2026年1月21日から23日にかけて、東京ビッグサイトにて第18回オートモーティブワールド クルマの最先端技術展が開催された。本稿では、22日に行われたセミナー「スズキの技術戦略 人と地球に寄り添う」の内容について報告する。
スズキは四輪車、二輪車、船外機、電動車いすをはじめ、空飛ぶ車や電動バイクなどの次世代モビリティなど幅広い製品を展開している。現在、スズキは世界11か国で四輪車シェア1位を獲得しており、特にインド、ブータン、パキスタン、アンゴラなどで高いシェアを持つ。一方、これらの地域では経済的に車を持つことが容易ではない現実もある。スズキはこうした地域事情を踏まえ、世界の人々に寄り添いながら生活を豊かにするクルマを届けることを使命として技術開発に取り組んでいる。
カーボンニュートラル社会の実現に向けて電動化が加速する中、EVやHEV、BEVの車両価格の上昇によって普及価格帯の車が市場から失われる懸念が指摘されている。スズキはクルマ高機能化だけを追求するのではなく、誰もが手に取りやすい価格帯でのクルマづくりを重視し、多くの人が移動の自由を失わない社会の実現を目指している。
エネルギー極小化を軸にした技術戦略の全体像
スズキの技術戦略の中核にあるのが、エネルギーの極小化という考え方である。小さく、少なく、軽く、短く、美しくといった「小・少・軽・短・美」をキーワードに、車両のライフサイクル全体でエネルギー消費を抑えることを目標としている。これは温室効果ガスの排出量が少なければ、その分だけ相殺に必要なエネルギーも少なくて済むという発想によるものである。
車両の軽量化は燃費向上だけでなく、レアアースや金属資源の使用量削減、道路やインフラへの負担軽減、さらには車両リサイクル時の環境負荷低減にもつながる。スズキの車両は業界平均の車重が1,261kgであるのに対し、日本市場では平均892kgと大幅な軽量化を達成している。日本、インド、EUでは車重を200から300kg軽量化することで、製造時のエネルギーを約20%、走行時のエネルギーを約6%削減できるとしている。
インド市場については、2030年に向けた再生可能エネルギー比率の上昇や電力効率の改善により、BEVやSHEVのエネルギー効率が向上する見通しが示された。一方で、現状では石炭火力発電の比率が高く、ライフサイクル全体で考えると再生可能エネルギー比率が37%であればFEVがBEVやSHEVと同等、49%以上でBEVやPHEVが優位になるという分析結果も紹介された。スズキは、こうした地域ごとのエネルギー事情を踏まえ、電動化にこだわらない最適な動力の車を提供していく方針である。
スズキのエネルギー極小化戦略は軽くて安全な車体、高効率な内燃機関と電動化技術、サーキュラーエコノミーの3つを柱としている。車体については、アルトを対象に安全性を維持しながらコストを抑えた軽量化を進めており、すでに80kgの軽量化を達成し、将来的には100kgを目標としている。このアルトを題材とした開発成果は、今後すべての車種に展開される予定である。
内燃機関ではミラーサイクルや高速燃焼、高圧縮比化といった技術開発を進め、最大熱効率40%を達成。2030年までには最大熱効率50%を目指している。加えて、バイオエタノールなどのカーボンニュートラル燃料に対応したフレックス燃料車の市場投入も検討している。電動化技術では軽量化と高効率化、共通ユニット化を進め、軽自動車にも搭載可能な世界最薄の48Vハイブリッドシステムを開発している。必要十分な機能に絞り、使われない装備は搭載しないという思想が貫かれている。
また、サーキュラーエコノミーの取り組みとして、樹脂部品への再生材活用や回収スキームの構築、材料統合や分解しやすい設計を基本としている。実験段階では、自動車由来の二酸化炭素を回収し、農業分野で活用する取り組みも進められている。
電動化時代における内燃機関とモビリティの未来
次世代モビリティ社会を見据えると、日本では高齢化に伴う免許返納や交通格差、労働人口減少による物流現場の人手不足といった課題が顕在化している。スズキは原点に立ち返り、車の本質的な価値を極大化することを軸として誰にとっても使いやすく、買いやすいモビリティの開発を進めていくとしている。
自動配送モビリティやインフラと連携した自動走行システムなど、新たな分野にも挑戦していく方針であり、移動の自由を守るための選択肢を広げていく考えである。こうした挑戦を支える基盤として、人の熱量を極大化する取り組みも重視されている。スズキ未来R&Dプロジェクトでは、ものづくりコンテストやコミュニティ活性化を通じて、技術者の挑戦意欲を引き出している。
スズキは人の熱量を原動力に、本質的な価値の極大化とエネルギーの極小化を両立させ、人生に寄り添うモビリティを開発していく考えである。
本講演は電動化が前提となりつつある自動車業界の中で、スズキの戦略は技術トレンドを追うだけでなく、誰のための車なのかという問いに真正面から向き合っている点が印象的であった。軽さや効率を軸にしたアプローチは、カーボンニュートラルと普及性を同時に成立させる現実的な解であり、今後のモビリティ議論において重要な示唆を与える内容であったと言える。
(IRuniverse Midori Fushimi)