FORS会議の参加者に聞く:仏自動車解体業者CAPNOR
ポーランドの首都ワルシャワで開催された国際自動車リサイクル会議(FORS)から、現場の声を報告する。今回話を聞いたのは、フランスから参加した自動車リサイクラーCAPNORを代表するピエール・メスメマエッカー氏(Pierre Meesemaecker)。
CAPNORは、フランスの北、ベルギーとの国境に近いダンケルクに拠点を置く自動車解体業者だ。ダンケルクには、国内の電池生産プロジェクトが集中しており、仏版「バッテリー・バレー」と呼ばれている地域でもある。同社は1995年の創業以来、「事故車の修理や部品の再利用が環境への負荷軽減につながる」という理念のもと、自動車業界のサーキュラーエコノミーを牽引してきた。
今回はCAPNORの代表ピエール・メスメマエッカー氏に、国内自動車リサイクルの現状や今後の展望に加え、自動車の拡大生産者責任(EPR)制度をめぐる最近の動き(フランス国内における改正)が業界へ与える影響について伺った。
Q:まず御社CAPNORの事業内容について教えてください。
A:弊社は現在、主に乗用車とバイクの解体を行っていますが、今後は大型車両の解体にも取り組んでいく予定です。また、中古部品の販売も積極的に手がけおり、高品質な部品の生産・供給に注力しています。部品はすべてテスト済みで、必要に応じてリマニュファクチャリングも施します。顧客の施設を訪問するなど、サービスの幅も広げていますね。年間の処理台数はおよそ3,000台と、規模としては比較的小さいですが、フランス国内では近年、業界の再編が進んでいます。かつては、リサイクラーの平均処理台数が年間500台ほどでしたが、今では800台に増えています。ちなみに、今回このFORS会議に私と参加しているフランスの大手解体業者は年間4万5,000台という大手です。
Q:今回FORS会議に参加された理由は?
A:FORS会議へは、フランスの自動車リサイクル業界団体であるMobiliansの代表として定期的に参加しています。多数の国の事情がわかり勉強になります。特に、東ヨーロッパの業界の意見が聞くことができ、自国フランスと比較すると非常に興味深い。当社はフランスだけでなく他国の市場でも事業を展開しており、自動車の種類や顧客も異なります。例えば、西側の市場の動きが鈍い時でも、東側の市場は活発な場合もあります。当社の事業を東西の市場がお互いに補填し合うことが可能となっています。そのため、当社にとっては東側の異なる意見や見方にも精通しておくことが重要です。部品の販売については、西側で仕入れた部品を東の市場で販売しており、東側の顧客の部品需要が非常に高い時もあります。顧客はポーランドやリトアニアが中心ですが、ルーマニアでも需要がありますね。
Q:今回の会議のメインテーマでもある現在修正作業が行われているELV規則案が施行されると、どのような事業への影響について聞かせてください。
A:この質問については、フランス国内の状況を反映して回答します。フランスの国内では施行状況が他国とは異なっているからです。まず我々の業界にとっての大きな変化は、新しい拡大生産者責任制度の施行です。例えば、自動車解体業者に関しては、個別の拡大生産者責任の遂行システム(解体業者と自動車OEM間の個別の回収システム契約)全てを対象とする監査が実施されることになります。これは我々にとっては大きな負担です。新規制下では、おそらくフランスでは個別のシステムは生き残ることが難しくなるでしょう。
フランスでは、これまで実質上存在しなかった集団拡大責任者責任遂行組織であるPRO(エコオーガニズム)が昨年4月に設立されました。このPROと契約が成立した解体業者は、基本的に全てのブランドの自動車を取り扱うことができます。
一方で個別のシステムでは、契約したOEMのブランドしか扱えません。これが二つのシステムの大きな違いです。個別のシステムには制限もありますが、利点もあるので、個別システム契約を好む業者もいます。選択は業者次第ですね。業者によっては制限されない方を好む者もあります。ここのシステムでは何かと運営がOEMによって管理される傾向にありますが、PROについては、財務面(コストの負担)についての取引のみで、業者の運営自体に関わることはありません。選択としては、「自由」に運営する方をとるか、細かい「ルール」に従う方をとるかということになります。
当社や今回一緒に参加している大手リサイクラーなどは、自由に運営できる方を選んでいます。というのも、我々は自身の市場観察に基づいて事業を行っています。そのため、顧客へ好利益をもたらす選択を自身で行う方が合っているのです。個別のシステムについては、例えば使用済自動車の供給が少ない業者などは、OEMからの管理や制限を受けても、確実に在庫の供給が得られるという利点があります。
Q:フランスのOEMはこれまでにすでに自社の回収ネットワークにこだわるという話を聞いています。
A:確かにOEMは自社のネットワークを好みます。そして、ネットワーク上でどの業者を選択するかはOEM自身が選択すると言っています。一方で規制では、一定の条件を満たせば全てのリサイクラーを受け入れなければなりません。しかし現実にはそうではありませんでした。しかし、この点は規制で改善されることになっており、数ヶ月のちにはこうした「選択」はできなくなります。
Q:PROと契約する一方で、個別システムの契約も可能なのでしょうか。
A:理論上は可能です。しかし実際に契約した場合ことは複雑です。例えば、ステランティスと個別契約を結びながらPROの会員にもなった場合。プジョーの車を処理すると、ステランティスは、「それはうちの車だ」と主張するわけです。しかしPRO経由で回収したプジョーなら、OEMネットワーク上の車ではない。そこでコスト負担の問題が生じてきます。こうした問題を避けるために、当社ではPROのみと契約しています。その方があらゆる面に管理が容易だからです。
また、仮にメーカーが破産した場合、リサイクルコストは誰が払うのか?という疑問もあります。その際に、リサイクルのコストを負担する基金を、個別のネットワークとは別に設立する必要があります。いづれにしても今後は個別のシステムは減少し、PROへ移行していくでしょう。
Q:現在ELV規則案でもEPR制度のコスト負担に関し、新しい要件が加えられる可能性がありますが、そうなるとまたフランスのEPR制度にも変化があるのでは?
A:まだすべてが動いている最中です。フランス国内の制度も安定していませんし、EU全体の動きとの調和が今後の焦点になるでしょう。
おわりに:
CAPNORはさらなる市場拡大にも積極的で、日本の業者との提携にも興味を持っているとのことだった。
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SCHANZ, Yukari
オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。
趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。
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