新興国で政策金利の引き下げが相次いでいる。6月20日には中国が8か月ぶりに実質的な政策金利を引き下げた。これに先立ち6月16日にはベトナムのベトナム国家銀行も2023年に入り4回目となる利下げを実施。ブラジルやチリにも利下げ観測が浮上している。こうした新興国には鉱物資源の生産国も多く、現地の景気に注意を払う必要が出てきた。
政策金利の調整は、インフレ抑制を優先するか、景気悪化の食い止めを優先するかの判断の綱引き。欧米を中心とした先進国では、2022年のロシアのウクライナ侵攻などによる世界的なインフレを受け利上げを実施してきた。しかし、新興国では景気悪化が差し迫り、インフレ抑制よりも景気振興を優先せざるを得なくなっている。
中国の5月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.2%上昇と低い伸びだった。卸売物価志指数(PPI)に至っては4.6%のマイナスで、インフレどころかデフレを警戒する水準。これでは景気悪化の防止に注力しても不思議ではない。
一方、ベトナム統計総局(GSO)が5月末に発表した1-5月のCPIは3.5%上昇した。同国は1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率が3.3%成長と2022年の8%成長から急減速しており、景気の急激な悪化が懸念されている。2023年に入ってからは電力不足が顕著化しているとも伝わり、夏季の生産継続が危ぶまれている。
ほかにも、ブラジルを巡って6月19日、同国の中央銀行の週間エコノミスト調査で8月の利下げ開始が予想されていると伝わった。額面のインフレ率が落ち着いているため景気を押し上げたい政府当局から利下げ要望が出ているというが、中央銀行自体は実質的なインフレの継続を警戒しているとされ、今後の判断が注目される。
チリは6月19日の会合で5会合連続の金利据え置きを発表した。ただ、同時に発表のプレスリリースでは「今後の好ましい状況が続けば利下げ開始もあり得る」として金融政策の転換に含みを持たせた。
投資資金は金利が高い方へ動くため、金利が引き下げられれば当該国の通貨は対米ドルなどで下落しやすくなる。貿易面での影響を考えても、当地の金融動向に注意する必要がある。
(IR Universe Kure)