レゾナックの月面での蓄熱・熱利用システムの研究提案、JAXAが採択
~宇宙材料をテーマにした社員の自主活動から創出~
株式会社レゾナック(社長:髙橋秀仁)は、3月21日、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 (以下、JAXA)が募集した「太陽系フロンティア開拓による人類の生存圏・領域拡大に向けたオープンイノベー ション」に関する研究提案に対して、月の砂を利用した月面での蓄熱・熱利用システムに関する研究を提案、挑戦的なアイデアとして「チャレンジ型」枠で採択された。同研究は、自主的な取り組みによりレゾナック社員が提案したもので、2024 年 4 月より JAXA と共同研究を開始する。
JAXAは、研究提案の一つとして、「レゴリス物理蓄熱エネルギーシステム」を募集していた。月に堆積してい る砂「レゴリス」を蓄熱材として活用しようというもの。月では、夜の気温がマイナス170°Cまで下がり、昼夜の 気温差が激しい過酷な期間が約2週間ずつ続くため、有人活動をするには、安定的にエネルギーを確保する必要がある。
一方、レゴリスは宇宙風化作用によって生成された主にガラス質の微小粒子であり、月面上に大量に存在している。これを蓄熱材として活用できれば、月面で効率的に低コストでエネルギーを確保できる。しかし、粒子間の空隙は真空で熱が伝わらないため、レゴリス全体として熱伝導率および比熱を大きくしたり、蓄熱したレゴリスから熱を取り出したりするシステムを構築する必要がある。
これに対し、同社はグループで量産実績のある「レジンコーテッドサンド*1 技術」を用いることで、熱伝導率および比熱を向上できると着想した。レゴリスの表面にポリアミドイミド等の樹脂層をコーティングし、これを締め固める手法になる。この適用可能性を確認するため、メンバーは、熱が輻射*2 のみで伝わる真空の環境かつ約 2 週間 ごとに昼夜の過酷な気温変化を繰り返す月面環境を想定して、熱シミュレーションを行った。
その結果、熱伝導率、比熱ともに向上し、月の赤道面においてはレゴリス単体に比べ、コーティングした場合のほうが昼間の太陽熱を 20 倍以上蓄熱可能な見込みであるという結論を得た。従来の研究では、レゴリスの蓄熱性を改善する手法として、レーザ溶融によるガラス固形化などが考えられてきたが、重量物であるレーザの運搬や溶融とい った製造時に多大なエネルギーが必要であることが課題だった。
今回提案した手法は、月面上で、スクリュー混練のみでコーティング可能であり、実現できれば圧倒的に低エネルギーで大量製造することができる。同社は計算情報科学研究センターで高いシミュレーション技術を保有しているため、今回の蓄熱効果の検証も短期間で実現できた。このような独創性が評価され、「チャレンジ型」枠で採択された。
今後、JAXA との共同研究実施に向け、研究計画・体制等の調整を行った後、レゴリスを蓄熱材として成立させるための検討、またコストと性能のバランスの取れた月面用蓄熱エネルギーシステムについて検証を行う予定という。なお、JAXA との共同研究期間は、最長 1 年を予定している。
今回提案を行ったのは、社内の自主的な活動グループで、同社ではパーパスである「化学の力で社会を変える」を実践するために従業員が手上げ制で活動するコミュニティ「REBLUC(Resonac Blue Creators)」を、 2022 年に設立している。そのなかで、宇宙関連材料を通して社会に貢献したいメンバーが集まり、同プロジェク トを推進している。
*1 鋳物製品を製造するときに使われる、表面を樹脂でコーティングした砂のこと。加熱により樹脂が溶融し硬化剤等と 反応することで硬化物となる。同社グループでは、株式会社レゾナック・テクノサービスが製造。
*2 熱の伝わり方には、「輻射(放射)」「伝導」「対流」の 3 つがある。輻射は、物体が発する熱が電磁波となって 伝わる現象のことで、真空でも熱が伝わるのは輻射のみ。
(IR universe rr)
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