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元鉄鋼マンのつぶやき#147 ATR社について考える その5 副操縦士は生成AI

2025/12/02 10:11
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元鉄鋼マンのつぶやき#147 ATR社について考える その5 副操縦士は生成AI

2015年のことですが、台湾松山空港を離陸したトランスアジア航空のATR72-600型機が離陸直後に墜落する事故がありました。原因は錯覚した機長が故障したエンジンとは反対のエンジンを止めて、その結果全エンジンの出力を失って墜落したということで、なんと間抜けなパイロットだろう・・と話題になりました。

しかし、調べてみると、事情はやや複雑です。エンジン制御回路のハンダ付け不良で情報が切れた結果、離陸時のエンジン出力を制御するATPCSという装置がオフになってしまい、その結果、エンジン故障という間違った表示が出た上に、機長が対象エンジンを間違えるという2重、3重の原因があったのです。実はエンジンは両エンジンとも正常な状態でした。多くの人は、パイロットが間違えたエンジンをカットしたことが原因と考えましたが、筆者はATPCSがオフの状態なら離陸を中止することという規則をパイロットが守らなかったことが根本原因であると考えます。

もし、システムがATPCSオフを検知して自動的に離陸を中止していたら、事故は防げました。なまじ人間のパイロットが乗っていたから事故が起こったのです。

この問題を突き詰めると、エアバスとボーイングの哲学の違いに行き着きます。

即ち、エアバスは「機械は間違えないが、人間は間違える。だから両者の判断が異なった場合は、とにかく機械にまかせろ」という発想です。一方ボーイングは「機械はあくまで人間を補佐するもの。最終判断をするのは人間であり、最後は人間に委ねろ」という発想です。

これは中華航空のエアバスが小牧空港(県営名古屋空港)でゴーアラウンドに失敗して墜落した時に指摘された問題です。その当時はエアバス支持派とボーイング支持派が拮抗していました。

今はどうでしょうか? その頃に比べて今はAIが飛躍的に進化しています。ほとんど人間が操縦席でこなす全ての作業をコンピューターができます。通常、コックピットでは機長と副操縦士が、操縦業務と通信・計器監視業務を分担して行いますが、コンピューターはその両方を同時に行えます。飲酒して乗務できないなんてことも、錯乱して逆噴射をかけるなんてこともありません。既に、米国のマウンテンビューにあるベンチャー企業はパイロット業務を完全にAIに委ねた航空機に自律飛行をさせる実験に成功しています。

自律型飛行機は「空の旅」を変えるか | クーリエ・ジャポン

ここまで来ているのなら、運航コストの合理化を追究するATRとしては、副操縦士をAIに置き換え、人間のパイロットは機長一人での運航を実現するしかないでしょう。無論、ATR単独で実現するのは難しいですが、エアバス社と連携すればシステムの構築は不可能ではありません。前述の通りエアバスはコンピューターの方が人間より信頼できるという思想を持っています。実現は難しくないでしょう。

実は、第一報で紹介した旭伸航空が運用していたブリテン・ノーマンアイランダーは、パイロット1人で操縦できます。ペイロードを最大化したいという思いもあり、副操縦士の席には乗客を乗せて飛ぶことになります。この席は乗客には好評でした。

男の子は、いや女の子も、大人も、運転席や操縦室から見える前方の風景が大好きです。パイロットでなくてもシミュレーターで遊ぶ人は、皆さん操縦席に興味があります。もしATR機が操縦席に乗客を乗せることがあれば、話題になることは確実です。機長の横の副操縦士の席にはプレミアが付くでしょう。

このパイロット1名での運航を実現するには、ETOPSの緩和や、運航乗務員の2名化を実現した時と同じような手続きが必要で、煩雑なことは間違いありません。ハイジャック対策としてコックピットに乗客を入れることには強い抵抗もあるでしょう。しかし、ATR機の特長と優位性を明確にする上で、欠かせない挑戦であると筆者は思います。

ここまで書いたところで、ガスタービン(つまりジェットエンジン)を用いたハイブリッドエンジンの記事を見つけました。

IHI、ガスタービンドローンで空の物流革命へ ― 1トン搭載・航続1000kmを目指す - ドローンジャーナル

 

ドローン用ですから、出力は小さく、そのまま旅客機に使えるものではありませんが、システムができれば大型化は可能です。しかし、写真を見るとこのガスタービンはターボプロップではなくターボシャフトのように見えます。すぐにATR72-600「ATR EVO」に使えるものではなさそうです。もともと、IHIは、レシプロエンジンを用いたハイブリッド機を研究していました。

IHIエアロスペース、ハイブリッドドローン「i-Gryphon」開発。重量物運搬と長時間飛行実現 – DRONE

 

筆者はレシプロエンジンの延長として、IHIはフリーピストンガスタービンを用いたハイブリッドシステムを開発して、その後に軸流式のジェットエンジンに移行すると予想していました。そしてその道のりはかなり遠いと思っていたのですが、全く予想が外れました。

ATR社がプラット&ホイットニーカナダのターボプロップエンジンを止めて、IHI製のエンジンに乗り換える・・というのは考えにくいのですが、ハイブリッド機関を制御するシステムの開発をIHIに委託し、プラット&ホイットニーのターボプロップエンジンと組み合わせて、超低燃費、超低騒音の航空機を開発することは可能かも知れません。

そのような飛行機ができれば、筆者もぜひ乗ってみたいと思います。それもできれば、操縦席右側の副操縦士の席に。

でもこんな事を言われたら困ります。

「小型旅客機では乗客の重量配分が大事です。あなたのような肥満漢をコックピットに乗せる訳にはいきません。後方の席にお移りください」なんてね。しかもそれを生成AIの音声で言われたら、やっぱりイヤです。

 

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久世寿(Que sais-je)

茨城県在住で60代後半。昭和を懐かしむ世代。大学と大学院では振動工学と人間工学、製鉄所時代は鉄鋼の凝固、引退後は再び大学院で和漢比較文学研究を学び、いまなお勉強中の未熟者です。約20年間を製鉄所で過ごしましたが、その間とその後、米国、英国、中国でも暮らしました。その頃の思い出や雑学を元に書いております。

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