プラスチック資源の循環利用が世界的な課題となる中、出光興産はグループの強みを生かした油化ケミカルリサイクル事業の商業運転開始に向け準備を進めている。その事業の中核を担うケミカルリサイクル・ジャパン岡村仁彦代表取締役社長に、事業の強みや将来的なビジョン、リサイクルの拠点となる市原事業所(千葉県)の建設状況などを聞いた。
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―― 貴社の油化ケミカルリサイクルの強みは
当社の油化ケミカルリサイクルは一般的な単純熱分解方式ではなく、触媒による接触分解方式(HiCOP方式)を採用している。触媒を用いることで反応温度を低く抑えられ、連続運転が可能になる。通常の熱分解では装置内部に炭素が付着してメンテナンス頻度が高くなるが、HiCOP方式ではそれを防ぐことができ、効率的な運転を実現する。
また、ナフサや灯油、軽油といった有用性の高い軽質油を多く得られることも特長で、重油やワックスは生成されない。さらに装置の構造面では、異物を連続的に排出できるため、たとえ無機物が含まれていたとしても安定稼働が可能となる。最近では気化させたアルミニウムを付着させたアルミ蒸着フィルムの処理にも成功している。
技術面以外の当社の強みとしては、出光興産グループとして、「炭化水素を扱う一連のバリューチェーン」と同事業の顧客(取引先)をすでに保有していることが挙げられる。ケミカルリサイクルでは混合物が生成されるが、これを精製・分離し、最終的に製品として完成させるには石油精製設備や中間製品や製品を貯蔵するためのインフラが不可欠。当グループはそれを持つほか、樹脂を製造する事業会社(プライムポリマー、PSジャパン)との資本的なつながりもあり、ワンストップで使用済みプラからの樹脂製品化を手掛けられる点が他社にない強みといえる。

ケミカルリサイクル・ジャパンの目指す姿(同社リリースから引用)
――ケミカルリサイクルはエネルギー消費が大きいことが課題とされているが、どう対応していくか?
確かに、マテリアルリサイクルに比べれば消費エネルギーやCO2排出量は多くなる。そのため当社としては、「まずマテリアルリサイクルやモノマー化ケミカルリサイクルを優先してください。その後、再利用できなくなったものやマテリアルリサイクルやモノマー化ケミカルリサイクルが難しいものを油化ケミカルリサイクルに回してください」というスタンスをとっている。
マテリアルリサイクルが最もエネルギー消費も抑えられ、環境負荷も低いのは事実。しかし、ご存じのようにプラスチックは熱が加わると分子構造が変化していくため、リサイクルを繰り返していくと、分子構造変化や添加剤の影響により再利用できない状態となってしまう。また、次にエネルギーコストの低いモノマー化ケミカルリサイクルも万能ではなく、単一樹脂でなければ適用できないというデメリットがある。
一方、油化ケミカルリサイクルは▽バージン品と同等品の製造が可能▽投入原料と異なる製品の提供が可能(マスバランス方式活用)▽複合材料も処理可能――といった優位性があるため、使用済みプラスチック循環の受け皿となる。他のリサイクル手法に適さない原料はどんどん当社に回していただくことで国内の資源循環に貢献したい。
再利用できなくなった原料を焼却・発電するのと比べ、CO₂排出量を約42%削減(単純焼却対比では約56%)できるため、環境負荷の軽減につながる(第3者による試算結果)。また、将来的には現在燃料として使用している分解ガスを再生可能エネルギーに置き換えることで、従来の7~8割の削減が見込める。

市原事業所完成イメージ(同社リリースから引用)
――油化ケミカルリサイクルを実施する市原事業所の建設状況は
千葉県の市原工場の建設工事は当初の計画通り進んでおり、2025年12月に竣工、翌年4月に商業運転を開始する予定。同拠点では、油化ケミカルリサイクル施設に加え、前処理施設(ソーティングセンター)も建設している。
将来的には前処理は外部施設に委託し、各地域の中間処理業者と連携しながら事業を推進していく想定だが、市原事業所は実験検証も兼ねているため、前処理工程においても最新鋭の設備を揃え、「どの程度の汚れまでがリサイクル対象としての許容範囲か」などを検証していく。市原事業所では一般廃棄物1万トン、産業廃棄物1万トンの年間計2万トンの前処理を行う計画だ。建屋は両施設ともに完成していて、前処理棟は機器の据え付け工事を行っている状況。油化ケミカルリサイクル設備の据付や配管工事はすでに終えている。
商業運転開始後は、「装置の安定稼働」と「どの程度汚れた原料を受け入れられるか」を検証していく。2030年から欧州でプラスチック規制が本格化することを踏まえ、同時期から事業の拡大を図る計画。なお、提携先についてはテラレムグループと前田産業は引き続き主要なパートナーとしつつも、廃棄物業界のシェアは地域ごとに分散していることから、事業方針や理念に共感いただける提携企業を増やしていきたい。

建設中の油化ケミカルリサイクル工場
――油化ケミカルリサイクルを社会的に推進していく上での政策面での要望は
政府には「再生材使用の義務化」をお願いしたい。使用済みプラスチックがもたらす環境問題は、市場取引に参加しない第三者に不利益を与える外部不経済の典型例である。その解決には、国による再生材利用規制・再生材使用値差支援を含めた制度的対応が不可欠である。再生材を使用する場合、当然、再生工程に費やされたコストは商品代に転嫁されるべきだが、製品の価格が高くなれば、他の安い代用品を求めるのも仕方のないこと。だからこそ、国全体での義務化が求められる。
誤解してほしくないのは、これまでの政策やアクションを決して否定しているわけではないということ。経済産業省殿や環境省殿、そして国内各リサイクル企業殿のリサイクルに関する取り組みや努力には心から尊敬している。そのおかげで、日本の回収・選別のシステムや体制は世界トップクラスの水準にある。ただ、循環型社会を確立するためには油化ケミカルリサイクルを含めたリサイクル体制のさらなる進歩が必要であり、義務化という大きなハードルを越えていただきたいと考えている。
また、消費者にも「プラスチックの恩恵を享受している以上、相応の負担をしていただく」という理解が必要。プラスチックなくしては、現在の世界人口は維持できないことを認識すべき。政府事業として啓蒙活動にも注力していただき、恩恵に対する正当な額を支払うという当たり前の文化を創り上げてほしい。
――最後に
炭化水素資源循環は一社単独では成り立たず、サプライチェーン全体で協力して取り組む必要がある。出光興産グループは常に門戸を開いておりますので、ぜひ関心をお持ちの企業はお声がけいただければと思う。環境規制は不可逆的に進むため、早めに動くことが重要。
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ケミカルリサイクル・ジャパン株式会社 代表取締役 岡村仁彦
信念は「世のため人のため」。その根底にあるのは出光興産創業者の出光佐三氏が社是として掲げた「人間尊重」の理念。「自ら顧みて平和を作り、人類の福祉増進に役立つような人として恥ずかしからぬ、実に尊重すべき人」※が一致協力して国家・社会のために頑張れば素晴らしい世の中ができると信じ、ケミカルリサイクル・ジャパンの商業運転開始に向け邁進している。
※出展:「我が六十年間 第二巻」61~62頁
略歴:
1995 年 4 月 出光興産 入社 大阪支店営業課に配属(石油製品・石炭販売)
2014 年 4 月 機能化学品部 市場開発課長
2017 年 7 月 化学事業部 芳香族課長
2021 年 4 月 基礎化学品部 事業戦略担当マネジャー
2023 年 7 月 ケミカルリサイクル・ジャパン 代表取締役社長
(IRuniverse K.Kuribara)