日本の非鉄製錬業の生き残る道
今から約40年前の経験だが、所属していた部門には製錬再編本部と言う組織があった。銅、鉛、亜鉛製錬業の全て事業再編が検討されていた。筆者が36歳の時にカナダの鉱山・製錬会社とのJV鉛製錬会社の管理職として、自分も鉛製錬部門の再編メンバーとして毎年再編本部の活動も兼務していた。
その背景には、エネルギーショックという出来事があった。原油価格が高騰し、電力価格も同様の状況で、エネルギー多消費型生産は、危機的な状況となっていた。
所属していた鉛製錬業は、カナダのパートナー企業の鉱山で非常に不純物の少ない鉱石がカナダの北極近くにあり、今では珍しい乾式鉛製錬で溶鉱炉から生産される鉛をケトルという大きなお釜で酸化剤を添加するだけで精製が完了する製錬法でコスト競争力もあり、全量鉛バッテリー会社へ販売していた。
しかしその貴重な鉱石が枯渇する事態を迎え、将来計画を提案する為に欧州の鉛製錬会社を訪問した。ドイツ、フランス、イタリア三か国を訪問したがすべてが既に鉛リサイクルを中心としていた。しかも製法は極めて簡単でケトルで再溶解するだけのプロセスで、バッテリーのリサイクルが主要な事業であった。
欧州では既に日本の様なカスタムスメルターは珍しくなっていた。殆どがリサイクルビジネスと言っても過言ではない状況であった。
欧州出張後、当然ながら鉛製錬のリサイクル業への転換を進言した。所属した会社の文化は、若造が社内に新たな提言をしても聴く耳のある幹部社員が極めて少ない文化で、外部との交流などで自らの経営方針を見直す文化的な素地が僅かであった。トップの意見でもなかなか社内へ通じない文化を持っていた。
しかし反面、国内の同業他社の情報には、極めて敏感に反応する会社であった。国内では鉛製錬業で鉛リサイクル中心へと転身している事例が無かった為かは不明だが、その会社は鉛リサイクル業への転身する機会を失い、乾式鉛製錬業から撤退した。
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国内の亜鉛製錬業から最初に撤退した電解法の亜鉛製錬事業所が筆者が入社して初めて3年間教育してくれた場所であった。その製錬法の特徴は、亜鉛精鉱を焙焼し、亜鉛を回収した後の亜鉛浸出残渣と同量の硫化鉄鉱をブレンドして再度流動焙焼炉で酸に不溶なジンクフェライトを炉内で硫酸化するプロセスで亜鉛を回収するプロセスであった。
当時国内に銀を含有する硫化鉄鉱山を保有していた為、その資源を活用する事が主要な目的のプロセスであった。しかし硫化鉄を使用する為、最終残渣の量が通常のプロセスの約2倍発生する為、埋め立て処分地が無くなって最後は閉鎖される運命になった。
入社当時の最初の上司が未だご健在で90歳近いが、直接面談してどうして閉鎖を避けられなかったのか、質問した答えが最終残渣を減らすプロセスへの転換が遅れた事が閉鎖の理由であると真摯に答えてくれた。
大学卒の男を真剣に3年間教育してくれた教育場所の経験は非常に大きく、しかも人生で最も価値のある経験であった。2度目の勤務は42歳で電解工場と熔解工場を担当する管理職であった。製錬プロセスは未だ転換していなかった。その時も上司へ改革を叫んだが、1年半で去る事となった。それから2年後に亜鉛精錬所は閉鎖された。
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最近国内で2度目の亜鉛製錬会社の撤退が伝えられた。
⇒ 東邦亜鉛 24年度末までに亜鉛製錬から撤退 二次亜鉛原料などに注力――阪和と業務提携
自分の経験に照らして述べると、その企業の将来は決して暗くはないと断言できる。今から亜鉛製錬業のリサイクル業への転換を決定した経営陣の英断は、心から尊敬できる。
鉛に続き国内の亜鉛リサイクル業は、これからの新しいビジネスモデルである。筆者も現在、次世代亜鉛リサイクル技術開発に最後の力を注いでいる。最初に撤退した亜鉛製錬事業で果たせなかった、亜鉛再生業に参加する企業がまた一つできた事に心から期待したい。
(IRUNIVERSE Katagiri)
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