核融合とは、水素のような軽い原子核を結合させてヘリウムのような重い原子核を形成し、その過程で膨大なエネルギーを放出する現象です。核融合では長寿命の放射性廃棄物が発生しないため、温室効果ガスを排出せず、クリーンでほぼ無尽蔵の、炭素を排出しないエネルギー源となり得ります。


英国に拠点を置くEUROfusionチームの欧州トーラス共同研究施設(JET)は、世界で最も強力なトカマク型核融合装置の一つですが、2024年にエネルギー出力で世界記録を達成し、重水素‐三重水素燃料を用いた信頼性の高い核融合発電を実証しました。
このチームによる材料試験、部品開発、ならびに核融合科学における取り組みは、フランスで建設中のITER計画の進展を加速させるとともに、核融合研究業界が核融合炉内で起こる現象をモデル化できる能力を有していることを示すものです。
太陽では、巨大な重力が核融合に最適な条件を作り出しますが、地球上で同じ条件を実現するのははるかに困難です。
核融合の燃料である水素のさまざまな同位体は、正と負の電荷をもつ粒子が混ざり合った電気的に帯電した気体であるプラズマを生成するために、太陽の中心温度の10倍にあたるおよそ1億5,000万℃という極めて高い温度まで加熱しなければなりません。プラズマは強い圧力の下でも安定した状態に保たれなければならないので、原子核同士が融合できるだけの十分な密度を持ち、かつ十分に長い時間閉じ込められている必要があります。
最も一般的な実験用核融合炉はトカマク型と呼ばれるもので、炉内に設置された強力な磁石を使ってプラズマを閉じ込めます。トカマクはドーナツ状(トロイド型)の構造をしており、その周囲に磁気コイルが配置されています。磁力によって粒子は炉の中を常に回転するように動かされ、プラズマが外に逃げ出さないようにしています。
ニッケル含有ステンレス鋼は、トカマクの製造において重要な材料です。フランス南部で現在建設が進められている国際熱核融合実験炉(ITER)は、これまで建設された中で最大規模の磁場閉じ込め型核融合炉(MCF)となります。
ステンレス鋼で製造されるイーターの主な構成部品は次の三つです:
プラズマを収容する真空容器は、316LN(S31653)で製造されています。この真空容器に使われる超電導磁石は、超電導状態を作り出し、プラズマを閉じ込めるのに必要な磁場を発生させるため、液体ヘリウムによって −269℃まで極低温冷却される必要があります。316LNが選定された理由は、磁気透過率が低く、高い強度を有し、極低温下での靭性および疲労耐性に優れているためです。
真空容器の内壁を覆う40基のブランケットモジュールは、ベリリウム、高強度銅およびステンレス鋼で構成されています。中性子遮蔽には、ホウ素を約2%含有するホウ素添加ステンレス鋼304B7(S30467)製の、厚さ40mmの遮蔽板が使われています。
真空容器全体を覆うクライオスタットは、二重認証材である304/304L(S30400/S30403)によって製造されています。クライオスタットは、真空容器に設置された超電導磁石のために高真空環境を作り出します。この高真空は、魔法瓶の壁のように断熱層として機能し、磁石システムの超電導状態を維持するために不可欠な低温を保つ役割を果たします。


316LNで製造された真空容器を構成する9つのセグメントのうちの1つ。完成した真空容器の重量は5200トンである。
新しいニッケル鋼により、原子炉の設計がよりコンパクトに
一方、中国では「中国高強度低温鋼1号(CHSN01)」と呼ばれる、新しいニッケル含有ステンレス鋼が研究者によって開発されました。この新素材は、316LNステンレス鋼が11.8テスラまでであるのに対し、最大20テスラの磁場に耐えられると報告されています。さらに、極低温環境においても引張強度が高く、疲労耐性にも優れているとされています。
CHSN01がより強い磁場に耐えられるため、超高温のプラズマをより効果的に閉じ込めることが可能になります。磁場をより強くできれば、同じ量のプラズマをより小さな空間に閉じ込めることができるため、原子炉の中核部分全体の小型化が可能です。これはすなわち、原子炉の設計をよりコンパクトにできるということであり、建設に必要な設備の占有面積や使用材料の量を大幅に削減できる可能性があります。CHSN01は、Nitronic® 50(S20910)を改良した材料であると報告されています。

ニッケル協会とは
https://nickelinstitute.org/jp/
ニッケル協会は、全世界の一次ニッケル生産者から成る世界的な団体で、会員全てを合わせれば中国を除く世界の年間ニッケル生産量のおよそ85%を占めます。協会の使命は適切な用途でのニッケルの利用を促進、及び支援することです。ニッケル協会はステンレス鋼など現行及び新規のニッケル用途の市場を成長・支援を行うと共に、公共政策と規制の基本として、健全な科学、リスク管理、社会経済的便益を促進しています。ニッケル協会の科学部門であるNiPERA Inc.を通じて、人の健康と環境に関係する最先端の科学研究も実施しています。ニッケル協会はニッケル及びニッケル含有材料に関する情報を集約する拠点であり、オフィスをアジア、欧州、北米に設置しています。
