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八潮の陥没事故――本当の理由は、どこにあるのか

2025/12/30 13:13 FREE
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八潮の陥没事故――本当の理由は、どこにあるのか

前回、八潮の陥没事故は、本当に「老朽化」だけの問題なのか、で問題提起させてもらったが、今回はいくつかの「可能性」を、読者の皆さんに問いたい

八潮市で起きた道路陥没事故について、報道の多くは「老朽化」という言葉で説明している。
下水道管が敷設から長い年月を経て劣化し、漏水によって地下に空洞が生じた――その説明自体は、確かに理解しやすい。

しかし、事故後に明らかになってきた周辺環境の変化まで含めて考えると、
本当の理由は、それだけなのか という疑問が残る。

今回は、原因を断定する回ではない。
むしろ、この事故の背景として考え得る「いくつかの可能性」を並べ、読者の皆さん自身に考えてほしい。


可能性① 問題は「老朽化」ではなく、その中身にあるのではないか

老朽化という言葉は便利だ。
だがそれは結果を一言で表しているにすぎず、原因そのものではない。

管の材質は何か。
どの程度腐食が進んでいたのか。
点検や補修はどのように行われてきたのか。
地盤条件や交通荷重は想定内だったのか。

これらを分解して見なければ、「老朽化」という説明は単なるラベル貼りで終わってしまう。


可能性② 地下では、もっと前から異変が進んでいたのではないか

陥没は突然起きたように見える。
しかし、地下の空洞が一夜にして形成されたとは考えにくい。

土砂の流出、水の動き、腐食の進行。
それらは、長い時間をかけて静かに進んでいた可能性がある。

もしそうだとすれば、事故は「突然起きた」のではなく、「ようやく表に出ただけ」だったのではないか。


可能性③ 下水の“量”ではなく“質”が変わっていたのではないか

下水道内で硫化水素が発生し、腐食が進むこと自体は知られている。
だが、事故後に周辺で報じられている金属の変色や腐食が、通常の生活排水の範囲で説明できるのか については、十分な検証が示されていない。

下水の量だけでなく、中身(性状)が長年の間にどう変わってきたのか。
ここも、可能性として無視できない。


可能性④ 住民が感じている変化は、単なる「不安」なのか

事故後、周辺住民からは、車や屋外設備の金属が腐食・変色しているという声が出ている。

こうした声は、しばしば「不安」として処理される。
だが、生活者の実感は、現象の初期兆候を含んでいることも多い。

どの範囲で、どの物に、いつから変化が出たのか。
住民の声そのものも、検討すべき対象ではないだろうか。


可能性⑤ 資源の流れを変えた「保護貿易的な判断」は、影響していないのか

ここから先は、推測の域を出ない。
だが、最初から除外してよい話とも思えない。

かつて、日本から海外へ流れていた使用済み製品が、海外の劣悪な処理環境で大地を汚したことが問題となり、国際的な枠組みを根拠に、海外への流出が強く制限されるようになった。

その過程で、非鉄リサイクル業界の働き掛け により、使用済み製品を国外に出さず、国内で処理する方向へ舵が切られた。
結果として、日本は事実上の 保護貿易的な構造 を取ることになり、それまで海外に向かっていたものが、国内に滞留するようになった。

この判断が正しかったかどうかを、今回は論じない。
ただ、資源の流れが変われば、影響が現れる場所も変わる という点だけは、冷静に押さえておく必要がある。


可能性⑥ 規制をかいくぐる動きと、「取った後に残るもの」

輸出が難しくなれば、次に起きるのは、規制を正面から破るのではなく、形式を整えたうえで海外へ持ち出す という動きだ。

では、海外に持ち出されるのは何か。
そして、その後、日本に残るのは何か。

価値のある部分が抜き取られ、残りが国内で処理される。
もしそうした構図があるなら、その「残り」は、これまでと同じ性質、同じ影響で済んでいるのだろうか。


ここまで、いくつかの可能性を挙げてきた。
どれが正しいかは、現時点では分からない。
だが、少なくとも「老朽化」という一言だけで済ませてよい話ではないという点については、多くの読者が違和感を覚えるのではないだろうか。

本当の理由は、
設備の問題か。
下水の問題か。
資源の流れと保護貿易的な判断の問題か。
それとも、私たちが「考えなくなっていた」ことそのものなのか。

年明けの次回は、
今回挙げた可能性のうち、筆者が伝えたい
⑤ 資源の流れを変えた保護貿易的な判断
⑥ 規制をかいくぐる動きと、その結果として「取った後に残るもの」
について、あらためて整理してみたい。

答えを急ぐためではない。
問いを、誤った場所に置き続けないために。

 

環境リサイクル業界専門ライター 利祭来留夫)

 

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