サンディエゴからの風2 紙リサイクルの真実に迫る――制度改革と市場構造の変化が浮き彫りに

(左から:ウェバー氏、ザイド氏、GiGi氏、ライアルズ氏)
資源循環業界の国際会議「ReMA 2025」は開催2日目、米国の紙リサイクル制度と市場動向に焦点を当てたセッション「Spotlight on Paper—Cracking the Code: The Truth Behind Paper Recycling Rates & Market Shifts」を実施した。登壇者は米国製紙業界団体や老舗リサイクル企業、輸出業者など多岐にわたり、制度的な課題と現場の取り組みを多角的に共有した。
回収率90%以上は本当か?再定義された「紙リサイクル率」
最初に登壇したのは、全米製紙・製パルプ協会(AF&PA)のテリー・ウェバー副会長。AF&PAは全米126の会員企業を擁し、米国で生産されるパルプ、紙、紙パッケージ、ティッシュ製品の約87%をカバーしている。
ウェバー氏は、紙のリサイクル率が過去に90%以上とされていた背景について言及。従来の計算方法は、「国内で回収された紙の量÷国内で生産された紙の量」という単純な式に基づいていたが、輸入製品に使用された包装紙が分母に含まれておらず、過大評価につながっていたと説明した。
この問題を受け、AF&PAは2018年以降、計算方法を見直し、輸入品のパッケージ紙も分母に含める新たな指標を導入。初期にはデータ収集の困難さなど課題も多かったが、現在は制度運用の安定化が進んでいるという。ウェバー氏は最新の2022年および2023年のデータを提示し、より現実的な回収率の把握が可能になったと述べた。
(修正した回収率の計算方法)
(2022、2023年紙回収率)
包装の紙化に対応、再生繊維の「適合度」評価ツールを紹介
次に登壇したMidland Davis社のレナード・ザイド社長は、同社が月間100万ポンド以上の資源を回収・処理する家族経営の老舗企業であることを紹介。長年にわたって業界の信頼を得てきた同社は、回収・選別機器の提供、輸送ネットワーク構築、価格調整まで一貫したソリューションを提供している。
ザイド氏は現在、包装資材の主流がプラスチックから紙に移行している中で、ReMAが開発した「Fiber Recycling Readiness Tool」の有用性を強調した。このツールは、繊維系パッケージが現行の米国住宅系リサイクルインフラに適合するかを評価するもので、設計段階から選別・最終処理までを網羅的に検証する。
ユーザーが自社のパッケージ情報を入力すると、リサイクルシステムへの適合度が「グリーン(高適合)」「イエロー(部分適合)」「レッド(不適合)」の3段階で判定され、必要に応じて改善提案が提示される。すでに複数のブランドやパッケージ設計企業が活用を始めており、業界内での普及が進んでいるという。
中国輸入禁止の余波と米国輸出構造の再編
最後に登壇したのは、国際的な紙製品輸出企業であるInternational Forest Productsの輸送・物流マネージャー、ジェフ・ライアルズ氏。氏は、2019年の中国による米国産再生繊維の輸入禁止措置が、国内外の市場構造に大きな変化をもたらしたと報告した。
とくに、これまで中国に集中していた輸出先が東南アジアやインドへと分散し、輸出ロジスティクスの複雑化を招いている。実際に、米国からの紙類輸出量は2018年をピークに約28%減少し、段ボール・雑紙の輸出も同年比で29%減に転じた。
一方で、国内では再生紙需要の高まりを受け、再生紙を使用したコンテナボードの生産量が大幅に増加。2015年には3,590万STだった米国全体の生産量が、2024年には3,800万STに達している。これに伴い、2022年以降に6つのバージン紙工場が閉鎖される一方で、再生紙を扱う新工場が5つ稼働開始した。
また、ライアルズ氏は、国内需要の高騰にもかかわらず、東海岸の港湾からの輸出が西海岸を上回る年もあったと述べ、地域差や物流コストの影響が無視できないことを示唆した。
(IRuniverse Lin)
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