材としてチタン多孔質材に出会い現在ではチタン多孔質体WEBTi(R)シリーズを製品化し、水素発生用水電解装置の材料として市場開拓を注力している。

質疑応答は以下の通りである。

 

Q:チタンの焼結の皮を作ろうとしたが、モリブデンをベースにし、チタンをまぶす形となった。
今回WEBTi(R)の生産において、何か工夫はしているのか?

A:生産に向けての工夫は、細かい内容は言えないが色々と行っている。

 

Q:楽器とチタン素材の利用に相性はあるのだろうか?

A:チェロのエンドピンをとっかえひっかえしないしての検証はしていないが、チタン製エンドピンとの相性はよいと思っている。

 

Q:エンドピンの検証には酸素濃度との相関を取って頂いて、脱酸研究の新しい要素を作って貰いたい。

A:強度的には酸素濃度が高めのほうが好ましいかもしれない。現在の製品もチタン製と謳っているがチタン合金製(たぶん64合金)かもしれない。

 

Q:ウェブチタンの応用分野は何があるといえるか?

A:繊維を着色した飾り付け材、もしくは電極系やフィルターに用いられる。現在継続して使用用途を探索している。

 

 脱酸素産学協創コンサルティング代表の高橋 和彦氏は「脱炭素化の動きとチタン」と題した講演を行った。

脱炭素化は世界の潮流となり、我が国もネットゼロ宣言をして各界がこの課題に挑戦している。
このネットゼロ目標は必要性から定められたもので、実現性は全く不透明であるが、先伸ばしできない状況から世界も日本も全領域で走りながら考え、軌道修正している状況にある。
チタン業界はこの流れに乗り切れているのか? そんな疑問から代表的な金属の温暖化ポテンシャルや金属精錬の現状の取り組みを調べ比較してみた。

・精錬時の温暖化ポテンシャル(単位重量当たりのCO2排出量)の比較では、鉄(2)<アルミ(15)=チタン(15)<マグネ(29)だが、単位体積当たりのCO2排出量では鉄(2)<アルミ(5.2)<マグネ(6.3)<チタン(8.6)となり、後者の方が鉄を軽量化材に置換えるユーザ目線の感覚に近く、チタンは最も不利な立ち位置である。
・炭素で鉱石を還元することを基本とする金属精錬業界にとって脱炭素化時代は大変困難な時代を迎えており、何処も模索中のなか、アルミはCフリー精錬の量産検討が開始されており頭一つ抜け出したように思われる。
精錬業界に課されたこの課題は大きすぎて個社だけの対応には限界があり、業界としてビジョン・課題をオープンにして、産官学各方面に協力を求める時ではないか? という問題を提起させて頂いた。

 

質疑応答は以下の通りである。

Q:GWP(温暖化ポテンシャル)に関し、素材間でGWPを比較するとチタンが不利といっていたが、構造材で使うことを前提に考えると比強度で考えると同じ強度を得る為の重量で考えるとチタンが有利になって来ないか?

A:そういう場合もあるし、燃料電池セパレータの様に強度が重要でない場合もある。ただ鉄を軽金属で置き換える多くの場合、重量ではなく体積がほぼ同じとなることが多く、同じ重量で温暖化ポテンシャルを比較するだけでは不十分なため、同一体積での比較も試みた。


Q:鉄鋼精錬において電気炉については本気で取り組んでいる状況なのは間違い無いが、鉄源をどうしていくか。幾らでもスクラップがある訳ではなく、。技術的な課題として副生物(スラグ)なども出てくるため、高炉での一部水素還元との併用を考えているのだろう。
電力は世界のロケーションに依ってどれだけグリーンか大きく異なるが、この検討ではどこの電力で評価しているか?

A:仰る通り電炉法は入手できるスクラップ量にも限界があるので、今の高炉法を代替する手段にはなり得ず、CO2排出量の少ない鉄鋼を最も早く供給する手段として考えているとの話である。
電力に関するご質問だが、この検討では産総研のIDEAというデータベースを用いており、チタンは国内データのみ。アルミは日本含め様々な国のデータが開示されており、全て用いて幅で示した。

Q:水素も同じで日本と北欧では水素のGWPも大きく異なるため、世界的に見たときの最適解を考えると日本でどれだけ作り続けないといけないのか検討すべきことがかなりあるのではないか?

A: 仰るとおりでグリーンな電力や水素のあるところで作るべきで、問題提起のスライドに記したとおり、『日本は脱炭素化のためにスクラップと地金を買ってくるしかないのか』ということになり、それで良いのかという問いになる。しかしそれは個社だけで考えても仕方ない話で、国として守るべき技術なら個社がやるべきことはしっかりやったうえで、国が支援するという話まで持っていくべきだと考える。

Q:精錬後ののGWPを比較した場合にチタンインゴットが15、金属マグネシウムが29という数字は使用電力を考慮していないのか? 
チタンを作る時にマグネシウムを使っているが、電解も含んでいるか? マグネシウムの29が高すぎるように感じるが。

A:チタンの15はチタン鉱石の酸素がCO2になる量と諸々の電力使用によるもので、その電力にはマグネシウム電解も含まれている。
マグネシウムの29はおそらくピジョン法で、フェロシリコンを作る時のCO2、シリコンの還元、外からのヒーター等が入っていると考えられる。
マグネシウムのGWPが高く感じるのは金属1トン当たりという同じ重量で比較していることも影響しているだろう。軽量金属ほど嵩が大きく大きな設備で精錬が必要となり電力も大きくなる。最も軽量なマグネシウムは最も不利である。

 

 レアメタル研究会主催である東京大学 生産技術研究所 教授の岡部 徹氏は「チタンに関する最近の話題」と銘打って講演を行った。

 

 現在同氏が研究を行っている研究課題に「酸化物からチタンを製造する、新精錬法の開発」というテーマがある。

例えばアルミニウムを精錬する際には酸化アルミニウムと炭素を用いるが、この際にアルミニウムと二酸化炭素が発生するため、その精錬過程における二酸化炭素削減は喫緊の課題である。

チタンに関しても酸化チタンと炭素の組み合わせで、チタンと二酸化炭素が発生するため、例外なく取り組まなくてはいけない。

アルミニウムに関してはアルミナ(酸化アルミニウム)を直接電解して還元する事でも精製でき、その技術的なハードルも割と低い為昨今研究が進みつつある。チタンに関しても、酸化チタンを直接金属アルミニウムで還元して金属を製造することができる。だがこの方法ではチタンは酸素による汚染を受ける事となり、良質なチタンを取り出す事が出来ない。

 

 そこで酸化チタンをアルミニウムを通して還元し、そのアルミニウムも還元する事でチタンを精製は、酸化チタンと純粋なアルミニウムを反応させ、チタンと酸化アルミニウムにした所で、別途アルミニウムは還元して純粋なアルミニウムを再度取り出すという方法である。

場合によっては、チタンの還元剤としてアルミニウムスクラップを用いる事が出来ないか、というアプローチを行っているというのだ。

 

 話は現代におけるチタンの立ち位置に移る。

昨今ではAppleが発表したiPhone 15 Pro/iPhone 15 Pro Maxにおいて「グレード5のチタン合金が使用された」という発表が話題を呼んでいる。

こういった製品の製造時に出るチタンスクラップはリサイクルの材料として優秀であるという側面もあり、素材の品質を問わず回収しリサイクルに回す事が可能である。

その上で航空機についてはその本体を占めるチタンの10倍量の削り滓が出るというのだから、これのリサイクル体制を整えるのは当然の流れと言えるだろう。

合金の開発において不純物の許容量が比較的多いという使いやすい側面もあって、その注目度は増している。

 

 とはいえ現状チタン生産における日本の立ち位置は決して良くなく、35年前は世界全体の流通量の半分を日本が作っていたが、現在では総量のうち2割を担うまで落ち込んでいる。

そして残りの8割がどこかといえば、東欧諸国やロシア、中国といった国々が占めている。

チタンとほぼ同量(250kt)の希土類元素が生産される中で、プラセオジムやネオジムといった物が需要を高め成長していった事を皮切りに、今後イットリウムやランタン、セリウムなどの用途開発が必要であり、市場の成長要素として期待されている。

一方で、今後チタンに対する主導権を日本が握っていくには「アップグレード・リサイクル技術」が必要であると岡部氏は説く。

 

 現状チタン中の酸素を除去する技術は確立しておらず、極低酸素レベルまで除去する技術を同氏の研究室は有している。

ここから先の不純物酸素を500ppmレベルにまで除去し、チタンの品位を上げる事で一次資源であるスポンジチタンより価値の高い、二次資源であるリサイクルチタンを日本から普及させていくのが夢であるとの事だ。

チタンの精錬やリサイクルと共に、貴金属の精錬やリサイクルも併せて「循環資源立国」となっていく事が今後の発展の鍵であると岡部氏は提言した。

 

 今後どんどんと低下していく金属の品位に対し、アップグレード・リサイクルというアプローチで長期的に再生産と利用が出来る技術の確立が必要であると括っている。

チタンがコモンメタルやベースメタルになり、身の回りの食器などにも利用されるのが当たり前の時代に向けての研究を続ける必要があり、今後も日本が技術的なリードを保つ上で欠かせない重要分野であると言えるだろう。

 

 株式会社 大阪チタニウムテクノロジーズ 執行役員の中村 宣雄氏は「大阪チタニウムテクノロジーズ クロール法と電解槽発展の歴史」と題された講演が行われた。

 

 チタンを生産するのには実は様々な要素が絡んだ上で精製を行う為、全体的な要素としては勿論個々の要素の把握にも務めなければ理解する事が難しい領域であるという。

スポンジチタンを精製する手順として、まず酸化チタン(TiO2)を用意する。

この酸化チタンを塩素や炭素と合わせて塩化チタン(TiCl4)と二酸化炭素(CO2)へと反応を進ませる。

塩化チタンにマグネシウムを与える事で、チタンと塩化マグネシウム(MgCl2)が生まれるという仕組みだ。

 

 この際に塩化マグネシウムは電気分解され、塩素としてチタンの反応を促進させると共にマグネシウムとして塩化チタンの還元と分解の材料としても用いられる。

最終的にスポンジチタン1トンを生み出すのに、塩化チタン4トンとマグネシウム1トンが必要になるというのだ。

これを遅滞なく進める為には電解のプロセスを欠かす事は出来ない為、いかにこの電解設備をグレードアップさせていくかという事も重要なファクターとなり得る。

 

 ただしチタンの生産量は年度ごとに生産量の乱高下が激し上に、必要なときにいかに出せるかという点も重要視されている。

安定供給右肩上がり、という市場傾向ではないチタンのニーズに対する生産性を確保し続ける事が重要である。

それに耐えうるだけの企業体力もまた必要になってくるのである。

 

 チタンの生産においては流す電流量を増やすと、生成物に対する電力コストが悪化する。

一度に大電流を使用する場合は、膨大な電力に耐えられるだけの電気設備を用意するコストが増える。

その上日本では電力単価が高いという悪条件も重なっている。

それを解決する選択肢として、割と妥当とされたのが「電解槽の数を増やす」ケースだ。

1基あたりのスペースも増えるし建屋に必要なコストも上がるが、ここに「多極化」という要素を加える事でその問題を解決に導いたのである。

 

 これまで電解に用いられていたのは単極式(モノポーラー)という電気分解が1度で終わってしまう設備であったが、多極式電解槽(バイポーラーを入れたマルチポーラー式)という複数の電極を設備内に設置する物を用意。

単極式が1回のみの電気分解に対し、例えば2本のバイポーラーを間に挟むと設備全体で合計3回の電気分解が行える。

その上電極同士の距離が近いため、電気抵抗による電圧のロスも少なく出来る。

ただし電解槽そのものの大型化や電流効率の低下、温度上昇といった多くの問題も付属している。

 

 この問題点を克服した3Pマルチポーラーの実現後、5Pマルチポーラーという5本入りの設備を開発。更に生産性を引き上げる事に成功している。

生産量においてはモノポーラーセルが月間24tの生産量であったが、110kA 5Pのマルチポーラーセルは130tという5倍近い量を叩き出す程だ。

今後も同社としては、省エネルギーかつ生産性の良い技術の確立を進めていきたいと考えていると括った。

 

 行われた質疑応答については以下の通りである。

 

Q:電解槽における電解液の温度管理はどうなっているか?また電流の上限が30万アンペアとなっているが、どの様に管理を行っているか?

A:温度については熱交換器を用いて入った熱をいかに取るかという事を重視している。

電流は電解槽の設計によってちょうどいい塩梅が異なるため、求められるチタンの需要に対してどれだけ電解槽を合わせていくかというニーズを相関させて設定をしている。

理想を言えば「こうしたい」というのはあるし、電流を下げる事が出来れば下げていきたいが、現実的なニーズに合わせた所を重視していく。

 

Q:生産ラインで塩素を使っているが、マグネシウムの使用量に対して塩素が足りなくなるのではないか?

A:買っているチタンの原料は純度100%ではなく、含まれるその他の不純物も塩化してしまう為それを補う分は購入している。

 

 また設備については普通にモノポーラーを3つ繋げたら電圧は5.7×3となる。

3P(マルチポーラー)は見かけ上3つが繋がっているものの、一極あたりの電圧はモノポーラーと比べて低くなっている。

しかしマルチポーラー側では漏れ電流やピーク電流、Mgや塩素との再結合といった種々の問題もあり電流効率は75〜80%まで落ちてしまう事がネックとなっている。

 

Q:バイポーラの電極を液体の外に出したり設備の床につけたりしないのはなぜか?

A:ガス抜きを行う際に、容器の上側の空間に抜くという方式を取っているため。またガスの発生量は少なく、密度も薄いのでスペースさえあれば問題はない。

 

 また最後には二酸化炭素の排出源単位も絡めた質疑応答となった。

スポンジチタン生産における電力消費は大半が電気分解処理にあてられている為、効率の良さを追求するのもそうだが使用する電力についても検討が必要となってくる。

大阪チタニウムテクノロジーズ株式会社は原子力由来の電力を使いはじめており、火力発電よりは二酸化炭素排出量が低く設定されている。

 

 アルミニウムの生産ひとつを取っても、カタールの石油燃焼由来の電力や北欧の水力や風力発電由来のチタン製造といった工程ではCO2排出源単位が違う設定となっている。

日本においても原子力発電ありとなし位は排出源単位を区別した方がいいという提案を岡部氏は行った。

 

 

(IRuniverse Ryuji Ichimura)

 

 

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