国際組織 BIR(Bureau of International Recycling)の秋季会議が、2025年10月27日から28日にかけてタイ・バンコクで開催された。会議2日目の鉄鋼部門ではイギリスのMellor Metals有限会社のShane Mellor氏がチェアマンを務め、鋼鉄リサイクル業界における最新動向とAIの実用的な応用が議論された。

セッションの冒頭ではBIR鉄鋼部門の統計アドバイザーであるRolf Willeke氏がBIRの最新統計(2025年1月から6月)を用いて、世界のリサイクル鋼材の生産規模や地域別動向を報告した。本報告によると、2025年前半の世界の粗鋼生産量は9億3,430万トンで、前年同期比2.2%減となった。地域別ではアフリカのみが増加し、最大生産地域はアジア/オセアニアで6億9,390万トン(前年同期比1.9%減)だった。その他の地域は、EU-27(6,540万トン、3.3%減)、その他ヨーロッパ(2,080万トン、7.1%減)、中東(2,750万トン、5.4%減)、北米(5,320万トン、0.6%減)、CIS(4,160万トン、5.4%減)、南米(2,050万トン、0.4%減)と軒並み減少している。
BIR鉄鋼部門では環境負荷低減や資源保護の観点から、「鉄スクラップ」の代わりに「リサイクル鋼(recycled steel)」という呼称を使用している。Willeke氏は世界では年間約6億3,000万トンのリサイクル鋼が使用され、約9億5,000万トンのCO2排出削減に貢献していると述べ、リサイクル鋼は、環境に優しい「グリーン鋼(green steel)」の象徴的な存在でもあると強調。
グリーン鋼の観点から、DRI(直接還元鉄)の使用状況も注目される。2025年前半の世界のDRI生産は前年同期比4.3%増の6,424万トンで、最大の生産国はインド(2,920万トン、8.7%増)、次いでイラン(1,630万トン、2.2%減)だった。
リサイクル鋼の使用量は、中国、EU-27、米国、日本、韓国で減少した一方、インドとトルコでは増加した。主要国のリサイクル鋼使用率は、中国:21.2%、インド:24.5%、韓国:33.4%、日本:6.7%、EU-27:60.2%、米国:66.4%、トルコ:87.7%となり、トルコが極めて大きい数字を示している。トルコの海外輸入は前年同期比5.8%減の940.4万トンで世界最大、インドは18%増の458万トンで第2位だった。
Willeke氏は最後に、鉄鋼の主要採算値がアジア諸国であること、インドの粗鋼生産量が前年同期比9.2%増の8,090万トンと大幅に増加していること、中国が1億900万トンで世界最大のリサイクル鋼消費国であること、世界の鉄鋼製造の約76%がリサイクル材料を使用していることを報告した。

続いて、Jules AI社のCEOであるSean Dabidson氏がスクラッププロセッサレベルでのAI活用事例に焦点を当て、ロボット工学やセンサー技術への導入が現場の作業効率化やリスク低減への貢献について発表した。発表では具体例として、AMP Roboticsのロボットアームは1分間に120個の袋を99%の精度でピックアップし、銅線などの資源分離に活用されている。また、Recycle EyeなどのAIシステムは材料分類や品質管理に応用されており、危険物の検知やリアルタイムフィードバックによる業務効率化を実現している。
AI導入の成功要因として、物理的ソートや自動化の現場運用チームとの連携、マルチモーダルインテリジェンスの活用が挙げられた。これにより、12~18か月で投資回収が可能なケースも存在し、業務効率化、安全性向上、コスト削減、材料評価の正確化を同時に達成できることが示された
続いて、Visio AI社CEOのRaghav Mecherei氏が発表。同社は米国拠点の同社を率い、AIとX線技術を組み合わせて危険物の早期検出や安全性向上を図るセンサーメディアプラットフォームを提供している。Raghav氏はリサイクル現場におけるAI活用の重要性を強調し、特にリチウムイオン電池などの危険物を事故発生前に特定する技術について説明した。Visio AIのソリューションは、現場作業者への即時フィードバックを可能にし、循環型経済戦略の推進に貢献している。
発表終了後、鉄鋼部門のパネラーとして登壇したロンドン金属取引所のAlberto Zotto氏とPillar USAのHarsha Ramesh氏が変動の大きい市場における実用的戦略を紹介した。両氏によるとAIは理論にとどまらず、現場でのスクラップのソート、分類、危険物検出、リアルタイム意思決定支援に活用されている。例えばリチウムイオン電池などの危険物を早期検出することで、安全性向上や効率化、循環型経済戦略の支援が可能になると述べた。
鉄鋼部門のセッションでは単なる統計分析にとどまらず、環境負荷低減と効率化を両立させる実践的な戦略が求められていることが改めて示された。また、世界の鉄鋼業界は依然としてアジアが主導権を握る中で、リサイクル鋼とAIの活用が持続可能性と競争力の重要なカギとなることも強調された。特に、トルコにおけるリサイクル鋼の輸入増加が注目され、関係者はその動向を注視している。AIとリサイクル鋼の組み合わせは、鉄鋼業界の変革を加速させる重要な要素であり、今後の投資や政策の方向性を考える上でも示唆に富む内容となった。
(IRuniverse Midori Fushimi)