三菱マテリアル株式会社は、車載用電気部品などに適した新しい高強度銅合金「MSP®5-ESH(Extra Spring Hard)」を開発したと発表。本製品は、マグネシウムを主成分とする固溶強化型(*1)銅合金であり、従来の高強度銅合金に比べて、製造性・性能・環境負荷の面で優れたバランスを実現している。
■開発の背景と目的
当社が2021年より量産を開始した「MSP®5」は、高濃度マグネシウムを含有することで、強度・導電率・成型性を高いレベルで両立した銅合金だ。ベリリウムなどの希少元素を使用せず、コスト面でも優位性があり、車載用小型端子材として高い評価を得てきたとの事だ。
このたび開発された「MSP®5-ESH」は、同シリーズの高強度タイプであり、従来ベリリウム銅やチタン銅が使用されていた領域への代替を可能にする性能を備えている。これら従来材は、析出強化型(*2)であるがゆえに複雑な熱処理工程を必要とし、製造コストや品質安定性、環境負荷に課題があった。「MSP®5-ESH」は、固溶強化型の特性を活かし、これらの課題を解決するとしている。
(*1)
母相(溶媒原子)の中に別の原子(溶質原子)を溶け込ませること(固溶)により、材料を強化する手法。
(*2)
固溶後、母相(溶媒原子)の中で別の原子(溶質原子)を析出させることにより、材料を強化する手法。

■技術的特長
高強度・高導電率の両立
「MSP®5-ESH」は、引張強さ約900MPa、導電率43%IACSという、銅合金としては世界最高水準の性能を有している。これは、ベリリウム銅(C1720-1/4HM)やチタン銅(C1990-1/4HM)と同等の強度を維持しながら、導電率はそれぞれの約2倍、約4倍に達する。電気特性と機械特性の両立は、車載部品の信頼性向上に寄与することに加え、部品の小型化、銅材料の使用量削減にも貢献する。
優れた成型性
高強度材料は一般に加工時の割れが懸念されますが、「MSP®5-ESH」は端子の箱曲げ性に優れ、最小曲げ半径R=0の加工にも対応可能。また、プレス打抜き性にも優れ、寸法精度が高く、バリの発生が少ないため、量産性にも優れている。
環境負荷の低減
固溶強化型である「MSP®5-ESH」は、析出強化型に比べて製造工程がシンプルで、複雑な熱処理を必要としない。これにより、製造時のCO2排出量を抑えることができ、環境負荷の低減に貢献する。
三菱マテリアルグループは、「人と社会と地球のために、循環をデザインし、持続可能な社会を実現する」ことを「私たちの目指す姿」と定めている。今後も新たなマテリアルを創造し、オンリーワンの高機能素材・製品供給を行うことで、目指す姿の実現に取り組んでいくとの意気込みだ。
(IRuniverse Ryuji Ichimura)