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第11回バッテリーサミット報告⑤ニッケル協会本部Pablo氏、SungEel HiTechのYum副社長、バッテリー議連の三宅事務局長

2025/02/20 18:50 FREE
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 IRUNIVERSEは18日、東京・港のべルサール御成門タワーで、「第11回バッテリーサミット」を開催した。当日は同市場をけん引する先端企業、学識経験者、そして政策展開に携わる衆参両院の有力議員ら13人が登壇、それぞれの立場でバッテリー市場のいまを語った。その様子を4回連載で伝えてきたが、今回はシリーズの最終回として、ニッケル協会本部のPablo Rodriguez Dominguez氏、SungEel HiTechのKwanghyun Yum副社長、自民党バッテリー議連事務局長の三宅伸吾参議院議員の講演内容を伝える。

 

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 最初の登壇者となったニッケル協会本部のPablo Rodriguez Dominguez氏は「欧州バッテリー規則について」をテーマに講演した。同規則が23年8月に施行されるに至るまでの歴史的系も踏まえながら、ニッケル産業の視点で紹介があった。何をいつまでに、どこまで実施しなければならないのか、そのタイムスケジュールを中心に、同規則の現在地が示された。

 

Pablo氏

 

 同規則はバッテリーのライフサイクル全体をひとつの法的文書で規制することを目標にしており、EUのバッテリーバリューチェーンに関わるなら域内・外を問わず、すべての事業者に適用され、遵守が求められる点を指摘。その上で、ニッケル生産者に関連する課題として、Recycled content(リサイクル由来の金属含有量比率)、Material recovery target(材料回収目標)、Carbon footprint(炭素排出量)、そしてDue diligence requirement(ESG見合いで求められるデューデリジェンス要件)の4点を指摘。サプライチェーン全体として、それを遵守するには関係する当事者の協議・協力が必要になってくると強調した。

 

 バッテリーごとに申告開始時期が定められているカーボンフットプリントの申告開始時期は、EV(電気自動車)バッテリーの場合、委任規則(計測方法)が2月18日までに採択されるはずだったが、遅れているという。事業者はデータ付きで今月申告することになっていた経緯もあり、今後の状況を見守る必要があると注意を喚起した。また、リサイクル効率として、バッテリー技術ごとにその基準が設けられており、例えばニッカドバッテリーなら25年12月31日までに80%の数値が掲げられていると、具体例を示しながら足元の状況に触れた。

 

 また、目標値という視点でMaterial recovery targetをみてみると、ニッケルは27年で90%、31年で95%となっていると紹介。ただ、遅れがでたりもしているため、ニュースをみながら、これも見守っていく必要があるとした。

 

 次にRecycled contentのテーマに触れ 26年8月までにその検証方法とリサイクル原料の最低使用割合が示されるとの見通しを示した。ちなみに31年8月でニッケルは6%、36年で15%になるという。

 

 最後にDue diligenceについて言及があった。売上高が4,000万ユーロ未満の中小企業は対象外であり、二次原料も今後対象になってくるとの見通しが紹介されたが、スケジュール的にはこれも遅れ気味だという。

 

 講演の後の質疑応答でDue diligence問題について、レポーティングのあり方を含め遵守態勢に問題があった場合どんな罰則があるのかといった質問が出た。「今後どういう枠組みになっていくのか、我々としても注目しているところだが、環境、気候、社会的リスク、従業員対応など幅広い視点に立って、そのスキームを作り、どのようにリスクに対応しているのか、しっかり示していく必要がある」とした。

 

 次に登壇したSungEel HiTech*のKwanghyun Yum副社長のテーマは「バッテリーリサイクルの再構想:持続可能な未来のための革新」。

 

Yum氏

 

* SungEel HiTech:2000年に韓国の群山で設立されたリチウムイオン電池のリサイクル専業。湿式処理法を採用し、リチウム、ニッケル、コバルト、リチウム、マンガンなどの金属の高い回収率で強みを持つ。

 

 冒頭、Yum副社長はEVの減速を受けてリサイクル工場の閉鎖などの現象が起きている足元の状況を踏まえて、EVの成長見通しを展望する形で講演を始めた。成長鈍化を指摘されながらも24年度にEV販売はおよそ23年度比25%の伸びが見込まれ、30年までには25年比で79%の伸びが見込まれている市場予測を示して、バッテリーリサイクル事業の将来展望に自信を見せた。

 

 再生可能エネルギーへのエネルギー転換を支えるのはリサイクル材であり、2040年にはバッテリー鉱物市場に置けるリサイクル材のシェアは60%まで拡大する余地があるとの見方も併せて示した。

 

 その上で、同社の先端リサイクル技術の市場展開について、3類型に分けて量産までのマイルストーンを示した。現行の4680、LFP、全固体電池で、それぞれ量産ペースでの処理時期を25年、26年、27年とした。

 

 湿式処理法法で大切な排水処理問題にも意欲的に取り組んできており、現行の第2世代のMVR(Mechanical Vapor Recompression)より、有害物質の除去という点でより環境に優しいBMED(Bipolar Membrane Electrodialysis)の開発も進めているという。

 

 処理施設の運用態勢については前処理施設としての「Recycling Park」と後処理施設としての「Hydro Center」の2タイプがあり、後者は韓国にしかないが、前者は世界に11カ所で展開しており、米で初となる「Recycling Parkがインディアナで3月に立ち上がる。処理能力は、(ブラックマス・ブラックパウダー換算で)1万2,000トン規模」になる。

 

 社内に垂直統合的な機能を抱え、高いトレーサビリティ―を担保しながら、一連の施設を活かして、EVバッテリーの水平リサイクルループづくりを進めてきているという。24年第3四半期には、韓国南部に3番目のHydro Centerも立ち上げ、EVバッテリーリサイクル事業に欠かせないネットワークの機能をさらに高めた。年間処理量は30万トン規模。「ともにイーモビリティのイノベーションを推し進めましょう」と、最後に会場の来場者に呼び掛けていた。

 

 「リチウムイオンバッテリーのリサイクル規模が拡大したのは、効率が改善したという理解でよいのか」。講演の後の質疑応答であった質問に、Yum副社長は「回収率が良くなった。最高のレベルに到達している。でも事業の拡大については、私の予想より遅い」と、付け加え、会場の笑いを誘っていた。

 

 また、NCM系やLFP系電池の採算性についての目標を問う質問も出た。これに「長年3元系のリサイクルを行ってきたが、LFPに関して言えば、リサイクルはリチウムだけが、その対象だ。一緒にでるリン酸鉄や、酸化鉄スラッジも、正極材メーカなどの受け皿が豊富にあるが、韓国にはそうした事業者がいないので、使用済みリチウムイオン電池の回収に当たって1キロ当たり1ドルの処理コストを請求しなければリサイクル事業の経済性が担保できない」とした。

 

 さらに、最近の韓国のリサイクル産業が停滞気味ではとの質問があったが、これについては「金属材料相場の高値に誘われて参入した財閥系企業が、相場変動の激しさをみて撤退する動きを見せているためかと思う。これから先は安定してくる」との考えが示された。

 

 中国がブラックマスの輸入を解禁するとの観測が出ていることについても質問が出たが、「すでに輸入ルートを持ち、ブラックマス、ブラックパウダーの品質も安定している。規制を撤廃しても変化はないのでは」と述べた。

 

 最後の登壇者としてセミナーを締めくくった三宅伸吾参議院議員はいま最もホットな話題である「トランプ政権と、我が国バッテリー戦略の課題」をテーマに、その最新トレンドを語った。

 

三宅氏

 

 「トランプ大統領の出現で、踊り場というか、少し逆行するような風景はあるけれども、脱炭素化社会への動きがもう変わることはない。不可逆的なところまですでに来ている」。 

 

 (環境と共存する資本主義)グリーンキャピタリズム対(化石燃料や環境負荷の高い産業を基盤とする資本主義)ブラウンキャピタリズムが交錯するように映る時代も、流れはグリーンキャピタリズム。当日意見交換したというEUの再生エネルギー当局者の話も引用しながら、冒頭、そんな時代認識を示した。

 

 その上で、「(安全性、環境性能を満たすために設けられた)自動車の型式認証に似た制度を我が国としてはバッテリーとそのセルで真剣に検討すべきだ」と強調した。海外を中心にいまリチウムイオン電池の火災事故がデータセンター、海上、駐車場などで起きている。

 

 だから、安全をキーワードにした基盤整備をさらに推し進めること。それが2050年にEV・定置用向けを合わせて世界で100兆円規模に膨らむともいう巨大なリチウムイオン電池市場の開拓に弾みをつける近道になる。「関係各方面と協力しながら、詳細設計を急ぎたい」と、ルール作り通じた脱炭素社会のインフラ整備に改めて意欲を見せていた。

 

(IRuniverse G・Mochizuki)

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