ロンドン金属取引所(LME)におけるアルミニウムの先物価格は、2026年に入っても歴史的な高値圏を維持しており、この世界的な価格上昇を背景に、中国のアルミ輸出額が記録的な水準に達する可能性が高まっている。現在の国際市場における価格高騰を支えているのは、単なる一時的な需給の不均衡ではなく、供給網の構造的な断絶である。ロシア・ウクライナ紛争の長期化によって欧米市場ではロシア産アルミの流通が実質的に阻害されており、物流費や保険料の増大、コンプライアンスリスクが貿易効率を著しく低下させている。さらに、エネルギーコストの二極化も深刻な影響を及ぼしている。欧州では天然ガス価格が高止まりした結果、ドイツやフランスで複数の製錬所が恒久的な閉鎖に追い込まれ、西側諸国における新地金の供給不足は数百万トン規模にまで拡大した。加えて、ギニアなどの主要産出国で資源ナショナリズムが台頭し、輸出関税や輸送障害が頻発していることも、産業全体のコストを上流から押し上げる要因となっている。
このような世界情勢の中で、世界最大のアルミ生産・消費国である中国は独自の市場論理を展開している。中国政府が掲げる「ダブルカーボン」政策による上限規制により、国内の電解アルミ生産能力は約4550万トンで頭打ちとなっており、水力発電に頼る雲南省などでは渇水期の電力制限によって稼働率が制限される事態も常態化している。しかし、中国のアルミ産業を真に変容させたのは、加工部門における圧倒的な生産能力の拡大である。過去5年間、中国はアルミ板、箔、形材、そして新エネルギー車用のアルミ合金分野に莫大な投資を行ってきた。国内の不動産市場が調整期に入り需要が縮小する一方で、拡大した加工能力は海外市場へと向けられ、2025年のアルミ材・製品の輸出量は過去最高の1000万トン規模に達した,。
中国の輸出急増には「二重の経路」が存在する。第一の経路は、国際価格と国内価格の差を利用した裁定取引である。LME価格が上海先物価格を恒常的に上回り、さらに人民元が弱含みで推移していることから、中国の加工企業にとって輸出は極めて魅力的な選択肢となっている。企業は相対的に安価な海外産アルミナを輸入し、自国で制御可能なエネルギーコストを活用して高付加価値な製品へと転化させ、欧州や北米、東南アジアへと大量に供給している。第二の経路は、欧米が課す貿易障壁への戦略的な適応である。欧州連合の炭素国境調整メカニズム(CBAM)や米国の通商拡大法232条といった規制に対し、中国企業は東南アジアや中東に拠点を設けることで対応している。これらの中間拠点を経由する貿易フローは、統計上は中国からの直接輸出には現れないものの、実態としては中国アルミ産業の国際競争力を示すものである。
世界的な需要に目を向けると、地域ごとに明確な分化が見られる。北米ではインフラ投資法や電気自動車(EV)向け需要が堅調であり、インドでは製造業の強化を背景に需要が爆発的な拡大期を迎えている。欧州においては、自動車産業の構造転換に伴う痛みがあるものの、太陽光パネルや送電線といったグリーン分野での需要がそれを補完している。こうした中で注目されるのが「グリーンプレミアム」の台頭である。LMEが低炭素アルミの取引プラットフォームを開設したことで、炭素排出量の少ない製品には通常地金に対してトン当たり30ドルから50ドルのプレミアムが付与されるようになった。これは、水力発電を利用する中国の雲南省や四川省の企業にとって大きな価格優位性をもたらす一方、石炭火力に依存する北部の生産拠点は輸出競争力を失うリスクに晒されている。
今後の展望として、2026年下半期から2027年にかけて、世界のアルミ価格は高値での乱高下が続くと予測される。供給の硬直性が解消されない中で、グリーン需要や軍事産業による在庫補充需要が下支えとなるからだ。中国の輸出が今後も記録を更新し続けるかどうかは、中国政府による輸出税還付の調整などの政策判断に委ねられているが、国内需要が停滞する現状では、輸出は依然として産業の安全弁としての役割を果たし続けるだろう。長期的には、アルミは金融商品としての属性を強めており、脱ドルの潮流の中で多くの投資ファンドがポートフォリオに組み入れ始めている。この資本流入が価格変動を増幅させる中で、中国は単なる供給者から、世界の需給を調整する「バランサー」としての地位を確立しつつある。今後2年間、アルミ市場はトレーダーや政策立案者が複雑に絡み合う、最もドラマチックな産業金属市場の一つとなるに違いない。
(IRuniverse編集)