自然エネルギー財団メディアセミナー2 鉄鋼業界の改善の必要性と課題 アゴラエネルギーヴェンデ
2021年12月14日、東京都港区虎ノ門の東京虎ノ門グローバルスクエアコンファレンスにて公益財団法人 自然エネルギー財団主催のメディアセミナー「鉄鋼業の脱炭素化に向けて:欧州の最新動向に学ぶ」が開催された。これは欧州圏の鉄鋼業の状況を分析する事で、今後の脱炭素化と鉄鋼業界がどの様に向き合っていくかという方針を探っていくものである。
今回の記事ではアゴラ・エネルギーヴェンデ 産業部門プロジェクトマネージャーのウィドウ・ウィチカ氏(Wido Witecka)ウィチカ氏の発表と、質疑応答で掘り下げられた内容を見ていく事にする。
脱炭素化に向けての製鉄アプローチ ウィドウ・ウィチカ氏
「岐路に立つ世界の鉄鋼 世界の鉄鋼セクターが2020年代にカーボンニュートラル技術に投資すべき理由」と題された講演は2021年11月に発表された報告書の和訳となっている。
現在世界の鉄鋼セクターは大きな岐路に立たされている。というのも、2050年までに既存の石炭ベースの高炉の実に71%が運用寿命を迎える試算が出ているからだ。
このため大規模な再投資が必要となり、また運用寿命が15~20年と長い事から2030年頃までの投資判断が必要とされている。
現在直接還元炉や電炉の設備容量は増えており、2021年では世界全体で60Mtに及ぶ。
プラントの新設を行えば、CO2排出量の低い鉄鋼業に既存の雇用枠をシフトさせられる点もメリットと言えるだろう。
ここからは各地域の様相を見ていく。
欧州連合では高炉の一部が運転寿命を迎えるため、2030年までに30Mtの水素直接還元プラントを建設するという発表がなされている。
2030年にはEUの高炉の70%が運転寿命を迎えるとあって、この地域の流れは迅速である。
一方日本では2030年までに石炭ベースの高炉の77%が運転寿命を迎える事となる。
しかし現状生産能力が過剰と見なされているため、更新されずに停止されるという見方が固まっている状況だ。
アメリカでは二次鉄鋼の生産能力を増強する方向に投資しており、これは二次製鉄のアメリカのシェアが68%という高い割合を占める事に由来する。
高炉の90%以上が2030年までに寿命を迎える流れであり、現在幾つか直接還元(DRI)プラントが建設される動きが見られている。
オーストラリアの動きは非常にユニークである。
国内の鉄鉱石資源と安価なグリーン水素を組み合わせた場合にグリーン水素を使用した直接還元鉄の輸出国となる可能性を秘めているとされている。
欧州のスウェーデンは世界的な脱炭素鉄鋼業のフロントランナーと言える状況にあり、2030年にはグリーン鉄の製造能力は高まっており輸出国となるとされている。
最初の商業規模の水素直接還元プラントが2024年に操業を開始する予定であるというところも、この国の舵取りを見る事が出来るだろう。
今後世界的な動きを見せていく鉄鋼業の脱炭素化という流れに対し、どれだけ早く取り組む事が出来るかが競争力の大小を決定づけるという結論を以て講演が締め切られた。
質疑応答から見えてくる素材の課題
講演が終わった後に質疑応答の時間が設けられたが、技術的な課題や材料面の問題、そして実際の製品価格への反映状況などが取り上げられた。
以前注目されていた高炉-転炉法にCCUSを加える方法については「理論的な方法」であって、現在全ての鉄鋼メーカーで考えられてはいないという状況である。
これはオランダでのプロジェクトがこの方針から水素直接還元-電炉法にシフトした事が状況を物語っている。
また実際に再生可能エネルギー由来の水素等で作られた鉄製品は既存の製品に対し価格差が出るのではないか、という疑問も上げられた。
これに関しては政府によるメーカーへのカバーリング政策や既存事業への排出割当廃止による非グリーン鉄製品の価格上昇といった方法で釣り合いを取っていくであろうという流れを予想していた。
そして何よりも1000万トンと目される大量のグリーン水素の調達が現実的であるのかという点について疑問が投げかけられた。
これに対しては水素直接還元プラントは直接還元するだけならば、天然ガスで代替が可能でありある程度の量は還元剤が調達出来ると見込まれている。
また水素自体の用途が多岐に渡るため、この全てを鉄の生産に回すのではなくカテゴリーごとに水素を選択的に投入するのが現実的であるとされた。
これから鉄鋼業の脱炭素化は進んでいくだろうが、やはりユーザーとして気になってくるのは実際に使用する側に対してのコストの上乗せや実現可能性といった問題だ。
特に水素の調達についても、それと並行して天然ガスが代替として使用可能である以上生産以外の用途でのいわば「取り合い」が加速していくものと思われる。
今後の値動きも気になる所ではあるが、それ以上に資源をどう確保し運用していくかが今後の鍵となっていくだろう。
(IRUNIVERSE ICHIMURA)
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