中国EV輸出規制にカナダ参戦へ 狭まる包囲網、中国はドイツに取引示唆、夏季ダボスで反論
カナダ政府は6月24日、中国製の電気自動車(EV)に対する追加関税を巡り一般からの意見(パブリックコメント)を募ると発表した。中国製EVを巡っては、既に欧米が追加関税を発表済み。対する中国は6月25日開幕の夏季ダボス会議で李強首相が反論し、ドイツに対し揺さぶりをかけるなど分断工作も行っている。
■「中国製EVはカナダ人のデータにリスク」
カナダのフリーランド副首相は6月24日、カナダ政府のホームページ上で、「7月2日から30日間にわたり、中国産EVに対する輸入関税の追加を巡る意見募集を始める」と発表した。
フリーランド氏は発表資料中で、「カナダの自動車労働者と自動車部門は、現在、過剰生産能力と厳格な労働・環境基準の欠如という中国の意図的な国家主導の政策との不公平な競争に直面している。中国メーカーは世界的な供給過剰を生み出しており、カナダを含む世界中のEVメーカーの利益インセンティブを損なう」と指摘した。また、「中国の不公正な貿易慣行には、劣悪な労働基準、環境保護の欠如、供給過剰を助長する貿易政策など、EVサプライチェーン全体の基準の低さが含まれる。さらに、中国の技術を搭載したコネクテッドカーは、カナダ人のプライバシー、データ、およびカナダの国家安全保障上の利益に重大なリスクをもたらす」とも述べた。
中国製EVを巡っては欧州が7月4日から、米国が,年内にも、それぞれ輸入関税を引き上げる。なお、EUは6月26日、追加関税内容を微修正し、追加分を最高で37.6%とした。当初は38.1%だった。
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また、トルコも2023年から中国製EVに対し最高40%の輸入関税をかけている。
■中国、ドイツに「EU撤回を説得してくれるなら…」
対する中国は対抗姿勢を示すとともに、分断工作にも励む。李強首相は6月25日から中国の大連市で開催している世界経済フォーラム「夏季ダボス会議」で、中国製EVは「国内需要を満たし、国際市場への供給を豊かにし、世界のインフレ圧力を緩和し、気候変動への対応において積極的な貢献をしている」と述べて過剰生産の批判を否定した。中国はEUに対しては豚肉の反ダンピングの報復措置を執取っている。
一方で、6月25日の米ブルームバーグ通信は「中国がドイツに対し、EUの輸入関税撤回を説得してくれるなら、ドイツに対し大型車の中国への輸入に現在化されている関税を引き下げる」と提案しているとの消息筋の情報を伝えた。6月22日にドイツのハーベック経済相が訪中して王文濤商務相と会談した際に、中国側からこのような示唆があったという。
先進7か国(G7)は6月半ばのサミットで、中国の過剰生産に対し協力して対抗していく姿勢を示したものの、決して一枚岩ではない。ドイツやフランスのように中国との貿易関係が大きな国は多く、特にドイツは自動車関連で中国との協力関係は長く深い。実際、ドイツのショルツ首相はEUの輸入関税について、発効日の「7月4日まではまだ間がある」と話している。
■EV、レアアース…中国包囲網の範囲は広がるが
完成車としてのEVはもちろん、その材料としてのレアアースやレアメタルといった重要鉱物に範囲を広げて、西側諸国は中国包囲網を作成しつつある。最近では、レアアース(希土類)を巡り目立つ動きがあった。
関連記事:Americas Weekly 25 レアアースの独占打破を目指し北米、欧州、南米で「中国包囲網」が広がる | MIRU (iru-miru.com)
しかし、輸入関税は報復合戦に発展することは言うまでもなく、供給網(サプライチェーン)が細ることで結局は自国産業が悪化する可能性もある。これは中国も西側諸国も同じだろう。両者はどこで手を打つか、いずれその時は来るとみられる。各産業において時期はまちまちだろうが、関係者にはその時を見極める姿勢も必要になりそうだ。
(IR Universe Kure)
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