チタンについて、基本的なことをおさらいしておこうと思う。そもそも、チタンは大戦後に工業化された素材で、鉄鋼やアルミのように連続生産ができない。いまだにバッチ式で生産している。
まず、原料となるチタン鉱石は、純度によりルチル鉱石、イルメナイトと名称が変わる。いずれにしろ酸化物として地球に存在している。また、チタンはアルミとほぼ同時期に発見されたが、酸素の切り離しが難しかったことで、工業化に時間がかかった。ハンター法(ナトリウム還元法)で工業化されたが、コスト競争力に優れたクロール法(マグネシウム還元法)が現在の主流となっている。
現在主流のクロール法の生産工程は図表の通り。
図表、クロール法によるスポンジチタン製造工程

出所:IRU作成
原料のチタン鉱石を塩化炉に投入し四塩化チタンを作る。できた四塩化チタンは、いくつかの精製塔を通って純度を高める。ここで、中国の後発スポンジチタンメーカーでは、この設備を持たないところが多い。つまり、純度の低い四塩化チタンを化学メーカーから購入し製造しているのだ。当然、これらのメーカーは高純度のスポンジチタンが製造できないのは言うまでもない。
純度が高まった四塩化チタンは還元炉にてマグネシウムで塩素が還元される。この際、使われる炉をバッチと呼び、小さいものは2トンバッチから、大きいもので12-13トンバッチがある。バッチサイズが大きいほど量産が可能となるが、炉の温度管理や化学反応の反応速度の調整など、そこのノウハウがある。また、還元工程でできた塩化マグネシウムを、真空で分離するが、その設備を有していないメーカーがあったり、他の設備で代用するメーカーがあったりする。ちなみに、米国の特殊鋼メーであるATIが、かつてユタ州にあったスポンジチタン工場では、他の素材の還元装置を転用していた(当時、ATI社のデトロイトの工場に呼ばれ、その話を聞いた。高品質なものは日本のメーカーにしか作れないので、日本から購入せざるを得ないと言っていた)。
還元工程でできたのがスポンジチタンと言われるものだ。ちなみに、還元工程で塩素が飛び出し、穴が開いた状態なのでスポンジと言われるゆえんであり、決してスポンジのように柔らかいものでは無い。
このスポンジチタンは、全て同じ品質ではない、中心部ほど純度が高いものとなっている。表面はバッチの素材であるステンレスと接触することから、ニッケルを含有しているため、その部分は金属用としては使えないため、鉄鋼の高炉工程における還元剤として、使われる。ここで、中心部の体積を大きく全体の9割まで金属用に作れるのが日本のメーカーの技術力の高さである。同じ工程で半導体のターゲット材となる高純度チタンを作っているが、中国メーカーが製造する半導体向けの高純度チタンは、この工程では作れないのだ。中国メーカーが製造するスポンジチタンはその半分も金属用として使えないのだ。つまり10万トンの生産能力を有していても、その半分以下が金属用でしかない。
ましてや、純度の高いものを必要とする航空機向け、特にジェットエンジン向けは、中国メーカーでは安定的に供給できない。かつて社会主義だったソ連時代のように採算を無視すればできたが、ソ連崩壊後、西側諸国向けに参入したが、生産能力が半減したのは、このためだ。その後、ロシアは割安な水力発電を活用し、スポンジチタンメーカーとチタン展伸材メーカーを統合し、再び国有化するなどして、西側諸国への進出を果たし、航空機向けのランディングギアやジェットエンジンの非回転系まで納入できるようになった。ちなみに、ロシアはかつて世界最大のスポンジチタンメーカーであったが、彼らが、それほどチタンを必要としたのは、冷戦下でもあったため軍需用、特にオールチタンの原子力潜水艦を製造するのに、1隻当たり60-80トンの金属チタンが必要だったためとも言われている。西側諸国ではオールチタンの潜水艦が無いのはコストが高いこともあるが、静寂性に欠けるため。つまり、ロシアの原子力潜水艦は、オールチタンなので深く潜れるが、音で居場所が分かってしまう欠点があった。余談だが、日本の潜水艦は、日本製鉄などが得意とする電磁鋼板を使い、ステルス性を高めている。
なお、還元工程でできた塩化マグネシウムは、電気分解され再び還元剤などとしてリサイクルされるが、スポンジチタン製造時に最もコストがかかるのがこの部分だ。電力代が高い中国では、この工程を持っていないメーカーが多い。技術力のない会社は、ここでコストを下げることで安く製造している。このため、塩化マグネシウムを産業廃棄物として処理している。なかには、山積みにして放置しているところもあるようだ。
まとめると、中国のスポンジチタンメーカーは、生産能力の半分以上を、付加価値の低い鉄鋼添加用や脱酸用として販売し、残りの金属チタンにできる部分の大半を航空機以外の用途で使用している。中国内では、航空機や軍需向けに使われることはあっても、自国以外では使用されていない。実際、同国の貿易統計を見ても、航空機の製造が盛んな米国向けなどの輸出をほとんど見かけないのはこのため。
スポンジチタンとは名ばかり同じであっても、品質の違いから、その用途も異なるため、中国が世界最大のスポンジチタンを生産していても、高品質が求められる航空機向けで、中国がマーケットを牛耳る時代は、かなり先のことになるだろう。ただ、航空機以外の民生用の分野では、着実に実力をつけていることは事実である。チタンヘッドのゴルフクラブやチタン製のメガなどはそうであったように、最近では熱交換器の分野に中国品が顔を出し始めている。なお、言うまでもなく鉄鋼添加用や脱酸用は、生産量の多い中国メーカーに主導権がある。
(IRuniverse 井上 康 )