日本の銅製錬のビジネスモデル再構築への懸念
銅製錬の技術は世界ではフィンランドのオートクンプ社(当時の社名)が開発した自熔炉という溶鉱炉タイプの炉で炉頂部から銅鉱石をフラッシュイングし高温炉内で硫化鉱を酸化する非常に高効率の炉が日本では大半の企業が採用し、更に炉は大型化されてきた。オートクンプ炉の試験炉を開発したのも古河鉱業(当時の社名)で日本が実用化を開発してきたと言っても過言ではない技術が経済的にも優勢を誇ってきた。
この流れに唯一賛同しなかったのが三菱金属鉱業(当時の社名)で、当時は反射炉と言う細長い平型の大型炉で操業していた。炉の平面積が非常に大きい為炉の熱損失も大きかったが、唯一炉内の硫化鉱の溶解速度が非常に遅い為、炉の操業は安定した炉であった為と思われるが、自熔炉への転換など新たな挑戦には参加しなかった。
しかし問題は大きな平炉の為、炉外からの空気のリークも多く硫酸製造に必要な亜硫酸ガス濃度に達しないなど環境面の課題が残された。当時は銅製錬では空気に酸素を混入する技術も盛んに行われ、酸素製錬技術も進歩していた。
銅製錬所の環境問題の課題は、製錬炉だけではなく、製錬炉以降の次の設備が転炉と言う、円筒炉が横になっている炉で銅製錬炉から生産される銅マットを大型のレードルと言う鋼の容器で製錬炉から転炉まで輸送される工程であった。
輸送中のレードルからは亜硫酸ガスが大量の工場内に漏れて作業環境は非常に問題な工程が続いていた。つまり製錬炉の工程と転炉の工程がバッチプロセスで繋がっていた。
日本の銅製錬の主要設備
上記のAが大半の日本の銅製錬であり、Bが昔の小名浜製錬でCが直島製錬所である。直島では大型の洗面器の様な形状のS(Smelting Furnae)炉に銅鉱石と酸素をランスで吹き込んで急速溶解し、次にスラグクリーニング炉でスラグを除去し、3番目のC(Converting Furnace)炉で粗銅まで仕上げる連続炉が開発されてきた。
小名浜製錬所は、かつて2基の反射炉で操業していた。2007年反射炉1基を三菱連続製銅法のS(Smelting Furnace)炉に置き換えた。反射炉をS炉に置き換えた理由は不明であるが、反射炉を銅鉱石だけでなくシュレッダーダストの燃焼炉として使用する場合、シュレッダーダストは燃料代替や含有する金属の回収にも繋がるが、同時に大型炉ではあるがシュレッダーダストの燃焼により銅鉱石の溶解に影響を及ぼし炉の銅鉱石処理能力に悪影響があると推定される。
これほど長い期間反射炉を保有し続けられた背景には、燃料を多く消費する熱効率の悪い炉へ各種の燃料代替が果敢に行われてきた事や、やはり昔の製錬法ではあるが操業が安定している事も想像される。燃料代替ではタイヤ乾留炉が開発され、渡辺賞の対象にもなって表彰された実績もある。
タイヤ乾留技術はその後のシュレダーダストの処理でも生かされたのでなないだろうか。
日本では、上記表の3タイプの製錬炉しか稼働していないが、中国では独自の銅製錬法が開発されている。中国で注目されるのは底吹炉である。投資額が小さいコンパクトな炉の様である。製錬工程と転炉工程が同一炉で行われているかも知れない。この炉は転炉の機能が付いていると仮定するとスクラップ処理でも有効な炉かも知れない。
日本の銅製錬が今後どの様な変貌をするのかは、全く知見が無いが、JX金属が銅生産の半量をスクラップベースに転換するとの情報を元に想定すると、殆どの非鉄製錬所はJX金属の流れにあると仮定できる。
その場合、やはり副原料であったスクラップなど、市場から購入する原料の形態が問題になると思われる。JX金属ではスクラップをサイコロ状にプレスして炉内に装入し易くするとの情報がある。
今後日本の銅製錬はどの様な変貌が想定されるのだろうか。銅製錬の専門家でもない筆者が僭越ながら、大胆に次の課題があると想定する。
今後の日本の銅製錬の大きな課題
日本の銅製錬ビジネスは今新たなビジネスモデルの再構築を求められていると言っても過言ではない。あらゆる金属がリサイクルされる時代になる事は明確な流れである。今後リサイクル市場は大きく変貌する。リサイクルできない材料は使用できなくなる。
その点で銅は比較的今後アルミと競合して市場が拡大する。だが銅しか処理できないビジネスモデルが生き残れると思えない。あらゆる金属を対象にしなければその業界の将来は暗いと言わざるを得ない。
(Tomoki Katagiri)
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