日本の名だたるメーカーが定置用蓄電池(ESS:Energy Storage System)市場に続々と参入、あるいは事業を急拡大させている。日立製作所、GSユアサ、パナソニックをはじめとする日本メーカーの定置用蓄電池(ESS)市場への本格参入は、今後の市場シェアにどのような影響を及ぼすのか。結論から言えば、「グローバル市場での中国一強体制を揺るがすには至らないが、日本国内市場(特に重要インフラ領域)においては、確実かつ不可逆的なシェアの逆転現象を引き起こす」と予測される。
以下に、2025年から2026年にかけての最新の市場動向とサプライチェーン構造を踏まえ、専門的な視点から解説する。
1. グローバル市場:揺るがない中国勢の覇権と規模の経済
世界市場全体の視点に立つと、日本の国策的な動きが直ちに中国勢のシェアを奪うことは極めて困難である。現実的ではない。
2025年から2026年にかけてのグローバルESS向けセル市場は、依然として中国メーカーが上位を独占している。CATL(約29%)、BYD(約21%)の2強を筆頭に、EVE Energyや、急速にシェアを伸ばしている青山集団系のREPT BATTERO(瑞浦蘭鈞)などが市場を牽引している。
これらの中国企業は、以下の点で圧倒的な競争優位性を持っています。
LFP(リン酸鉄リチウム)の規格主導: 従来の280Ahセルから、より高密度な314Ahセル、さらには500Ah超の次世代セルへと市場の標準規格を次々と塗り替えている。
圧倒的なコスト競争力: 激しい価格競争と余剰気味の生産能力により、セルの調達コストは劇的に低下しており、コストを最優先する海外の大規模プロジェクトにおいて、日本メーカーが価格面で直接競合することは現実的ではない。
2. 日本国内市場:経済安全保障がもたらす「市場の二極化」
一方で、日本国内のESS市場においては、これまで中国勢が約半数のシェアを握っていたが、2026年以降、急速に地殻変動が起きている。政府の巨額補助金と「経済安全保障推進法」を背景に、国内市場は明確に「二極化」へと向かっている。
重要インフラ・公共セクター(国産回帰層):
電力系統の安定化を担う大型蓄電所や、官公庁の施設、生成AIを支える重要データセンターなどの領域では日本の国産蓄電池が採用されている。ここでは「有事の供給断絶リスク」や「サイバーセキュリティのリスク」が厳しく問われるため、中国製セルの採用が見送られるケースが増加している。結果として、GSユアサの「完全国産セル」や、日立の「国産SI・制御システム」を用いたパナソニック製等のシステムが、中国勢から確実にシェアを奪い取ることになる。
一般産業・民間セクター(コスト重視層):
自立的な再エネ導入を図る一般の工場や商業施設、あるいは投資目的の小規模な系統用蓄電所では、依然として初期投資の安さが最重視されます。この領域では、今後もBYDやCATLのシステムが強い競争力を維持し続けると予想されます。
以下に、日立製作所、GSユアサ、パナソニックのESSへの取り組みをまとめてみた。
日立製作所:インフラの巨人による「システム統合・制御」
日立は、電池セルそのものを一から自社製造するのではなく、強みである「システムインテグレーション(SI)とIT・AI制御」でESS市場を攻めています。
大規模蓄電所の稼働: 2025年8月に稼働した「松山蓄電所」では、日立グループ初となる国内向け系統用蓄電システムを一気通貫(設計・調達・施工・保守)で納入しました。
次世代の製造基盤づくり: 2025年末には、ジェイテクトなどと共同で蓄電池製造設備の共同事業体「Swiftfab」の設立(2026年4月予定)に参画。日本の蓄電池製造の競争力底上げを狙っています。
AIによる電力制御: グループの強みを生かし、需給バランスに応じた充放電を最適化するソリューション(HMAXなど)を展開し、インフラ構築の要として立ち回っています。
GSユアサ:「完全国産化」の筆頭格として巨額投資
GSユアサは、まさに国策と連動した「脱中国」を最も体現する強烈な動きを見せています。
700億円規模の国産化プロジェクト: つい先日(2026年2月)、同社の定置用リチウムイオン電池の開発・量産計画が経産省の「供給確保計画」に認定されました。総額約703億円(最大約248億円の国からの助成)を投じます。
脱中国宣言: 材料・セルから制御システムまで「すべてを国産化」する方針を明確に打ち出しました。2028年10月からの本格供給(年間2GWh規模)を目指し、安全性と持続可能性で海外勢に対抗します。
事業開発の加速: 2026年1月にはSustech社と共同で系統用蓄電所の事業開発を開始するなど、つくるだけでなく「運用・事業化」にも踏み込んでいます。
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パナソニック:「EV一本足」からの脱却とデータセンター特化
パナソニックグループ(特にパナソニック エナジー)は、これまでの「テスラ向け車載電池」中心の戦略から、ESSへの「リスク分散と高付加価値化」へと舵を切っています。
データセンター向けESSへの注力: 北米でのEV需要が一時的な踊り場を迎える中、2026年2月の決算発表などでも「エナジー事業をデータセンター向け蓄電池が支えている」と強調しています。生成AIの爆発的普及による莫大な電力需要とバックアップ需要を確実に取り込んでいます(2026年1月のCESでも大々的にアピールしました)。
家庭用・次世代住宅向け(GX ZEH): 2026年春には、2027年度から要件化される新たな環境住宅基準「GX ZEH」を見据え、家庭用燃料電池(エネファーム)と蓄電池・HEMSを高度に連携させる新製品を展開します。
3. 次なる競争の焦点:LFPエコシステムと「ブラックマス」の国内循環
日本メーカーが国内でシェアを奪還し、それを中長期的に維持するためには、「国内にセル工場を建てること」だけでは不十分。真の競争力は、上流の資源調達とリサイクル(資源循環)の自立化にかかっている。
現在、世界の定置用蓄電池の主流はNCM(三元系)からLFPへと完全にシフトしている。日本がこのLFP領域で脱中国を図るには、使用済みESSやEVから回収される「ブラックマス(有価金属の混合粉末)」から、リチウムやその他のベースメタルを国内で効率的に抽出・再資源化するクローズドループの構築が不可避。
まとめ
日本メーカーの攻勢により、世界全体のパイ(シェア)が大きく変動することはないが、日本国内の「安全保障上重要なセクター」においては、確実に中国勢を排除し、純国産ESSへのリプレイスが進むというのが市場の実態。
その背景にある「脱中国(経済安全保障)」の動きは極めて重要。定置用蓄電池は、再エネの普及や電力系統の安定化を担う「国の重要インフラ」である。現在、世界のESS市場はコスト競争力に勝る中国勢(CATLやHUAWEIなど)が席巻しているが、先述したように、日本政府(経済産業省)は有事の際のリスクを減らすため「蓄電池の国内サプライチェーン構築」を急務としており、巨額の補助金を投じて日本メーカーの「純国産化」を強烈に後押ししている。
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(IRUNIVERSE)