株式会社横店グループジャパン 世情に左右されない縁の下の力持ちとしての立ち回り
2025年1月22日から24日まで、東京都江東区にある展示会場の東京ビッグサイトにて、RX Japan株式会社主催の「オートモーティブワールド 2025」が開催された。
今回はそういった中の企業の一つとして、日本に進出し市場開拓を行っている株式会社 横店グループジャパンについてを詳細に取り上げる。
一気通貫に制作できる企業グループの強み
昨今高齢者の足として用いられている道具の一つに、電動カートが存在する。特に医療現場はもとより、観光地といった所でも便利な移動用具として「徒歩より早いが、制御が容易」な点が好まれている。この電動カートの製作には重要な要素が幾つもあるが、総じて軽くて強度のある車体設計、搭載するバッテリーと制御システムの構築、足回りを支えるインホイールモータやサスペンションといったハードウェアなどが挙げられる。これをメーカー1社がひとまとめに仕上げようとすると非常に困難であり、大体は他社の技術やパーツとの混合構成となる事が当たり前である。しかしそれを自社グループの企業の力を借りて独自設計し販売しているのが、株式会社横店グループジャパンの属する「横店集団」である。
横店集団は1975年に中国浙江省に設立された企業であり、いわゆる国営企業ではなくれっきとした民間企業である。同社は現在電気電子分野、製薬と化学分野、映画と文化観光、金融分野という4つの軸を持って動いており、横店集団全体で60社程の企業がグループを形成しているコングロマリットだ。その規模の広さと勢いは凄まじく、映画「キングダム」シリーズにおいて撮影に使われた現場を取り仕切る映画事業や幼稚園から大学に至るまでの教育機関、証券会社、照明器具など幅広いジャンルで事業を展開している。そんな同社のグループ事業の一つが、電気電子領域の材料・部品取り扱い事業だ。このジャンルではフェライト磁石の生産最大手にあたるDMEGCや、ネオジム磁石の大手に当たるINNUOVOや照明機器を取り扱うTOSPOといった有力メーカーを擁しており、材料から製品に至るまで絶大なシェアを誇る。
同社の代表取締役社長の西浦氏に話を伺った所、この企業が民間企業であるゆえに大きなメリットがあるという事であった。中国における国営企業は国策の一挙手一投足に翻弄されやすく、企業としても目立つ存在であるため良くも悪くも他企業との付き合いが安定しない側面を持つ。だがこの横店集団は民間企業であるため、中国本国における政策の影響を受けにくい立ち位置であり、いまなお高い需要を誇る磁性材料を「安定して取引したい」というメーカーにとっては非常に魅力的な立ち位置のパートナーたり得る存在なのである。特に戦略的貿易資源としてレアメタルやレアアースが取り沙汰される中で、そういった事情をある程度抜きに、長期かつ安定した供給が出来るサプライヤーというのは貴重と言っても過言ではない。この側面からも同社はtoB向けに市場を開拓していきたいと語っていた。海外企業は恋愛相手を探しているが、日本企業は結婚相手を探しているのだという同氏の言葉は非常に腑に落ちるものであった。
生活の質と価値を決める小売店との提携
横店集団はBtoBでの取引が活発な企業ではあるが、何もそれだけが事業の柱ではない。同社はもう一本の柱であるBtoC向け製品も豊富に手掛けており、それが同社の方針に大きな影響を与えている。企業用には車載製品やバッテリーといった物も卸している同社は、消費者向けにワイヤレスイヤホンやサウンドバー、太陽光発電事業や照明器具などを提供している。そしてその中の一つに、最初に述べた電動カートも存在するのである。こういった製品をすべて自社ブランド内で開発を済ませ、市場に提供出来るだけの地力があるのだ。電動カートについては施設内向けのモデルと屋外にも対応したモデルの二種類があり、現状両車種がそれぞれ7万台程を全世界で売り上げている。今後日本国内においても電動カートを製品として投入するが、この販売戦略においても横店集団の理念は一味違っている。それは、これらの製品を「プライベートブランド」として、提供先の小売店のブランドに合わせる形で販売する事を考えているというのだ。
西浦氏曰く、これまでの市場は「大手企業が製品を作り、それを消費者が買う事で文化が造成されていた」時代であった。極端な例ではあるが、大画面テレビのような大型の家電を作り、それが目論見通り売れ、結果的に消費者が一律に製品を購入するというサイクルが出来上がっていた。しかし今や需要サイドの要求が多様化した結果、これまでのようにメーカーは画一的にモノを作ったとしても消費者に届かない、ニーズに合わないという状況が出来上がっている。では消費者のニーズに一番近い所はどこかというと、家電量販店やホームセンター、あるいはショッピングセンター等のような小売業が消費者との接点になっている。そこでどういった製品が好まれているのかというのを計るバロメーターとして機能するのがプライベートブランドであり、そしてメーカーはそこから読み取れる消費者のニーズに従って製品を作っていく事が必要な時代になっているのだと語る。
もちろんそれ以外にもプライベートブランドである事を推していく理由はあり、それが「海外企業が自社ブランド製品を売ろうとする際の努力と時間」が莫大であるからだ。LGやHisenseといったブランドは今でこそ根づきつつあるものの、市場に登場してから定着するまでに非常に長い時間と多額の資本を必要とした。そこまでしてメーカーという姿勢を貫くのではなく、あくまで消費者の動向を下支えするという立ち位置であれば製品が受け入れられやすいという判断が、横店集団の姿勢を確固たるものとしているのだろう。
ここまで読んできて『どうしてこれだけの事業規模であるのにも関わらず、最近花形の事業に手を付けていないのか』という疑問を抱く読者の方もいるだろう。西浦氏曰く「通信事業とEV事業はやっていない」というのがその答えである。通信事業は国家間の関係性に左右されやすく、それ故にデリケートな事業となると舵取りが非常に難しい側面を持つ。そして電気自動車関連においては5年前に着手し1年ほど進行させてみたものの、将来的なリスクの高さを予見してすぐ撤退を決めたとの事である。昨今の電気自動車周りの事情を鑑みれば、その時点で撤退を決めたというのはまさに先見の明だろう。
変化の目まぐるしい市場を生き残り、そして更に拡大を目指していく横店グループジャパン。同社の今後の事業展開から、しばらく目が離せない様相となりそうだ。
(IRuniverse Ryuji Ichimura)
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