停滞するコンテナ船のスクラップ
12月12日付けの英国イーザインのロードスター(Loadstar)は 2020年創業でコンテナ市場動向の分析を専門とするコンサルタントのライナーリティカ(Linerlytica、シンガポール/香港)の最新レポートを紹介し、コンテナ船の解体は2026年から2027年まで急増しないものとの予想を報道した。
高齢化し続けるコンテナ船団
コンテナ運航会社は老齢コンテナ船の配備を続けており、平均船齢は27.3年と、2010年から2020年の平均24.2年よりさらに高齢化している。現在のコンテナ船の平均船齢は 13.8 年で、上位 15 船社の中で、MSC(スイス) は平均船齢が 16.8 年と最も古いコンテナ船団を保有している。
コンテナ船の老朽化にもかかわらず、コンテナ船社は老齢コンテナ船のスクラップに前向きでなく、新規就航船の船腹量が20フィートコンテナ換算(teu)で208万8千2百teuであるのに対し、今年これまでに解体されたのはわずか16万3千teuに過ぎないとのことだ。
停滞するコンテナ船のスクラップ
2024 年にスクラップされるコンテナ船の船齢平均が 24 年になった場合、最大 100 万 teu の船腹量が解体されることになる。しかしながら、過去 3 年間に解体されず改修・改造され現役続行のコンテナ船の隻数が多いことを考えると、それほど大量の解体が行われる可能性は極めて低いとの指摘。
ライナーリティカによると、コンテナ運航の大手であるマースク(デンマーク)、エバーグリーン(台湾)、ハパッグ・ロイド(ドイツ)、MSC(スイス)は何れも自社船のアップグレード、コンテナ積載量の向上に積極的だったと指摘、一例として、 MSC が10 月、中国の広州市にある造船所(中船黄埔文沖船舶有限公司)でMSC のコンテナ船「Hamburg」 の積載能力を 16,000teu から18,500teu に増強したことを挙げた。
今年のコンテナ船のスクラップ件数が60万teuになるという海運コンサルタント会社ドゥルーリー(Drewry、英国)の2022年の予測は、コンテナ貨物市場の低迷とインド亜大陸とトルコのリサイクル業者が提示する魅力的なスクラップ価格にもかかわらず、いくつかの理由で実現しなかった。
高齢コンテナ船続行の理由
スクラップが進まない最大の理由は、国際基幹航路のコンテナ運航会社が依然として市場シェアを競い合い、老齢船を依然として使っている。ライナーリティカによると、その根底にあるのは、コンテナ用船料金が好調なことで船主が高齢船を手放さないことだ。
船主にキャッシュフローを生み出す限り、老齢船に対する需要は暫く存在するとのことなのか?
香港条約をめぐる国際的な動向
シップ・リサイクルを実施する側の主要解撤国パキスタンがシップリサイクル条約(香港条約)を11月に批准、今年6月に主要解撤国のバングラデシュと主要旗国のリベリアが批准したのに合わせると、発効要件をすべてクリア、2年後の2025年6月26日の発効が決定している。
UAEの新たな動き
環境NGO(非政府組織)の船舶解体プラットフォーム(Shipbreaking Platform, ベルギー)によると、アラブ首長国連邦(UAE)は、2025年6月に発効予定の法律を制定し、UAE船籍の船舶のビーチング(浜辺での解体)の禁止、さらにはビーチングやランディング 注1)での解体を目的としたヤード(解体施設)に向かう途中でUAE領海を通過するすべての外国籍船舶の入出港を事実上禁止するものである。
この規制は、言い換えると、アラブ首長国連邦(UAE)が環境保護の名目でのシップ・リサイクルのためには乾ドック(dry dock)または同等のインフラが整った場所での解体を条件とさせることのようである。UAEの新規則は、トルコのアリアガ地区で行われているような船舶を陸に上げる方法(ランディング)を禁止することで、EU船舶リサイクル規制を上回るものとなっている内容だ。
利点としては、このUAE 船舶リサイクル規制は、準拠したシップ・リサイクル施設の成長を促進することを目的としているのは明らかで、事実、隣国バーレーンでは乾ドック施設がすでに船舶のリサイクルを実施しているが、今後数年で寿命を迎える多くの船舶を収容するには、有害物質や汚染を完全に封じ込められる乾ドックの能力をさらに高めることが求められるのは必至で、この点も環境 NGO船舶解体プラットフォームが推進していることだ。
南アジアでの船舶解体に異議を唱えてきた同プラットフォームは勿論、このUAEの大胆ともいえる動きを称賛しているが、南アジアに向かう途中でUAE海域で買取業者や解体業者に引き渡されてきた今までの慣行に大きく影響することは必至のようだ。
注1) ランディング(landing):トルコの解体・リサイクルヤードでは、潮の干満差がほとんどない地域で使われる陸揚げ方式(landing)を採用している。船は海まで延びるコンクリート製のスリップウェイ(引き上げ船台)に引き上げられ、船の後部は浮いたままで、船の前部から切断・解体される。
欧州船舶リサイクル施設一覧表
12月6日、欧州委員会は欧州船舶リサイクル施設一覧表の最新版である第12版を採択し発表した。 最新版では、5 年ぶりにトルコにある 2ヶ所の解体ヤードと米国にある 1ヶ所 のヤードがリストに追加された。
リストには現在、ヨーロッパ(EU、ノルウェー、英国)の35ヤード、トルコの9ヤード、米国の1ヤードを含む45の解体・リサイクル施設が含まれている。 欧州リストに載っているいくつかの造船所では、大型船舶のリサイクルが可能。
EU 船舶リサイクル規制の実施の一環として、欧州委員会は欧州リストに載っている造船所が EU の法律で定められた条件を遵守しているかどうかの監視に取り組んでおり、委員会は10月に初めてトルコのヤードで抜き打ち検査を実施したとの報道。
リサイクル船売買の市況
1992年に設立され世界最大のリサイクル船買取の最大手であるグローバル・マーケティング・システムズ社(GMS)は、先週までの状況を、需要とセンチメントの低迷と表現し、ほんの僅かな取引しか行われていない市場とした。
具体的には、コンテナ船取引が1件成立したが、取引市場が予想外の急騰を享受したためドライバルク供給が停滞しており、多くの船主はリサイクル価格かチャーター料金が次の四半期に改善するかどうかを見極めようとしているようだ とのコメント。
2022年から2023年にかけて全体的に減速した後、今後数年間は確実にリサイクルに向けて忙しくなるであろうとの予想も付け加えた。
最後に
今年初めに指摘されていた、コロナ禍後のコンテナ貨物復活と運賃高騰時に建造が進んだ大型コンテナ船の多くが竣工を予定していることから、コンテナ船の解体・リサイクルがかなり進むであろうとの予想がこの年末に来て見事に外れたようだ。
さらに、本年1月からスタートした国際海事機関(IMO)によるCII(燃費実績格付け制度)により、燃費効率の悪いコンテナ船はいずれ退場せざるを得ないのではという見方も強かっただけに、やはり船主によるキュッシュフロー重視が大きく影響したようだ。
過去20年間で最もスクラップ量が大きかったのは2016年の65万teu、次いで2013年の48万teu、2017年の39万8千teuとなっている。
来年以降にかけてリサイクル量が増えるとの大方の予想だが、スエズ運河・紅海ルートの回避によるコンテナ船腹量の需要増予想が大いに気になるところである。
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「闇のタンカー船団」出現とシップ・リサイクルへの影響 (2023/9/14)
(IRuniverse H.Nagai)
世界の港湾管理者(ポートオーソリティ)の団体で38年間勤務し、世界の海運、港湾を含む物流の事例を長年研究する。仕事で訪れた世界の港湾都市は数知れず、ほぼ主だった大陸と国々をカバー。現在はフリーな立場で世界の海運・港湾を新たな視点から学び直している。
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