MIRUオンラインLiveReview 金余りと戦争で商品高は2か月は続く コンテナ需給もひっ迫続く
ロシアのウクライナ侵攻を受け、2日午後、IRuniverseはMIRUオンラインLive「緊急企画! 緊迫の商品市場!と海運、コンテナ貨物状況最前線」を開催した。講師の的確な分析に約70人の参加者から多くの質問が出され、熱のこもった討議が続いた。
1984年から世界のマーケットを観察し続け、洞察力に定評のあるベテラン金融アナリストの川上敦氏が商品市場を、20年の経験を持つ晋商ロジスティックス社長の梶川晋太朗氏がコンテナ貨物の最新状況について解説した。
川上氏は、全体状況として、ウクライナ侵攻の有無にかかわらず、コモディティ市場が値上がりしやすい素地があると指摘。その背景として世界的な金融緩和でマネーが市場にあふれていると語り、端的なデータとして1980年には1対1だった全世界の金融資産と全世界のGDP(国内総生産)の比率は、2014年に4対1となり、足元では5.6倍程度にまで拡大していることを挙げ、コモディティ市場に資金が流れやすい構造を示した。
川上氏は、商品市場を総括して「ニッケルやアルミなど短期的に急騰している個別市場を除けば、大きく値を上げているのは、原油、金、食料くらいで、全体としてマーケットは意外に落ち着いていると感じている」と指摘した。
昨年12月初めにWTIが1バレル当たり70㌦弱だった原油は、足元で110㌦前後で推移している。今後の見通しについて川上氏は「戦闘の状況によっては120㌦程度をつけることはあるが、100㌦超えの高値は長続きしないのではないか」と語った。
その要因として、高値は原油供給を増やし、非OPEC諸国の増産や、米国のシェールオイルの稼働増などから、「米エネルギー情報局は2023年の原油価格62㌦台を変えていないのではないか」と見通した。また、IMFの見通しでは、サウジアラビアの財政が均衡する原油価格は2022年で72㌦台。現状でサウジアラビアの懐はかなり潤っており、OPEC+が現状の高値を続ける必要は必ずしもなく「2~3ヶ月のスパンでOPEC+の行動が変わってくる可能性は十分あり、原油不足は落ち着いてくると考えるべきだ」と分析した。
一方、金はウクライナ侵攻で足元は1トロイオンス2000㌦に迫り、「有事の金」の様相を呈している。一方「有事のドル」とはなっていない。川上氏は、米国の貿易収支が史上最悪レベルの大幅マイナスが続いていること、財政収支も大幅に悪化し、債務残高が増え続けていることを指摘し「米ドルの基軸通貨性に疑問を持つ声が増えてきている」として、その代替として、マネーの流れが金に向かうことは十分考えられるとして、「2200㌦程度まで上昇してもおかしくない」と見通した。
一方、株式はNASDAQが最高値から20%近く下落するなど、調整の色合いを強めている。「終わりの始まりと評するアナリストもいるが、私の見方は違う。NASDAQの1年先の利益水準は依然として増益見通しで、20%下げ程度であれば、金利先高などから来る調整局面で、バリュエーション調整とみなしてよい」と語った。
参加者から「金融資産がGDPの6倍近くでマネーがじゃぶじゃぶなのに、期待インフレ率が2%台半ばのままで、マーケットがインフレを見込んでいないのはなぜか」という質問が出た。川上氏は「シェールガスは世界の埋蔵量が260年分という試算もあるなど、いざとなれば、原油資源はあるという割り切りがマーケットにあるのでは。加えて、デジタル革命で生産性が非常に上がる時期に入っている。デジタル革命でいろいろな工程が短縮化され、生産コストが高くならないためにインフレになりにくい」と分析した。
続いて講演したのは、晋商ロジスティックス代表の梶川晋太朗氏。最盛期にコンテナで月1000本の物流量があったが、運賃高騰とコンテナ不足、さらにリサイクル材料へのさまざまな規制で、現状は最盛期の10分の1程度にまで減っているという。
梶川氏のテーマは二つで、最初は「廃プラスチックの輸送規制について」。
全面的に廃プラが輸送停止になっているわけではなく、世界3位の船会社CMA-CGMが先月、6月から廃プラの全面輸送停止を表明した。
CMA-CGMのアジアブランドはCNC。廃プラ規制は世界で一律適用される。実際に、台湾向けの洗浄済み破砕PETは、メーカーで直接使うものだったが、あっさりはじかれた。
現状はCGM1社だけだが、近年のマイクロプラスチックに注目が集まっていることなどから、ヨーロッパから廃プラ規制がアジアに波及してくる可能性もゼロではないと懸念している。
続いて、本題のコンテナ物流について。
コンテナ運賃(20ft)は、指標を取り始めた2009年と比べ足元で5倍程度に上昇している。最安値の2016年3月で09年の半額以下。徐々に切り返し、2020年から2000ドル台に乗り、21年7月に4000ドル、12月に5000ドル。これが現状で、まだ下落傾向には至っていない。
コンテナ不足が慢性的に続いている。欧州、欧米、中東に関しては運賃は過去最高水準で推移している。船会社が年間契約などで運賃を取り決めたのに、契約途中で一方的に打ち切って高い運賃を適用する、背任行為ともいえる行動が横行していたが、現状はさすがに少し落ち着いてきたとみている。
コンテナ不足の主因は、日本からもアジアからもアメリカ行きばかりで、逆の流れがない。しかもコロナ禍の給付金漬けで、荷役の労働者が現場に戻って来ず、コンテナが滞留しているのが大きい。アメリカ西海岸の待機船の数は昨年末で100隻、今でも70隻。現場労働者が戻ってくれば滞留も減るが、そのタイミングは読めない。運転手、倉庫のワーカーもいない。
船会社がこの数年の赤字基調を埋めるべく、強気の運賃を提示したのも、もちろん大きい。収益を見ると、昨年度上半期だけで、前年の通期に匹敵する売り上げを示している船会社も多い。
中古船の売買マーケットを見ると。タンカー、バルカーは直近で少し下げが目立つが、コンテナ船は全く下がらない。船主が非常に強気の値段を運航会社にぶつけていて、値段を下げない原因になっている。
コンテナ製造は9割を中国が担っており、不足が解消されるのは2024年ごろになるのではないか。
質疑応答では、ウクライナ侵攻の影響についての質問が相次いだ。
ウクライナの港オデッサは戦火で閉鎖。ロシア向けでは、ONEはすでに一部停止。韓国系はオープンにはしていないが、新規受付を停止している。経済制裁で銀行間決済が今後できなくなる見通しのため、商品決済全般が滞るだろうから、ロシア向け物流全般が止まるのではないか。
日本車の輸出拠点となっているウラジオストックでは、現在通関手続き中のものを除き、新規受付はすでに停止されているという。
(IRUNIVERSE Hatakawa)
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