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元鉄鋼マンのつぶやき#153 マツダについて考える その3

2026/02/06 11:24
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元鉄鋼マンのつぶやき#153 マツダについて考える その3

マツダのエンジンを語る上で、外せないのがディーゼルエンジンです。かつてディーゼルエンジンは乗用車には向かないとされていました。排気ガスに混じるHC(煤)は公害の象徴のように見られます。40年ほど前、日産など複数の会社はディーゼルエンジン搭載の乗用車を販売しましたが、あまり売れませんでした。排気管の周囲は黒く煤け、白い車体に拭いても取れない汚れを付けていました。

 

それでもディーゼルエンジンの車に乗り続ける人には、一種の拘りがありました。筆者の出身大学の機械工学科におられた下郷教授は、「オットーサイクル(ガソリンエンジン)とディーセルサイクルのP-V線図を見てみたまえ。ディーゼル機関の方が、熱効率がいいのは一目瞭然じゃないか。つまり熱機関としてディーゼルエンジンは優れているのだよ」という解説をされていましたが、実際のところ、軽油の方がガソリンより安価だったことが大きな理由かも知れません。

 

それでも、低速時やアイドリング時のゴロゴロ音や、発進時や加速時に発生する黒煙は、乗用車に向いているとは思えませんでした。

 

でも言葉を変えれば、それらの欠点さえ補えば、ディーゼルエンジンは優れたエンジンと言えます。

 

ディ-ゼルエンジンの欠点に比較的鷹揚だったヨーロッパでは、それまでもディーゼルエンジン搭載の乗用車が普及していましたが、それを改善してクリーンディーゼルとして売り出すことにしましたが、見事に失敗しました。低燃費で排ガスもクリーンな日本のハイブリッドカーに対抗するためだったのですが、彼らが打ち出したクリーンディーゼルは不完全なものだったのです。

 

フォルクスワーゲンのデータ改竄は、一大スキャンダルとなり、欧州の自動車業界は方向転換を迫られ、今度はBEVに舵を切りました。BEVの分野では日本メーカーは遅れており、欧州車が有意に立てると思ったのでしょうが、今度は中国車に市場を取られ、欧州の自動車は急速に存在感を失いつつあります。大手各社は車が売れず、赤字経営に転落しています。

 

乗用車はファッション製品とは言いませんが、その市場は常にブランドイメージがものを言う世界です。敢えて悪口を言えば、ブランドイメージに頼って市場をコントロールしてきた欧州の自動車メーカーにとっては、安価攻勢を仕掛ける中国製BEVは一種のクロフネでした。

 

いやそれ以前に、BEV化することで、乗用車はコモディティ化し、誰でもどこでも製造できるユビキタス商品になってしまったのです。もともと中国には、技術的には未熟だったもののニッカド電池や鉛電池で動く二輪車や三輪車が普及していました。問題は電池の性能だったのですが、中国企業がリチウム電池を安価に大量生産することに成功したため、中国製のBEVは一挙に世界の市場を席捲することになりました。BYDは既にテスラの販売台数を超えています。しかし、実のところ、BEVの性能はまだ完全ではありません。厳冬期には北欧や中国東北部ではBEVの性能低下に苦しむ利用者の声が聞こえてきます。BEVの性能が内燃機関車に肩を並べるのは、まだ数年先でしょう。全ては、日本のハイブリッドカーを恐れ、これを忌避した結果ですが、愚かなことです。

 

話をディーゼルエンジンに戻します。商用車や大型車用に用いるディーゼルエンジンは残り続け、その改良は、常に続いています。欧州の自動車メーカーが取り組んだクリーンディーゼルプロジェクトは無駄ではなかったのです。

 

尿素水噴霧技術もその一環です。尿素水(商品名アドブルー)を排ガスに噴霧することで、黒煙(HC)の発生は随分減りました。昔は交差点で大型車が発進する度にもうもうと黒煙がでていましたが、最近はほとんど見かけません。

 

そもそも黒煙に含まれる煤を除去するなら、高温で煤を燃焼させればいいのです。しかし、排気ガスを高温にするとNOxが発生してしまいます。尿素水はそのNOxに噴霧してこれを水と窒素に分解してくれる訳で、これで煤もNOxも解決します。

 

30年ほど前ですが、筆者が製鉄所にいた頃、焼結工場の排ガスから発生するダイオキシンを何とか無くしたい・・と、技術者達が研究していました。ひとりの知恵者がアンモニアを排気ガスに噴霧すればダイオキシンの発生を抑制できることを発見し、早速開発を急ぎました。しかし、アンモニアを反応させると、ダイオキシンの代わりにシアンガス(青酸ガス)が発生することが分かり、研究を断念せざるを得ませんでした。あの時の担当者の残念そうな顔が忘れられません。結局、ダイオキシン対策は、排気ガスを急速に冷却してダイオキシン発生の時間を与えない・・という方法が取られました。

 

あの時、添加するのがアンモニアでなく尿素だったら結果は違ったかな?・・・なんてことを今でも考えます。ディーセルエンジンの排気ガス対策は、それだけではく、日本ガイシなどが開発した高性能のフィルターや触媒も寄与しています。

 

しかし、筆者はまだまだそれだけでは不十分だと思います。黒煙問題やディーゼルエンジンの燃費悪化は、主に発進時に発生します。だからその時だけ電動モーターでアシストするマイルドハイブリッドが非常に有効なのです。もともと大型車にはリターダーというブレーキシステムがあります。その内、磁気方式のリターダーは比較的小規模の改造で回生電流を取り出せるようになります。それをキャパシターやバッテリーに一時的に貯めれば、マイルドハイブリッドの出来上がりです。ディーゼルエンジンもレシプロのガソリンエンジンもロータリーエンジンも、本来、定速・定回転で運転すると効率が良く燃費も向上します。

 

ディーゼルエンジンのマイルドハイブリッド化は、省エネの点でも排ガス清浄化の点でも、運転のし易さの点でも、有利な対策であり、なぜ・・あまり進まないのか?理解できません。

 

マツダの話に戻ります。マツダは、ロータリーやガソリンのレシプロエンジンだけでなく、ディーゼルエンジンでも優れた技術を持っています。そしてスカイアクティブディーゼルで新しい世界を切り開きました。内燃機関に取り組む人は、熱効率をどうやって改善するかを考え、圧縮比をいかに上げるか、いかに燃焼室温度を上げるかを目標にします。これは容積型の内燃機関だけでなく、ブレイトンサイクル(ジェットエンジン)でも同様です。ガソリンエンジンに比べ圧縮比を高くできるディーゼルエンジンはその点有利なのですが、その分、重量は大きくなり、振動と騒音は大きくなり、乗用車には不適となります。

 

しかし、マツダの技術者は逆転の発想を持ちました。ガソリンエンジンに比べて劣るのなら、圧縮比を下げてガソリンエンジンに近づければ、それらの欠点は解消するのではないか?そこでディーゼルエンジンの圧縮比を下げて、騒音と振動をガソリンエンジンに近づけることに成功したのです(燃費はある程度犠牲になるでしょうが)。

 

その結果、スカイアクティブディーゼルはヒットし、マツダの経営改善に寄与しました。何より驚くのは、マツダのスカイアクティブディーゼルは、あの尿素水を必要としないのです。使わなくても、黒煙は出ず、エキゾーストパイプ周辺が黒く汚れることもありません。それでもアイドリング時の不快なゴロゴロ音は残りましたが、その後、振動を打ち消すメカニズムを取り付けることで、ある程度は解消しました。現在のマツダ3に採用されています。 全く違う技術ですが、40年前に三菱が振動を打ち消すためにサイレントシャフトを用いる技術を開発しました。サイレントシャフトは燃費をやや悪化させますが、ディーゼルエンジンにこそふさわしい技術では?と思ったことがあります。マツダの技術は同じ発想です。

 

欧州の自動車メーカーがクリーンディーゼルの開発を諦めたのに、マツダがクリーンディーゼルの開発に成功したことは、もっと注目されるべきだと、筆者は思います。ただ、繰り返しになりますが、マツダのディーゼルエンジンも完璧ではありません。煤がエンジン内に堆積してエラーメッセージが出る問題は、引き続き存在します。

 

そしてより大きな課題としてディーゼルエンジンのハイブリッド化があります。定速・定回転で発電用にディーゼルエンジンを駆動するシリーズ方式のハイブリッドは、ディーゼルにこそ向いています。筆者はロータリーエンジンを用いたシリーズ方式のPHEVもいいけれど、どうしてディーゼルエンジンを用いたハイブリッドの乗用車を売り出さないのか・・疑問に思います。

 

ロータリーはマツダ独自・・だと言いますが、それなら、尿素を用いないスカイアクティブディーゼルもマツダ独自の技術であり、他社と差別化したハイブリッド車を売り出すことができます。ひょっとして、マツダはシリーズ方式では飽き足らず、トヨタのストロングハイブリッド方式とディーゼルエンジンを組み合わせたシステムを作りたいのかも知れません。しかし、素人考えながら・・・これは難しそうです。

 

世界の市場を席捲したBEV化の流れは、一段落し、一頃の勢いがありません。ハイブリッド車やPHEVが今後も生き残れる可能性が高まっています。その中でマツダのハイブリッド戦略が気になります。

 

内燃機関の可能性の追究に賭ける技術者と、電動化も開発対象にすると主張する技術者の対立が漸くおさまったマツダがどの方向に向かうのか、経営トップの毛籠社長のお考えを聞きたいところです。

 

次報では自動車素材のリサイクルについて考えます。

 

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久世寿(Que sais-je)茨城県在住で60代後半。昭和を懐かしむ世代。大学と大学院では振動工学と人間工学、製鉄所時代は鉄鋼の凝固、引退後は再び大学院で和漢比較文学研究を学び、いまなお勉強中の未熟者です。約20年間を製鉄所で過ごしましたが、その間とその後、米国、英国、中国でも暮らしました。その頃の思い出や雑学を元に書いております。

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